第13話 レイプ

 ウリがあまりにも申し訳なさそうにするので、その姿にほだされた。と言えば良いのか、ボクは優柔不断な言葉をかけてしまう。


「べつにダメなんて言ってないでしょ?」

「でも、何も言わなかった」

「雨が……、」

「雨が?」

 問いかけて、ベットの上に立つウリがボクを覗き込むようにして先を促す。

「やまないな。と思って」

「だから?」

「大変だなと思って」

「なにが?」

 雨の様子を見てからボクは応じた。

「講義に出るのが」

 

 優しく柔らかい言葉をかけた結果、ボクは必要以上にウリを傷つけた。

 会話が途切れて、雨の音が響く。


「分かったよ。泊めてくれて、シャワーを貸してくれてありがとう。それに手を出さずにいてくれてありがとね。こんな親切な人もいるんだね」


 ウリはカバンと学生証を引ったくるように取って、パーテーションの向こう側に行ってしまった。残されたボクが溜息をついてベットに座ろうとすると、途切れない雨音の中、パチン、パチンと洗濯バサミから洗濯物を外す音が聞こえてくる。

 下ろしかけた腰を浮かして、向こう側に回り込む。


「講義の時間までは居ていいよ、乾いてないでしょう? せっかく洗ったのに」

「どうせ濡れる。どうせ乾く前に濡れるもの」


 ——確かに。


 ボクは壁に背中をあずけて、そこからでも見える外の様子をボンヤリと眺めた。


「着替えるから出て行ってもらっていいですか?」

 

 干した物を全て、手早くカバンの中に詰め込み終えた宇貫 理多が ボンヤリしていたボクを現実に引き戻す。


「あぁ、ゴメン。ゴメン」


 弾かれたように退散するボクの耳に、何か言っている声が届いたが、それは音声だけで言葉の意味を為していない。


 ——きっと、独り言だろう。


 自分にとって都合の良いことを考えながら、ボクはキッチンに向かう。


 着替え終わったあと、濡れて張り付く衣服の気持ち悪さを感じているだろうに、それをおくびにも出さずボクに一瞥をくれ。彼女は棒立ちしている間抜けな男の横を通って、雨の降る世界に出て行ってしまった。


 

 あっけなく日常が戻ってきた。

 一度は交わったが これで二度と交わることもないだろう。彼女はサブストーリー上のキャラだったのだ。彼女とのストーリーをアンロックしようがしまいが、メインストーリーに影響は無い。


 ——モブはモブだ。


 講義を受けて帰る時に、一コマだけ講義を受けて帰るのは効率が悪い。と言う思いを改めて強くした。60分の講義を聞くのに往復で20分をかけるのだ。コマ取りをしたのは自分自身だったが、どうにか責任を他に押し付けられないか、大学の位置や、借りた物件の地理的条件に問題が無いか考察してみた。結果、選んだのは全てボクで 誰のせいにも出来ないことが分かった。

 ため息をついて、昨日 家出少女が座っていた紫陽花の植え込みの辺りまで来ていた。彼女が濡れた花のように座っていた場所を見る。今日は誰もいない。


 —— ......自業自得。


 部屋に戻りゲームの続きをしていると、インターホンが鳴った。

 ゲームが面白いところだったので、しばらくのあいだ無視をしていたが、諦めたと思った頃にまた鳴った。根負けしてインターホンの画面を確認してみると、破れた服を着て、口の端から血を流している。明らかにレイプされたウリが立っていた。


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