第10話 魔王様、襲撃者を撃退する
「メェェェェェ!」
目を覚ましたにはメェ子に鳴き声でだった。
かなり近いところで聞こえたメェ子の鳴き声で目を開けると、視界いっぱいにメェ子の顔が。俺が目を覚ましたのを確認したのか、メェ子はふんと鼻息を立てると離れていった。
「ハルト、そろそろいくぞ」
「あ…あぁ」
すでにタート、マイアは起きていて、スラ美は消えていた。
「ハルト、メェ子に荷物を背負わせてくれ」
昨日買った塩と小麦粉の麻袋を指さしつつタートが言う。マイアが目を覚ましたし俺が持てると言いたいが、おばあちゃんの家まではまだ距離がある。楽をできるならしたほうがいい。
麻袋の紐を少しほどき、うまくバランスを取りつつメェ子の背中に荷物を乗せる。なかなかバランスを取るのが難しいのだが、メェ子が早くしろと言わんばかりにこちらを見てくるプレッシャーもまたきつかった。
「タート、終わったぞ」
「後はマイアを乗せてやってくれ」
「タート様、私は歩けます!」
タートの言葉に間髪入れずにマイアが声を上げた。
「タート様が歩かれるのに私だけ楽をするわけには!」
「マイア、まだ体力が回復していないんだから無理をしなくてもいい。それと、俺とタートについて来れないとおばあちゃんの家に着く時間が遅くなってしまうんだ。これ以上遅くなるとおばあちゃんが心配してしまうから」
未だ納得していない感じのマイアを強引にメェ子に跨らせる。奴隷根性と言うと悪い表現かもしれないが、マイアは主人であるタートに少しでも迷惑にならないように努力しようとしているのだろう。
そんなマイアを面倒くさそうにタートが見ていると言うことは、そう言う思いが全く伝わっていないし、理解できていなさそうなのはわかる。
「さっさと行こう」
俺の手を掴んでタートは歩き出す。
何か急いでいるように感じるのは早くおばあちゃんの家につきたいからだろうか?
マイアと麻袋をメェ子が背負っているので息と同じくらいの速さで歩けているので、昼前にはおばあちゃんの家には着くはず。
何か別に理由でもあるのかな?と考えながら歩いていたら、いつの間にかおばあちゃんの家へ向かう道の分岐点に差し掛かっていた。ここまでくれば後少し、と思ったが、おばあちゃんの家への道ではなくそのまままっすぐタートが歩き続ける。
「タート、ここじゃ…」
立ち止まり言ったが、タートは手を掴んだまま無理矢理歩き続ける。
まさか塩と小麦粉おばあちゃんに届けないつもりなにか?
それともマイアを買った事を説明がしたくないから時間を稼いでいるのか?
でも、タートがそんな事をするとは思えない。
俺の視線に気づいたのか、タートはちらっとこちらを見ると、
「誰かにつけられている。奴隷商ならばばの家に行くのは危ない」
そう言う事だったのか。さすが魔王様、つけられている事を早い段階で察知していたのだ。
「昨日からずっとつけられていたんだ。どうしようか考えてる時にハルトが休もうと言ってくれて助かったんだ」
「そうだったのか、ごめん、俺全然気づかなかった」
「私は耳がいいからな」
ふふんと勝ち誇ったように笑ったタートを見て、いつものタートに戻ってきているなと感じた。街に行ってから、少しだけ落ち込んでるような、そんな気がしていたから。
「でも、どうするんだ?このまま歩き続けるわけにはいかないだろうし」
「もう少しだけ、ばばの家からもう少しな晴れたら仕掛ける」
「仕掛けるって、勝てるのか?」
「相手は6人、昨日と同じやつなら問題ない」
6人相手に問題ないと言ったタートに、俺は戦力にならないぞと伝えるべきか悩む。期待されてはいないとは思うが、一人頼むぞと言われても無理だ。
「タート、俺は…」
「まずいな、あちらから仕掛けてくる」
早口で言ったタートは、手を離すといつの間にか手に杖を持っていた。
「ハルト、メェ子から荷物とマイアを下ろしてくれ」
「あぁ、わかった」
素早く戦闘雷精に入りつつあるタートを横目に、メェ子からマイアと荷物を下ろす。早くしろと言わんばかりにメェ子が「メェェェェェ」と大きな声で鳴く。
ようやく麻袋を下ろし終えたところで、こちらに向かって走ってくる人の姿が見えてきた。
