第5話魔王様、寝てる

俺はおばあちゃんにこの世界に来た経緯を一から説明した。といっても、説明できるのはタートに召喚されたことだけ。


「そうだったんだね。ハルト君を見た時に変な感じはしたのよ。服装とか」


納得したように頷いたおばあちゃんを見て、俺の服装がこの世界的におかしいことに気づいた。黒のTシャツにジーパン、おばあちゃんの服装と比べて違和感がありすぎた。


「後で息子のお古をあげるわね」


「ありがとうございます。それで、お聞きしたいのはこの世界の事で」


「どこまでわかっているのかしら?」


「全く何も知らないのです」


「召喚されてきたばかりではそうよね。タートちゃんもあまり詳しくないでしょうし」


どこにあったかしら、といい立ち上がったおばあちゃんは、後ろにあった食器棚の引き出しを開けて中を探し出した。


「あの、召喚魔法とかそういう魔法は存在するのですか?」


「まほうってなにかしら?なにかの決まり事か何かなのかしら?」


おばあちゃんは引き出しを探しながら返事をしてきた。やはり、タートが使う魔法は魔王か魔族だから使えるのかもしれない。もしくは、禁呪やその類か。


「あったわ!」


2つ目の引き出しから目当ての物を見つけたのか、おばあちゃんはなにか書かれた古い紙をテーブルの上に広げた。


「これは、少し古いけどここあたりの地図よ」


テーブルに広げられた紙は地図、茶色く変色し所々破けてはいるが見れなくはない。


「どこから説明したらいいかしら…最初からがいいかしらねえ?」


「はい、ほんと何も知らないので」


「わかったわ」


そう言うと、おばあちゃんは地図の真ん中を指し示し、ここが旧帝国の首都だった場所、その北が旧帝国の継承国である帝国、東が都市が自治権を持っている連邦、南が旧帝国の親族が王様の王国、西が旧帝国の貴族達がたてた共和国、と説明してくれた。

わかりやすく国割を言うと、四角いケーキを四等分し、真ん中が旧帝都という感じで、変な国境線となっている。


「魔王、そのタートではなく、タートのお母さんが魔王だった時代はどうだったんですか?」


「魔王サートは、旧帝都に陣取り、一人で四カ国に睨みを効かせていたわ」


「一人で?」


「そう、魔王サートは部下を持たず、一人で100年近く戦い続けていたのよ」


「100年も?」


「そう…」


俺の問いかけに短く答えると、おばあちゃんは顔を曇らせ、手を組むとその手にどんどん力がこもって行っているように見える。


「今から30年前、連邦に一人の戦士が現れたの。その戦士は人々から勇者と呼ばれて、魔王と戦うために旧帝都に向かったと伝わっているの」


「勇者が魔王を…」


RPGにありそうな展開ということは、魔王は勇者に倒されたのだろうか。


「戦いは三日三晩続いたと伝えられてるけど…結果はどちらが勝ったかわからない」


「なぜですか?戦い続けたことがわかれば、終わりをだるかが見てるはずなんじゃ」


「戦いは誰も見てないの。4日目の朝には、魔王も勇者もいなくなっていたから」


「いなくなった…」


「戦いの後はあったようだけど、二人の姿はなく忽然と消えてしまったの」


サートの顛末を聞き、その時からタートは一人になってしまったのかもしれない。寝息を立てる現魔王はこの事を知っているのだろうか。


「あの、魔王がいなくなった方が生活が苦しくなったと聞きました。それはなぜなんですか?」


「魔王サートがいる間は、四カ国が力を合わせてサート討伐をしていたの。でも、いなくなった後は…」


「各国が争い出したんですか」


おばあちゃんは、小さくそうと答えると、また地図の真ん中、旧帝都を指さした。


「どの国も旧帝国の正統な後継国は自分たちだと主張しているの。後継国となるには、旧帝都を治めなければならないけど、そこには魔王サートがいたから協力して排除しようとしたの」


旧帝都を治めるため、時には協力し、時には敵対し、すでに三十年間血を血で洗うほどの戦いが起きている、ため息混じりに言ったおばあちゃんは地図を丸めると入れてあった引き出しに戻した。


「魔王がまた現れる事を望む声すらあるのよ」


「そんな人たちにとって、タートは希望なのかも知れませんね」


「タートちゃんには無理をしてほしくないわ。今が悪いからと言って、またが現れるのを望んではいけない…」


地図を引き出しにしまったおばあちゃんはまた椅子に座ると、俺のカップにお茶を注いでくれた。


「そういえは、人以外に種族というか、そういうのっているのですか?」


「ええ、北の山岳地帯にはドワーフが、東の山林地帯にはエルフが、南の湿地帯にはリザードマン、西の不毛な土地にはゴブリンやオークが住んでいると聞くわ。私はエルフとドワーフにしか会ったことがないけれど」


やはり魔王がいる以上亜人種もいたか、となんとなく4つの亜人種を思い浮かべる。タートが何かする時に、人ではなく亜人種が助けになる可能性が高いはずだ。


「その、エルフやドワーフなんかは、人と戦ったりしてるのですか?」


「エルフとドワーフはそれなりに友好的と聞くわ。ただ、ゴブリンやオーク、リザードマンは言葉が通じないみたいで、人に好戦的だという噂よ」


想像がつく亜人種像とピッタリだった。

ドワーフなんかは自分たちが作ったものを売りに来てたりしそうだし。


「もう少しお話をしたいけど、もう暗くなってきたわ。早いかも知れないけど寝ましょうか」


おばあちゃんにそう言われて外を見ると、日が沈んだのか薄暗くなってきていた。


「灯りはあるけど、もったいないでしょ」


灯り用の…油か何かだろうが、それだってタダではないはず。それに無理に灯をつけてまで聞く話でも無さそうだし。


「ハルト君は悪いけど、そこの長椅子でいいかしら?」


おばあちゃんが指さしたのはソファー。

この世界に来てからすでに2度目のソファー寝。

床や地面よりはマシだから文句はない。


「全然構いません、お世話になってる身ですから」


「悪いわね、一人暮らしだからベッドや布団の用意がなくて」


おばあちゃんはエプロンを外し、タートが先に寝ているベッドで横になった。


「まだ聞きたいことがあれば、明日聞くわ」


そう言うと、おばあちゃんはタートの邪魔をしないように器用に布団に潜っていった。


俺はおばあちゃんが用意してくれた薄がけを体にかけ横になる。

色々わかってきたが、何をどうすべきなのか。

俺がこの世界で何をしなければないのか。

元の世界に戻れるのか。

様々な疑問が湧いてきたが、どれ1つ答えは出ない。

考えるのをやめて寝ることにした。

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