第14話 リセット

 病院に行こうと言うボクの提案を、ウリは頑なに拒否した。

「平気、はじめてじゃないし」

 病院に行くべき理由は、初めてか2回目以降なのか、そこが問題なのでは無い。ウリの腕には防御創が出来ていた。口の端が少し切れて、口の中もどうやら切れているようだが、幸い顔に大きな傷や痣は無かった。


「初めてじゃないっ⁈ いつも そんな激しいプレイをしてるの⁈」


 こちらは大真面目で心配しているのに、ウリはどうやら笑おうとしたらしい、ただ、笑おうとして痛みのせいで顰めっ面になった。


「いつ、ッツ! いつもな訳ないでしょ。変なこと言わないでよ。 身体が持たないよ」


 ウリはバスタオルにくるまれている。ひとまず部屋に入れたが、シャワーはまだ浴びていない。まるで素人のボクにはよく分からない事なのに、その時のボクは証拠が流れてしまったらどうしようと考えていたのだ。

 雨に打たれ続けられたウリは震えが止まらない。震えが止まらないのは、雨に打たれ続けたのだけが理由ではないだろうが……

 ボクはひとまず、「はい」と白湯を渡す。


「ありがと」


 口の中の痛みを避けながらウリは白湯を飲み干す。かと思ったら、おもむろに洗面所に行き口の中を濯いだ。洗面台の排水口に向かって、赤いマーブル模様の液体が流れて行く。それを見ながら頬をさするウリ。


「痛い」

「やっぱり病院に行こう」

「ヤダ、大丈夫」

 何度目の押し問答だろう。

「寒い」

「ウリ。警察にも……」

「っさいな。………ごめん。でもあいつ等は役に立たないっ」

 ウリは歯軋りをして、また痛みに顔を顰めた。

「ッテ、すぐ出て行くけど、も一回シャワー借りていい?」

 ボクはため息をついた後に頷いた。


 ウリのシャワータイムは長かった。昨夜、冷蔵庫で気を失うように寝たことを思い出して、様子を見ようかどうか迷っていたら、ドライヤーの音が聞こえて来たので、どうやら寝てはいなかったらしい。色々と念入りに洗い流したいものがあったのだろう。


 いつもシャワーを必要としているウリ。最初に会ったときもシャワーを必要としていた。

 などと考えながらシャワー室を出た後に、ウリの着替えを準備するのを忘れていたことに気がついた。

 ドライヤーの音がする洗面室に向かって大声で呼びかける。


「ウリ? ウリ?」

「なに? 開けちゃダメだよ」

「着替えは?」


「……ない。」


 ウリの着替えはずぶ濡れのはずだ。そもそもこの部屋を出る時点で乾いていなかったし、リュックも泥だらけのようだった。


「アァー、サッパリした。生き返った。ありがとう、チキ」

 

 バスタオル一枚で出て来たウリは本当にリセットされたようだった。


 ——強くてニューゲーム。

 そんな言葉が頭をよぎる。


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