「おい、待て!」
と男の一人が言うが、すでにこちらは戦闘体制に入っている。
杖を地面に突き立て立つタートと隣に寄り添うメェ子からは並々ならぬ気迫を感じる。
「なんのようだ?昨日の奴隷商か?」
「奴隷商?そんな小物じゃないね、俺たちの依頼主は」
「そうか、ならいい。メェ子!」
タートに呼ばれたかと思うと、メェ子が猛然と走り出した。
「おい、ちょっと待て!」
男がそう言ったところでメェ子の突進を正面から受け数メートル吹き飛んでいった。勝ち誇るように「メェェェェェ」と高々と吠えたメェ子にに男の一人が短剣らしみ物を手に襲いかかるが、剣先はメェ子の羊毛に弾かれた。何が起きてるかわからないと言う顔をした男に、後脚一閃。メェ子の後ろ足で蹴られ、さっきの男同様数メートル吹き飛ばされゴロゴロと地面を転がったいく。
メェ子の活躍で六人いた襲撃者は四人に減り、少し焦りが見て取れる。
普通に考えて羊一匹に二人やられると言う状況は普通ではないか。
メェ子を相手にするのを不利と感じたのか、残った四人のうち二人がタートに向けて走り出す。
二人はまずいか、と思い足を踏み出そうとした時、タートがこちらを見ずに手で制してきた。さらに後ろにもっと下がれと。
そうこうしてる間に二人の襲撃者がタートに接近する。
武器は二人とも短剣、リーチはタートの方が長い。待ち構えるかと思われたタートは襲撃者に向けて踏み込んでいくと、まずは杖の薙ぎ払いで一人、その勢いのまま杖を振り上げ上段からの振り下ろしでもう一人も打ち倒す。タートが二人を相手にしている間に、メェ子はさらに一人を撃破し、襲撃者は気付けば残り一人。
「聞きたい事がある」
「な…なんだ?」
すでに戦意を喪失している襲撃者のリーダーは、その場にへたり込み震えている。
「依頼主は誰だ?」
「依頼主はいねぇよ。お前らを捕まえればリンカに売れると思ったんだ」
震えながら言う男の言葉に嘘があるかどうかはわからない。ただ、この状況で嘘を言えるほど肝が据わった男に見えない。
タートでは判断がつかないのか、こちらを見てくる。俺はうなづき、男の言葉が多分本当だろうと返事をした。
「わかった。一つだけ約束しろ、今後私たちに手を出すな」
「約束する!約束するから見逃してくれ!」
「いいだろう、ただ、約束を破ったら地の果てまで追いかけても罰を受けさせる。手を出すときは私が知る者かどうかよく確認しろ」
「わかった!わかっ…」
襲撃者のリーダーがそこまで言いかけたところで、タートが容赦なく杖を振り下ろす。ボコっと聞くだけで痛そうな音と共にリーダーは倒れ込む。
「手加減はしたぞ」
なぜか言い訳をするように言ったタートは、すでに倒した襲撃者たちをメェ子と共に確認して回っている。全員が気絶している事を確認すると、リーダーの懐から財布と思われる袋を杖で器用に取り出すと、手に取る事なくこちらに投げてくる。
「戦利品てことか?」
「ハルトといると少なからず金がいる事が分かったからな」
そう言いながらメェ子の頭を撫で闘いの労をねぎらうタート。
現在の状況を全く理解できず目を丸くしているマイアの手を引きタートの元へと向かう。
そういえば、今回はレベルアップ音が聞こえなかった。前回は二人倒して聞こえたのに、今回はメェ子と合わせて六人倒したのに。必要経験値が増えたのか?何か別な条件があるのか?未だにこの世界の決まり事がわからないなと考えていると、マイアと繋いだ手をタートに叩かれる。
「どうした?」
「これは私のだ」
マイアと繋いでいた左手を掴むとタートは怒ったように言った。
そう言う事を言うとマイアが震え上がってしまうだろと振り返ると、メェ子の背中に跨っているマイアがいた。メェ子の背中にはすでに麻袋が背負われている。誰が乗せたのか、まさか、メェ子が自ら乗せたのか?
こちらの視線に気づいたのか、メェ子は馬鹿にするように鼻を鳴らすとプイッとそっぽを向いたまま歩き出した。
「私たちも行くぞ」
繋いだ手を引っ張りタートも歩き出す。
色々あったが、ようやくおばあちゃんの家に戻れそうだ。
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