姚萇25 釈僧䂮 下   

クマーラジーヴァが関中入りすると、

遠方より多くの僧が長安ちょうあん入りし、

僧侶の人口爆発を起こした。


ともなると不届きな僧が現れたりもする。

なので、姚興ようこうは懸念を表明。


「およそ未熟な僧が我慢を知らず、

 過ちを犯すことも少なからぬ。

 不埒な振る舞いにでることも多い。


 このままでは大問題も起こりかねぬ。

 僧侶には統率者が必要だ。

 その指導力で、彼らを律せねばならぬ」


そして書面で、以下のように命じる。


「クマーラジーヴァ殿の尽力で、

 東方の地にも仏法が浸透してきた。

 これによって僧尼が増加したので、

 そろそろとりまとめ役が必要である。

 立派な規範を設け、たるんだ気風を

 ただしてゆかねばならぬ。


 僧䂮そうりゃく法師は若き頃より学に秀で、

 年老われてからはその徳を

 かぐわしきものとされた。

 よって国内の僧の長に任じる。

 僧遷そうせん法師は禪業と知恵とを兼ね備え、

 衆僧のとりまとめとなられよ。

 法欽ほうきん慧斌えひんは共に僧侶に関する

 経理のとりまとめをされよ」


こうして僧䂮には

車や近習が支給された。

その秩禄は侍中レベル、

要は国のトップ官僚クラスである。

朝廷との連絡係、車を引く官吏も

二人ずつ付けられる。

もちろん、僧遷以下にも

篤く秩禄がもたらされた。


姚興によって組織された僧侶運営組織は

時宜にかない、沙門らは粛然とし、

その供養の日課は

一日中怠られることがなくなった。


405 年になると、更に近習が追加される。

親信・伏身・白從がおのおの三十人。

計九十人である。


僧正と言う地位が確立されたのは、

僧䂮こそがその始まりである。


とはいえ支給された車を僧䂮は使わず、

移動は自らの足によって、

与えられた車や輿は

老いたものや病を得たものに分配した。

その他支給品も、全て僧侶たちの

日用に転用した。


すでに晩年を迎えてこそいたが、

なおも経典の講義に精を出し、

飽くことなく多くの僧侶を励ました。


姚興の治世の末年、416 年頃に

長安大寺にて死亡。73 歳だった。




自童壽入關,遠僧復集,僧尼既多,或有愆漏,興曰:「凡未學僧,未階苦忍,安得無過?過而將極,過遂多矣,宜立僧主,以清大望。」因下書曰:「大法東遷,於今為盛,僧尼已多,應須綱領,宣授遠規,以濟頹緒。僧䂮法師學優早年,德芳暮齒,可為國內僧主。僧遷法師,禪慧兼修,即為悅眾。法欽、慧斌共掌僧錄。給車輿吏力。」砦資侍中秩,傳詔羊車各二人,遷等並有厚給。供事純儉,允怯時望,五眾肅清,六時無怠。至弘始七年,勅加親信伏身,白從各三十人。僧正之興,䂮之始也。䂮躬自步行,車輿以給老疾,所獲供卹,常充眾用,雖年在秋方,而講說經律,頊眾無倦。以弘始之末,卒於長安大寺,春秋七十三矣。


童壽の入關してより、遠きの僧は復た集まり、僧尼は既に多かれば、或いは愆漏有り。興は曰く:「凡そ未だ學びたらざる僧、未だ苦忍を階さざれば、安んぞ過無きを得んか? 過たば將に極まらん。過ち遂に多からん。宜しく僧主を立て、清を以て大いに望むべし」と。因りて書を下して曰く:「大法の東遷し、今に於いて盛んと為りて僧尼は已に多かれば、應に綱領し、宣しく遠規を授け、以て頹緒を濟すべし。僧䂮法師は早年に學優にして、德は暮齒に芳わしかば、國內の僧主と為すべし。僧遷法師は禪慧を兼ね修め、即ち悅眾為るべし。法欽、慧斌は共に僧錄を掌ずべし、車を給し吏力を輿う。」砦が資は侍中が秩にして、傳詔・羊車は各おの二人、遷らは並べて厚給有り。事に供ぜるに純儉にして、時望に允怯せば、五眾は肅清し、六時怠り無し。弘始七年に至り、勅し親信伏身白從を各おの三十人を加う。僧正の興は䂮の始まりなり。䂮は躬ら自ら步き行き、車輿を以て老疾に給い、獲たる所の供卹は常に眾用に充て、年の秋方に在すと雖ど、經律を講說し、眾を頊まし倦く無し。弘始の末を以て長安大寺にて卒す、春秋七十三なり。


(高僧伝2-30_政事)




供事純儉,允怯時望,五眾肅清,六時無怠。とか、ホントウカナーホントウカナー??? みたいな目で見ずにおれないのですよね。ブッダバトラの所とか見ても、明らかに名声争いとかぶち決めてるしねこの人。もっとも名声争いを決めるのと振る舞いが清廉であることはわりと重なりもするんでしょうけど。「生臭坊主であってくれると楽しい」。モチベーションがそこであることは否めません。と言うか高僧伝のポジショントークそのものが生臭いしね!


ともあれ、後秦僧侶「社会」のとりまとめ役の存在が、そのまま後に続く僧正の地位につながった、というのは非常に興味深いところです。しかしブッダバトラのところで道標どうひょうの名前出したのにこっちには出てこないのってどういうことなんだろうね。

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