慕容徳12 母を求めて

慕容徳ぼようとくの母と兄は長安ちょうあんに残されていた。そこで平原へいげん人の杜弘とこうを長安に赴かせ、その存否を探らせることにする。


着任に当たり、杜弘は言う。


「臣が長安に赴いたところで、お母上の存否を引き当てられなかった暁には、速やかに西の張掖ちょうえきに向かい、その地にて果てることで報いたく思います。つきましては、我が父、杜雄とゆう。かの者は齢六十を回ろうとしておりますが、未だ栄寵富貴に浴したことがございません。どうかかの者に本籍の禄をお与え願えませんでしょうか。カラスとて餌の取れなくなった親鳥のために餌を与えます、臣もそれに倣いたく思うのです」


この話を聞き、張華ちょうかが言う。


「まだ任務についてもおらぬ内から俸禄を求めるとは、深い情は利を求めることに向いておりましょう。この者を使いとしてはなりませぬ」


慕容徳は答える。


「おれはひとの存否がために、財産を投じようとしているのだ。まして、我が尊き母や兄のために、どうして財を注ぐことを惜しもうか! それに杜弘は君主のために親を迎えようとしつつ、父の為に祿を求めてきている。確かに外側では利を求めようとしているよう映ろう、しかしその内実は実に忠、実に孝ではないか!」


そして約束通り、杜雄を平原令とした。


なお杜弘は張掖にて盗賊に襲われ、殺された。慕容徳はこれを聞いて悲しみ、杜弘の妻子を厚く保護した。




德母兄先在長安,遣平原人杜弘如長安問存否,弘曰:「臣至長安,若不奉太后動止,便即西如張掖,以死為效。臣父雄年逾六十,未沾榮貴,乞本縣之祿,以申烏鳥之情。」張華進曰:「杜弘未行而求祿,要利情深,不可使也。」德曰:「吾方散所輕之財,招所重之死,況為親尊而可吝乎!且弘為君迎親,為父求祿,雖外如要利,內實忠孝。」乃以雄為平原令。弘至張掖,為盜所殺,德聞而悲之,厚撫其妻子。


德が母と兄は先に長安に在らば、平原人の杜弘をして長安に如かせ存否を問わしめんとす。弘は曰く:「臣の長安に至れるに、若し太后が動止を奉ぜざらば、便即に西の張掖に如き、死を以て效と為さん。臣が父の雄は年の六十を逾えんとせるに、未だ榮貴に沾ぜず。本縣の祿を乞うて、以て烏鳥の情を申さん」と。張華は進みて曰く:「杜弘の未だ行かざるに祿を求むは、利を要え情の深きとす、使すべからざるなり」と。德は曰く:「吾れ、方に輕んずる所の財を散じ、重んぜる所の死を招かんとす。況んや親尊が為を吝さかとすべきや! 且つ、弘は君が為に親を迎え、父が為に祿を求む。外は利を要むが如くせると雖ど、內は實に忠孝たり」と。乃ち雄を以て平原令と為す。弘の張掖に至れるに、盜に殺さる所と為り、德は聞きて之に悲しみ、厚く其の妻子を撫す。


(晋書125-12_傷逝)




>便即西如張掖,以死為效。

なんで?


慕容徳の言葉、ここでもナイスな感じだとは思うんですが、その背景に存在している杜弘さんの謎の動きが謎すぎて、どうにも混乱が止まりません。どういうことなの……ここまでそれに関する伏線存在してなかったよね……?


と思って調べてみたところ、そういや慕容徳載記のはじめの所に「前燕が滅びたあと一度張掖太守に任ぜられた」ってのがありましたね。次の慕容超載記にも、


慕容超字祖明,德兄北海王納之子。苻堅破鄴,以納為廣武太守,數歲去官,家于張掖。德之南征,留金刀而去。


って記述があります。と言うことは慕容徳の足跡を最後までたどった上で、見つけられなかったことを死んでわびる、という感じなのかな。いやそこ死ぬ必要ないでしょって思いはするのだけど、まぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る