慕容垂7 石越、嘆く   

慕容垂ぼようすいぎょうの城内にある慕容氏代々の

霊廟に参拝したい、と願い出るが、

苻丕ふひは却下した。

そこで変装して潜り込もうとしたのだが、

門番に止められてしまった。


怒った慕容垂、門番を殺し、

詰め所を焼き、撤収。

ぇえ……。


これを聞いた石越せきえつ、苻丕に言う。


「慕容垂が前燕ぜんえんにあった頃、

 国内を引っ掻き回した上で、

 我らが国に亡命してまいりました。


 そこで苻堅ふけん様より特一級の待遇を

 受けておりましたのに、

 この期に及んで地方統治を軽んじました。

 官吏を殺し、詰め所を焼くなど

 叛意を明確にしたようなものです。

 放置しておけば、乱を招きましょう。


 慕容垂は老いた身で長旅を経たばかり、

 今は兵卒以上に疲れておりましょう。

 今こそ襲撃し、首を挙げるべきです」


しかし、苻丕は言う。


淝水ひすいで散り散りとなった父王の軍を

 慕容垂は救い、守り抜いてくれた。

 その誠意には答えねばならん」


なら廟の参拝許可してやれや。

そう思ったかどうかはともかく、

石越、なおも食い下がる。


「奴は燕にも不忠をなしております!

 そんな奴が、どうして我らに

 忠を尽くしましょうか!


 奴の素性は所詮亡命者、根無し草!

 たとえ苻堅様と同じだけの恩寵を

 お与えになったところで、

 奴の心根に忠心は刻まれますまい!

 結局の所、乱が引き起こされましょう!


 今、奴を討っておかねば、

 後々に害をなしますぞ!」


しかし苻丕、結局聞き入れない。

なので石越は退出したのちに、言う。


「苻堅様にせよ、苻丕様にせよ、

 些細な義理人情に拘泥し、

 まるで大局を顧みようとされぬ。


 ならば我々は、やがては鮮卑せんぴの捕虜と

 なり果ててしまおうな」




垂請入鄴城拜廟,丕不許。乃潛服而入,亭吏禁之,垂怒,斬吏燒亭而去。石越言於丕曰:「垂之在燕,破國亂家,及投命聖朝,蒙超常之遇,忽敢輕侮方鎮,殺吏焚亭,反形已露,終為亂階。將老兵疲,可襲而取之矣。」丕曰:「淮南之敗,眾散親離,而垂侍衛聖躬,誠不可忘。」越曰:「垂既不忠於燕,其肯盡忠於我乎!且其亡虜也,主上寵同功舊,不能銘澤誓忠,而首謀為亂,今不擊之,必為後害。」丕不從。越退而告人曰:「公父子好存小仁,不顧天下大計,吾屬終當為鮮卑虜矣。」


垂の鄴城に入りて廟を拜さんことを請うに、丕は許さず。乃ち潛服にて入らんとせるも、亭吏は之を禁ず。垂は怒り、吏を斬り亭を燒きて去る。石越は丕に言いて曰く:「垂の燕に在すに、國を破り家を亂さば、聖朝に命を投ずに及びて超常の遇の蒙れど、忽ち敢えて方鎮を輕侮し、吏を殺し亭を焚き、反形を已に露わとし、終に亂階を為す。將は老い兵は疲れたれば、襲いて之を取りたらん」と。丕は曰く:「淮南の敗にて眾は散り親なるは離れるも、垂は聖躬を侍衛す。誠は忘るべからず」と。越は曰く:「垂は既に燕に不忠にして、其れ我への忠を盡くせるを肯んか! 且つ其れ亡虜なれば、主上の寵を功舊と同じくせば、忠を誓うこと澤に銘ず能わざらん、而して亂を為さんと首謀す。今之を擊たざれば、必ずや後害為らん」と。丕は從わず。越は退りて人に告げて曰く:「公が父子は小仁に存すを好み、天下の大計を顧ず。吾れ終には當に鮮卑が虜為らんと屬したらん」と。


(晋書123-7_規箴)




苻丕の基準がよくわからん。制限監視付きで参拝さしてやればよかったんじゃね? もちろん、苻丕も同行して。信用してないのは当然なんだし、信用しないなりの誠意ってそこじゃないかしら、とゆう。


とか事後孔明しても仕方ないですね。慕容垂の怒りにどれだけの正当性があったかもいまいち読みきれませんし、ここについては変に決裂した、以上を考えても仕方なさそう。


とりあえず前秦側と後燕側の記述を割と無邪気にマッシュアップしてくれてるおかげで、すっげー支離滅裂な感じがします。ほんにこの辺は「歴史物語」を描く調理人の腕の見せ所だと思いますわ。

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