第3話魔王様、レベルアップをする

「釣れないな」


「そうだな…」


髭大男の小屋を出て30分くらい歩いた場所に小川があったのでさっそく釣りを始めたのだが…すでに1時間近く過ぎたと思われるが、釣れる気配は全くない。


タートには薪集めをお願いしたら、すぐに集めてきた。なぜそんなに早いか聞いたら、「薪集めは慣れているからな」と返事が返ってきた。

タートがどんな暮らしをしてきたか気になるが、詮索するのは機が引ける。嫌なことを思い出させてしまうかもしれない。


「そうだ、タートはなにか魔法とかそう言うの使えないのか?」


「当然使えるぞ」


言うより早くタートが右手に持った杖をかざす。

少しの間をおいて、子犬サイズくらいの水色の塊が現れた。


「なにこれ?」


「スライムのスラ美だ」


「あぁ…スライムね」


スラ美と呼ばれたスライムは、タートの左手に絡みつくようにうねうねしている。

魔王であるタートの能力はスライム召喚なのだろうか?俺を召喚したことを考えると、召喚系が得意なのかもしれない。


「スライム召喚か、タートは召喚系が得意なのか?」


聞きながらスラ美の触り心地を、と思い手を伸ばし触れた瞬間


パァン!


と小さな破裂音を残して弾け消えて行った。


「ハルト⁉︎スラ美に何するんだ?!」


「おれ、その…触ろうとしただけで…」


「スラ美は脆いんだ。触るなら優しくしてくれ!」


「ごめん、気をつけるよ」


「私が出来るのはスラ美を召喚するだけだ。だから、ハルトにもスラ美に優しくしてほしい」


口を尖らせながら言ったタートは、大きく息を吸い込み、


「待つのは性に合わん」


と言うと立ち上がり、マントを脱ぐと下に着ていたローブを捲し上げ縛ると靴を脱ぎ捨て小川に入って行った。


「タート、魚が逃げるだろ!」


「釣れない魚を待つより私が捕まえた方が早い」


こちらを見ずに答えたタートは、右手を構えつつ、赤い瞳で獲物を探している。姿的には鮭を獲る熊そのもの。


ほんとに獲れるのか?、疑いつつも釣り竿を片付けて静かに待つことにした。

刹那、タートが水中に手を突き入れた!


「獲れたぞ」


言うより早くタートがこちらに魚を投げてくる。

サイズ的には…たぶん20cmくらい、見た目は鮎に似ている。か、一匹では足りない。


「そうか、こっちか」


水面を睨みつつ独り言を言ったタートは、ザバザバと音を立てて上流に向かう。

魚は逃げてしまってるよな、と思っていたら立て続けに水中に、右手、左手、と順番に突っ込んでいく。


「ここあたりは魚がいっぱいだ!」


タートは嬉しそうに叫ぶと、獲ってはこちらに投げを繰り返して、気づけば魚は八匹も獲れていた。


「ハルト、今何匹だ?」


「今ので八匹」


「もう十分だな」


最後と言わんばかりに大きな水飛沫を上げ魚を獲ると、タートは満足した顔で小川から上がってきた。


「さすが魔王様だな」


「前に素手で魚を獲るやり方を教えてもらってな」


「そうだったのか、なんにせよタートのおかげで飢え死にはしなくてすみそうだ。すぐ火を着けるからな」


火打ち石はあるし、薪はタートが集めてくれている。後必要なのは火口だけ。あたりを見渡すと、ススキのようなのが生えている。


「そんな物も食べるのか?」


取ってきたススキを見てタートは嫌そうな顔をしている。


「これは火をつけるときの種火用だから食べないよ」


「火をつけるのは大変だな。私は火をつけたことがないからわからなかった」


「じゃあ、獲った魚はどうしてたんだ?」


「そのままだ」


聞き返すより早くタートは最後に獲った魚に齧り付いた。3口ほどで魚を食べ切ると、


「この方が魚は美味い。焼いたのも嫌いじゃないけどな」


と言った直後、


テテテテテッテッテ〜ン


と言う音が聞こえてきた。

ゲームのレベルアップした時の効果音だ。

誰が、なんで、レベルアップしたのかわからないが、まずは火を起こすことに専念することにした。


「なんで魚を切ってるんだ?」


魚の内臓を取り出していたらタートが不思議そうに聞いてきた。


「俺は内臓が苦手なんだよ」


「ないぞう?なんだそれは?」


「あ〜、その、食べた物を消化して栄養を吸収する場所かな?」


「よくわからん」


タートは起こした火の前で横になると、暇になったのかまたスラ美を呼び出した。と言うか、スライム召喚はスラ美限定のようだ。


「あれ?お前、スラ美か?」


「どうした?」


最後の魚の内臓を取り終え顔を上げると、そこには先ほどより一回り大きいスラ美がいた。


「大きくなってないか?」


「なんでた?スラ美が成長したのか?」


タートがペタペタとスラ美を触りながら確認しているが、大きくなっただけでいつものスラ美と変わらないようだ。


魚を木の枝に刺し焚き木の周りで焼き始めてから、俺もスラ美を確認してみる。というか、前回は触れもしなかったのだが。


「あれ?スラ美に触れる」


元の世界で触ったことのあるスライムより少し冷たいが弾力はまさにそれ。なにより不思議なのがこれだけ触ってもスラ美は弾け散る事なく存在している。


「何か変化とかあるのか?」


「私は何も感じないけど…スラ美が強くなってるのは間違いない」


「まあ、食うか」


スラ美を調べている間に魚は焼けていたので一本をタートに手渡す。


「うん、焼いたのも美味いな」


ガツガツと言う効果音が出てそうな勢いで魚を食べているタート。魔王様の年齢はわからないけど、体型的には食べ盛りな感じがする。


しかし、なぜスラ美は強くなったのか?

俺も魚を食べながら、自問する。

さっき聞こえたレベルアップ音。

もしかするとタートのレベルが上がり、スキルなのか特殊能力なのかわからないが、スライム召喚のレベルも上がったと考えるべきなのか?


答えは出ないが、腹がいっぱいになりスラ美を枕に寝てしまったタートを起こすのは可哀想なので、俺も昼寝することにした。

この世界の事がさっぱりわからないからどこかで情報収集したいが、タートを連れていては難しいかもしれない。


考えいても答えが出る問題ではない。

今はタートと共に少しずつこの世界の事を知っていけばいい。そのうち、詳しい誰かに出会うかもしれないしな。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る