第2話 揺れる
ボクはその時、踏切の方を見ていた。
そんなボクを見てウリが「クックッ……」と、声を押し殺して笑っていたのだが、抱えた膝の中に隠しこむように響く笑い声に気がついて、ボクがウリの方を見たとき。ウリの忍び笑いと、紫陽花の花の揺れがちょうど同調していたので、ボクは紫陽花が笑っているのかと思い、尻もちをついたまま後ずさってしまった。
ウリはもう一度「大丈夫?」の言葉をボクにくれるが、そこには先程のような優しさは無く、代わりにくすぐるような嘲りが含まれていた。
「大丈夫? チキン…くん」
ムッとして、ボクはウリを見るが、ウリは膝を抱えている肘の内に、逃げるように 顔を隠してしまう。
「ワ、……ワルかったな」
張った虚勢は、虚勢な上に すぐに雨で濡れそぼった。
「ううん、ゴメン。あたしがこんなところに居たから……」
手の平にめり込んだ小石を払いながら立ち上がりかけていたボクは、ウリが鼻をすすりながら そんな事を言うので、たったあれだけの虚勢で泣かせてしまったのかと思い、離れた位置からではあるがウリを覗き込んだ。
オーバーサイズに着たスカジャンが細かく震えている。
もちろん 泣く全ての理由が、ボクの態度にあったとは思っていない。雨の中でうずくまっている状況で さらにキツめの言葉をかけられたから、それが涙の引鉄になったのだと思った。
「あ……、や……、ゴメンよ。少しキツかった? 言いかた…」
スカジャンの震えが徐々に大きくなっていく、それと共にウリの笑い声もハッキリ聞き取れるようになる。
–––– なんだ、笑っていたのか。
笑われて口惜しいと言う気持ちよりも、不思議と安堵が勝った。
ウリが肘の内側から大きな瞳と、小さな八重歯をのぞかせる。
「キミ、あたしのコト 幽霊だと思ったでしょ?」
当てられた図星の的を逸らすように 体を左右に捻ってベルトつかみ、コケた時に少しずり下がったパンツを上げてみるが、すでに図星は撃ち抜かれている。
動揺しているボクの心に、ウリの声はあまりに切なかった。
「ねぇ、あたし生きてるでしょ?」
笑っているウリは雨に濡れて、泣いているように見えた。
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