第21話 育つ暗雲

「ウリ。理央ってだれ? 妹ってホント?」

 ようやく追いついたウリの背中に向かってボクは声をかける。

「チキ。あれってNでしょ? なんで知り合い?」

 勢い良く振り返ったウリは、振り返った勢いのままボクに詰め寄った。


「なんでって言われても、大学が一緒なんだ」

「はぁ? あんな奴でも入れるの? チキの大学って頭のイイところじゃないの?」


 Nはチャラかったが、バカでは無かった。色々と要素を盛るコトになるが、インテリチャラマッチョだ。世渡りもうまく、先輩に可愛がられている。ウリに詰め寄られたボクは庇う必要もないのに、庇うみたいに早口でNについて語った。


「女をあてがってるからでしょ?」


 Nが先輩達に可愛いがられている理由をボクは考えた事が無かったけれど、言われてみればウリの言う通りかも知れない。しかし、なぜウリは発想をそこまで飛躍させる事が出来るのだろう。


「ウリ、Nを知ってるの?」


 歩き出していたウリは、また勢い良く振り向いた。


「知らないよっ!」


——知ってるな。

 非常に分かりやすい反応だった。


 この頃、Nはパン工場のバイトにほとんど顔を出していない。「人を紹介するだけでお金が貰える仕事」に力を入れていた。たまに工場に顔を出す理由は、の仕事のを物色しに来ているからだ。

 先ほどウリから渡された6万円。

 ウリを見た時のNの態度。

 Nと知り合いかを問われた時のウリの態度。

一つ一つの事象が積層されて、一つの大きな負の感情がモクモクと育つ。さながら上昇気流に引き寄せられて育つ積乱雲のようだ。


——夕立が来る。


 まだ暮れ切らない夏の街に、これから降るであろう、激しい雨の匂いをボクは感じ取っていた。



 ウリの喘ぎ顔を見上げながら、ボクはそんな、過ぎた夏の日の出来事を思い出す。


——今も、Nに男を紹介されているのだろうか?


 同年代なのか、中年なのか、老人なのか、顔のボヤけた男たちが、体形を変えながらウリの上に体重を預けて、腰を振っている姿を想像してボクは怒張した。それに合わせるようにウリは手の平を合わせて組み合わせた指に、ひときわ力を入れてからイキ果てた。

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ウリ 神帰 十一 @2o910

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