十六国春秋62 後秦系仏僧

鳩摩羅什1 懐胎     

クマーラジーヴァ。

鳩摩羅什くまらじゅう童壽どうじゅとも呼ばれている。

天竺てんじくの宰相の家の生まれで、

祖父はタッタ、抜群の才覚を持ち、

その名は重々しく国中に響いた。

父のクマーラヤーナもまた

聡明にして気高かった。

しかし宰相の位の継承を辞退、家を出、

東のかた葱嶺そうれいを超えて天竺を脱出した。


脱出先の亀茲クチャにもその名は届いており、

王はクマーラヤーナが栄達の道を捨てた

その気高さに惚れ込み、自ら出迎え、

國師となるよう要請してきた。


王には妹がいた。二十になったばかり、

聡明にして鋭敏、一度見たものは実行し、

一度聞いたものは暗誦してのける。

加えて赤いほくろが身体にあった。

それは知恵ある子を生む相とされていた。

諸国はこぞって嫁に迎えたかったのだが、

妹氏は誰のもとにも嫁がない。


が、そこに登場。

クマーラヤーナです。

迫って食って孕んだ。

クマーラジーヴァを。

展開が早い。


懐妊した妹氏、

ただでさえすごかった知恵が

さらにすごくなる。


雀梨大寺じゃくりだいじに多くの徳高き僧や

仏門の教えを極めた学僧ががいると聞き、

王族やその妃たち、徳を修める尼らと共に

何日にも渡る齋会を開催してもらい、

仏法に関する講義を聞いた。


このとき妹氏、何故かすごい勢いで

天竺の言葉を理解する。

妹氏がなす質問は奥深い境地に

あっさりと届くようなものばかりであり、

誰もがその様子に感嘆した。


ダルマゴーシャという僧が言う。


「彼女は素晴らしい子を懐妊されておろう」


そして彼女に、

十大仏弟子のひとり、サーリプッタの母が

彼を妊娠したときのことを

紹介してあげるのだった。




鳩摩羅什,此云童壽,天竺人也,家世國相。什祖父達多,倜儻不群,名重於國。父鳩摩炎,聰明有懿節,將嗣相位,乃辭避出家,東度葱嶺,龜茲王聞其棄榮,甚敬慕之,自出郊迎,請為國師。王有妹,年始二十,才悟明敏,過目必能,一聞則誦。且體有赤黶,法生智子,諸國娉之,並不肯行。及見摩炎,心欲當之,乃逼以妻焉,既而懷什。什在胎時,其母慧解倍常。聞雀梨大寺名德既多,又有得道之僧,即與王族貴女,德行諸尼,彌日設供,請齋聽法。什母忽自通天竺語,難問之辭,必窮淵致,眾咸歎異。有羅漢達摩瞿沙曰:「此必懷智子。」為說舍利弗在胎之證。


鳩摩羅什,此れ童壽と云い、天竺人なれば、家は世よ國相たる。什が祖父は達多、倜儻し群れず、名は國にて重し。父は鳩摩炎、聰明にして懿節を有し、將に相が位を嗣がんとせるに、乃ち辭避し家を出、葱嶺に東度せば、龜茲王は其の榮を棄つるを聞き、甚だ之を敬慕し、自ら郊に出で迎え、請うて國師為らしむ。王に妹有り、年は二十の始め、才悟明敏にして、目に過ぐらば必ず能い、一聞せば則ち誦ず。且つ體に赤黶有り、法に智子を生まんとせば、諸國は之を娉さんとせど、並べて行ぜるを肯んぜず。摩炎に見ゆるに及び、心に之に當らんと欲し、乃ち逼りて以て妻したらば、既に什を懷ず。什の胎に在れる時、其の母の慧解せること常に倍す。雀梨大寺に名德の既に多きを、又た得道の僧有れるを聞き、即ち王族貴女・德行諸尼と與に、彌日に供を設け、齋し法を聽ぜるを請ず。什が母は忽ち自ら天竺語に通じ、難問の辭にても必ずや淵致を窮め、眾は咸な歎異す。羅漢の達摩瞿沙は有りて曰く:「此れ必ずや智子を懷かん」と。舍利弗の在胎の證を說きたるを為す。


(高僧伝2-1_文学)




後秦臣下列伝が軒並みただの晋書転載だったので省略します。あと屠本十六国春秋の本文が読めなかったので、おとなしく転載もとである高僧伝に当たりました。


鳩摩羅什伝、くっそ長いです。なので次話で晋末ころに関わらない部分をざっくりまとめ、次次話から改めて具体的な事績を語ります。


それにしてもこの家系すぎだろ。

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