慕容垂8 翟斌よりの誘い

慕容垂ぼようすい河內かだい

つまりぎょう洛陽らくようとの中間に到着したところで

苻飛龍ふひりゅう及びその配下兵たちを殺した。

そこから募兵を呼びかけた後、

黄河こうがを南に渡り、橋を焼く。


そして、宣言する。


「表向きしんに従うふりをしていたが、

 我が本心はえんの復興にあった。


 私がルールだ。ルールを乱す者には

 確実なる裁きを下すし、

 従うものには即日に恩賞を施す。


 無事燕室の復興がなされれば、

 功績によってその多寡こそ

 違ってこようが、

 必ずや別途報賞を授けよう」


慕容垂が洛陽に接近してきたと聞き、

翟斌てきひんは使者をよこし、慕容垂を

盟主として推戴したい旨を申し出てくる。


慕容垂、却下して言う。


「我々親子はその危地を

 苻堅ふけん様に救われた。その上、

 過分とも言える恩寵をも賜った。

 

 その間柄は君臣でこそあるが、

 道義としては父子の繋がりにも等しい。

 多少の行き違いがあったからと、

 どうして謀反心など抱けようか。


 我が本意は豫州よしゅうの救出以外にない。

 諸君らとどうこうする意図は

 もとよりないのだ。


 よくもそんな我々に

 斯様な提案を持ち寄れたものよ!」


 ところで慕容垂は洛陽を落として

 拠点にしようと企んでいたのだが、

 それはまず苻暉ふきがどれだけ

 前秦への忠節を保っているかを

 確認してからにしよう、と思っていた。


 また翟斌の真意にも、

 読み切れないところがあったため、

 上言で一度拒否したのだ。


 そして慕容垂、洛陽に到着。

 すると苻暉は慕容垂の入城を拒否。

 その接触をシャットアウトした。


 そこに改めて、翟斌が今度は、

 副官の郭通かくつうを派遣し、慕容垂を説得。

 この段に至り、慕容垂はついに

 翟斌からの提案を飲むのだった。




垂至河內,殺飛龍,悉誅氐兵,召募遠近,眾至三萬,濟河焚橋,令曰:「吾本外假秦聲,內規興復。亂法者軍有常刑,奉命者賞不逾日,天下既定,封爵有差,不相負也。」翟斌聞垂之將濟河也,遣使推垂為盟主。垂距之曰:「吾父子寄命秦朝,危而獲濟,荷主上不世之恩,蒙更生之惠,雖曰君臣,義深父子,豈可因其小隙,便懷二三。吾本救豫州,不赴君等,何為斯議而及於我!」垂進欲襲據洛陽,故見苻暉以臣節,退又未審斌之誠款,故以此言距之。垂至洛陽,暉閉門距守,不與垂通。斌又遣長史河南郭通說垂,乃許之。


垂は河內に至り、飛龍を殺し、悉く氐兵を誅し、遠近に召募せば、眾は三萬に至り、河を濟りて橋を焚き、令して曰く:「吾れ、本は外に秦聲を假し、內に興復を規さんとす。法を亂す者は軍に常刑有り、命を奉ず者を賞すに日を逾えず、天下の既に定らぐに、封爵に差有れど、相い負かざりたるなり」と。翟斌は垂の將に河を濟らんとせるを聞くや、使を遣りて垂を推し盟主為らしめんとす。垂は之を距みて曰く:「吾が父子は秦朝に寄命し、危うきを濟うを獲、主上に不世の恩を荷い、更生の惠を蒙る。君臣と曰うを雖ど、義は父子の深きなれば、豈に其の小隙に因りて便ち二三を懷かんか。吾れ本より豫州を救い、君等に赴かず、何ぞ斯くなる議を為し我に及びたるか!」と。垂は進みて洛陽に襲據せんことを欲せど、故より苻暉が臣節を以て見、退りて又た未だ斌の誠款を審らかとせざれば、故に此の言を以て之を距む。垂の洛陽に至れるに、暉は門を閉じ距守し、垂と通ぜず。斌は又た長史の河南の郭通を遣りて垂を說かば、乃ち之を許す。


(晋書123-8_仮譎)




慕容垂くん「ルール違反はクソ!」


あっうん、わかんないでもないけどお目付役を殺してその言葉は通じないんじゃないかなぁ……?


まぁこの辺は檄文をぶち上げたって感じなんだと思うのでなんともあれですが、にしたって苻飛龍ブッコロした上で「雖曰君臣,義深父子」とかどんなメンタルあれば言えるんだかよくわかりませんね?


この辺の慕容垂さんは、史書の言葉を拾うとほんに分裂症もちかよってくらいの感じがしてヤバ。

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