第4話魔王様、老婆の世話になる

「この世界の事をもっと知りたい?」


朝食の焼き魚を食べる口を止め、タートは少し考えているようだ。

俺たちは昨日と同じ場所にいる。

昼寝のつもりが起きたら夜になっていたからだ。

タートは何も問題ないと動こうとしたが、俺は夜に灯りもなしに歩くのは無理だと言うとすんなりと受け入れ、またスラ美を枕に寝てしまい今に至る。


「一人だけ聞けるのがいるが、どこまで知っているかわからん」


「少しだけでも構わないから問題ないよ」


「そうか、なら、さっさと出発だ。今から行けば夕方には着くはずだ」


そういう時とタートは焼き魚を手に取り立ち上がった。


「ハルト、行くぞ」


「ちょっと待ってくれ。火の始末はきちんとしないと」


今にも歩き出しそうなタートを待たせて、素早く火を消す。山火事にでもなったら、世話になった髭大男に迷惑をかけるだろうから。


火の始末を終え、すでに歩き出していたタートに追いつく。横に並ぶと、ちらっとこちらを見て左手に持っていた焼き魚を奪い取り即座に自分の左手に持ち替えた。

ずいぶんと食べるなと思っていたら、今度はタートの方から手を繋いできた。


「ハルト、早く行くぞ」


タートはこちらを見てニコッと満面の笑みを言うと、手を引っ張り早足で歩き出した。


人里離れた獣道を歩き続ける事約半日。

ずっと元気なままな歩き続けるタートに引っ張られながら歩いているが、俺の体力はすでに切れかけ。

もう限界、と喉元まで出かけた頃、タートが立ち止まり前方を指さした。


「ハルト、着いたぞ」


「や…やっと…」


森に隠れるように、ひっそりと、まあ、髭大男の小屋に比べればかなりマシな家が建っていた。

だけど、辺りを見回しても村は見当たらない。

なぜここに住んでるのか、少しだけ疑問に思う。


「早く行くぞ、ばばに早く会いたいしな」


タートは繋いでいた手を離すと家に向かって駆け出して行った。

俺は走る気力もないので、重い足を引き摺りつつ一歩一歩家へと向かう。


「ばば、元気にしてたか!」


「あら、タートちゃんも元気にしてたかい」


タートが挨拶する声で顔を上げると、中世時代の絵画に出てきそうな、そんなおはあちゃんに抱きついていた。


「ばば、今日泊まっていいか?」


「ええ、いいですよ」


おばあちゃんに頭を撫でられながら、タートは俺の方を指さしてきた。


「ハルトも一緒だけどいいよな」


「ハルト君というのかい?」


視線を俺に向けてきたおばあちゃんは、少しだけ顔を曇らせたように見える。普通に考えて、警戒されるのは当たり前かもしれない。


「ハルトは私の配下だ。心配するな」


おはあちゃんの不安を打ち消すように俺の立場を説明したタートだが、改めて俺が配下というか、そう言う立場なんだと再認識した。


「配下?…そうだったわ、タートちゃんは魔王様だったわね」


ごっこ遊びの延長なんだと思ってたところに配下という男の登場。微笑ましい笑顔を向けてきているおばあちゃんは確実に俺もごっこ遊びに参加してるか巻き込まれてるか、どちらかだと思っていそうだ。


「タートちゃん、ハルト君、中に入って。お茶とクッキーを用意するわ」


招かれ中に入ると、髭大男の小屋とは比べ物にならないくらい綺麗で片付けられた室内だった。

ただ、家具類や食器の少なさから一人暮らしなのがわかる。こんな山奥に一人暮らし、そんな事を気にさせない明るさがおばあちゃんにはあった。


「さあ、どうぞ」


出されたのは、おばあちゃんが言った通りのお茶とクッキー。お茶は香りは紅茶に近いが無味、クッキーは少し甘みを感じる程度でボソボソしていた。

隣ではタートがクッキーを2枚口に放り込んではズズスッと音を立ててお茶で飲み下すのを繰り返している。


「よく食べるねぇ」


ニコニコしながらタートを見るおばあちゃんは、孫を見ているような暖かさがある。


「ごちそうさま、ばば」


ガチャッと音を立ててカップを置くと、タートは大きなあくびをした。目を閉じ小さく頷くと、椅子から立ち上がり部屋の隅にあるベッドに向かった。


「ばば、悪いがハルトにここあたりの事を教えてやってくれ。私は眠いから寝る」


そういうとタートは布団に潜り込み、早くも寝息を立て始めた。あの寝つきの良さは羨ましく思う。


「あらあら、疲れてたのね」


おばあちゃんはにこにこと放り投げられていたマントと杖を片付け、タートの寝る布団を整える。


「ハルト君は疲れてないの?」


「僕はまだ大丈夫です」


「男の子は強いわね」


おばあちゃんはお茶を入れたポットをテーブルに置くと、今度は俺の向かいの椅子に座り険しい顔でこちらを見てくる。


「何か訳ありだと思うけど、ハルト君は何者なの?」


やはりそこから始まるか、と言う感じだ。

まだ日が沈む前、話が長くなりそうだと俺は覚悟した。




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