空をみあげて

@styuina

第1話

 少年はボンヤリと夜空を眺めていました。

 空はまっくらで、なにもみえません。なにも。やみだけがそこにありました。

 しかし、目をこらすとかすかに

びゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅうゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅんびゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅうゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅんびゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅうゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅんびゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅうゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅんびゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅうゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゃゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅん

 と天かけるホウキ星が確かに、確かに見えました。

 じっさい音はしないでしょうが、少年にはたしかにそう聞こえたのです。

 少年が体育すわりでいるのは、小だかいやまともおかともつかないところで、そこから街の灯りが星屑のようにみえます。

 それも徐々に消えていきますが、それでも街一番のエントツから

もくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもくもく

 けむりが流れていきます。

 それをよこめに見ながら、少年はスタスタ歩き出しました。そろそろ家に帰らなきゃ。

 空をみると、オリオン座の3つ星が例のほうき星といっしょに見えました。

 そういえば、と少年は思い出します。ともだちがギザのピラミッドはその3つ星を表してるんだぜと話していた思い出です。少年はそのとき

「それは3つ星しかないの」

 と聞きましたが、ともだちは待ってましたとばかりに

「ちがうよ、リゲルとペテルギウスを表してるピラミッドもあるんだ」

 とせつめいしましたが、少年から見てもその部分はなんかちがうと思われました。じっさいあとで調べてみると、間隔や角度がぜんぜん違いました。

 そんなことを思い返していると、ほうき星はオリオンがはなった弓矢のようにすすんでいきます。

 少年は街のサイクリングコースを辿るようにほうき星を追っていきます。

 サイクリングコースは街に通った鉄道の新駅舎を降りて、この街のはじまりの場所広場から文字通り始まります。そして街を守る壁にあわせて曲線になっている市場広場、そこを道なりにすすんで中世の壁にそった環状道路、そこを横断すると市街地拡張地区に入り、直交する大通りへ。その大通りの中央分離帯にはさまざまな木々がおいしげっています。ついでに言うと少年がいたこだかい山もこのあたりのはずれにありました。大通りを突き当たりにいくと、もとは川の庭園があり、さらに西へとすすみ右のトンネルを抜けるとかつてこの街をおさめた王の別荘へ。そこをさらに北へすすむとサイクリングコースの終点であり、また少年の家がある農園郡があります。

 この街は、かつて彗星の王さまと呼ばれた方によって学芸の街として図書館を作ったことで、繁栄していき、外国の建築家によって近代化がなされて今に至ります。

 ともあれ、少年はとぼとぼとほうき星を追いかけるように歩いていきます。そのほうき星はあかあかとかがやき、少年は

(まるで、かあさんが言ってた神の雷みたいだ)

 と思いました。

 少年のかあさんは、メシーカ国というとおい異国の出身でした。メシーカ国はこの地にいくつかある都市国家の1つでした。この地では3つ、もしくはそれ以上の都市が同盟することで、政治的秩序がたもたれていたのです。あるときに、後継者争いに端を発する戦争がおこり、メシーカはテツココと共同で敵を倒し、それにトラコパンを加えたエシュカン・トラトロヤン、つまりは3都市同盟を形成しました。やがて、メシーカの勢力が拡大します。大飢饉を契機に、領土を拡大していき、また水対策などの環境整備、テンプロ・マヨールというもともとあった大神殿を拡張していきます。都市全体の人口は20~30万と言われて、初めてメシーカをみた異国の冒険者たちは、びっくりしたと言います。ところで、大神殿にまつられていたのは、チクナウィ・エエカトルという神さまで、少年のかあさんが言っていた神とはこのチクナウィ・エエカトルのことです。

 さて、さきに言った異国は、いま少年が住んでいる国で、いろいろあって現国王であるルードヴィッヒ18世が復古王政をおこなっていました。かれは国民の不満をそらすためにメシーカ国を占領してしまいます。そのとき、少年のかあさんは家族とはなればなれになって、流浪の果てに、地主と結婚して、少年をうみました。

 さて、そうこうしているうちに、少年は家にたどりつきました。入り口でとうさんである地主がオロオロしてるのをみて、少年はたずねました。

「とうさん、どうしたの?」

「ああ、お前か。かあさんが変なんだよ」

 家に入ると、かあさんが止まらないという感じで笑い続けていました。

「ほらみた!奴らに神の雷が落ちた、墜ちた、堕ちた!」

 かたわらでつけられたテレビでは

『ルードヴィッヒ18世の子息シーラバッハ様が逝去なされました。空から落ちてきたいん石が頭上にあたり、頭がい骨が陥没したそうです』

 というニュースが流れていました。

 笑い続けるかあさんと、それを見てオドオドしているとうさんを無視して、少年はボンヤリと空をながめていました。

 ほうき星は、まだ瞬いています。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空をみあげて @styuina

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