第11話 鏡

 私はとある家の化粧台の鏡。私はこの家に来てから十五年になる。今日は所有者の奥様がかなり不機嫌な様子。


「新作の化粧品買ったのに何かいまいちだわ」


 奥様はイライラしながら、私の前で横を向いたり正面に向き直ったりしている。


「あなたーこの前買った新作の化粧品付けてみたけどどう?」


 隣の部屋から旦那様が入ってきた。


「あー? お前の化粧の仕方だんだんケバくなってきてるぞ」


「はー? 何よ! せっかく高いお金出して買ったのに。もういいわ。あんたが見てもどうせ分からないでしょう?」


「何だよ。まったく」


 旦那様は部屋を出て行って、奥様は不服そうに再び鏡である私の方を見た。


「そうよ。この鏡だんだん古くなってきて、曇ってきているように見えるわ。そろそろ新しい鏡にしようかしら」


 奥様が私を交換するか迷い始めた。このままでは間違えなく捨てられる。そこで私は、捨てられないために本気を出した。


――ミラーパワー!!


 私は奥様に見えないパワーを送った。だんだんと曇りが取れていく。奥様は私に顔を近づけた。


「何かよく見ると新作良いじゃない。きっとさとしは目が節穴なのね。鏡もなんか綺麗になった気がする」


 機嫌が良くなった奥様は、バックを持って部屋を出ていった。


「出かけてくるわね」


「あー」


 奥様は明るい声で旦那様に言って家を出た。私は本気を出せば、まだまだ現役で生きられるかもしれない。

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