第5話 白桃

 手を伸ばして、ウリの頬に触れると、ウリはくすぐったそうに、布団の中に顔を隠してしまう。ウリの寝息と、外の秋雨の静かな音が ボンヤリとした光の中、部屋に響く。

 —— 喉が渇いた。

 水を取りに行こうとして、下半身に何も身につけていない事に気が付いた。

 —— 果てるようにして、寝たのか。

 ボクらは時々、結合されたまま眠ってしまう事がある。それほど長い時間ではないし、微睡むような感覚を覚えているので、完全に寝ている訳ではない。けれど、良く屹立したままでいるなと、我ながら呆れてしまう。

 あの夢見心地のまま、遠くで感じる悦楽には、緩やかな愛があった。ウリも同じように感じていたと思う。特に嫌がる素振りを見せなかったし、激しい事の後は、むしろウリの方が、抜く事を望んでいなかったはずだ。ボクの腰をつかんだまま、そのまま眠りに落ちた。……緩やかな愛があった? ……愛のようなものが、ある気がした。


 パンツを探して布団を捲ると、ウリの何も身につけていない下半身が露わになる。背中を向けているので、お尻を突き出す姿勢になっているが、その割れ目の翳に、今は卑猥さは無く、ただただ、あどけない。

 いたずらでルミナイトを塗ってみたい衝動に駆られた。暗闇に浮かび上がるウリのお尻。さぞかし可愛いだろう。はしゃぎまわる姿を勝手に想像して、ボクは微笑みながらキッチンスペースに向かった。

 ウリはボクの部屋に来た当日、この狭いキッチンスペースで寝落ちした。予想通り家出をして来ていたが、相当気を張っていたのだろう。シャワーを浴び終わったウリに、冷蔵庫にある好きな物を飲んでいいよと伝えると……



「えぇ? ありがと。シャワーも貸して貰ったのに……って、子供みたいな飲み物しかないじゃん」


 6月のウリが、濡れたまま応える。

 かと言って、いま濡れているのはシャワーのせいであり、雨に濡れたせいでは無い。

 血色を取り戻した白桃のような色合いの肌からは、湯気を立ち上らせていた。

 ボクはアルコールを飲まなない。その時 冷蔵庫に入っていたのは、コーヒー牛乳とイチゴミルク、それに麦茶だった。ウリがアルコールを欲して、そう言ったのか、コーヒー牛乳とイチゴミルクを見て、子供みたいな飲み物しかない。と言ったのかは分からないが、ウリは子供なのだ。コーヒー牛乳とイチゴミルクはお似合いの飲み物である。

 文句を言いながら、結局はイチゴミルクを選ぶ。冷蔵庫に寄りかかり、訊いてもいない家出の理由を話しはじめるウリ。ボクはゲームのDLでもしていたのだと思う。何をしていたかは良く覚えていないし、ウリの話しも聞いていなかったが、急に冷蔵庫から聞こえていた言葉の音が途切れた。見るとウリが冷蔵庫に背中を預けて、崩れ落ちるように寝ていた。


 –––– よくも、まぁ、器用に寝るもんだ。


 ボクはウリを抱えてベットに運んでやる。ウリからは饐えた汗の臭いは、もうしない。代わりに、ボクの浴室にあるボディーソープを使ったはずなのに、同じものとは思えない香りがした。

 自分の理性に一抹の不安を感じながら、ウリをベットに下ろす。ウリにとっては久しぶりのベットのはずだ。

 ウリは家を出てから、しばらく風呂を……シャワーを浴びていないと言っていた。

 ボクの後を付いて来るので、詰め寄るとウリは距離を取る。距離を取れらると、追い払おうにも、で、話しが出来ないので、鬱陶しくなったボクは、付いて来るのに、なぜ距離を取るのかを雨の中、大声で尋ねる。

 ウリは答えない。

 

 答えれば、付いて来てもいい。

 そう、交換条件を出すと、ウリは視線を地面に落とした。

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