王奚   死こそが恵み  

王奚おうけい、出身地は不明。

勇敢にして怪力、そして騎射に長ける。

姚興ようこうに仕え、護羌校尉となっていた。


かれは赫連勃勃かくれんぼつぼつ貳城じじょうに進出してきたとき、

三千の兵を集め、敕竒堡ちょくきほに入った。

赫連勃勃より攻撃を受けると、

砦内に矛や槍と言った長物がなかったため

剣などの近接武器にて応戦した。


当然だが、勝てるものでもない。

負傷したため引き、砦で守りを固める。


赫連勃勃、ムリに攻めようとはしない。

砦に引かれている川の流れを捻じ曲げ、

その水源を断たせた。

砦の人々は乾きへの苦しみのあまり、

王奚を捕縛し、投降する。


赫連勃勃は王奚に言う。


「そなたは忠臣である。

 朕はそなたのような者と共に

 天下を平らげたく思うのだ」


王奚は答える。


「お言葉、ありがたく頂戴いたす。

 なれど我が身に恩をもたらしたく

 思われるのであれば、

 速やかなる死こそがそれでござる」


そして近習数十人とともに

自刃し、果てた。




王奚、不知何許人。驍勇有膂力、善騎射。仕興為護羌校尉、赫連勃勃入寇貳城、奚聚眾三千、屯於敕竒堡。勃勃因進攻之、短兵接戰。奚為勃勃所傷、退、而自固。勃勃復斷其水。堡人窘廹執奚、出降。勃勃謂之曰:「卿忠臣也、朕方與卿共平天下。」奚曰:「若蒙大恩、速死、為恵。」乃與所親數十人自刎、而死。


王奚、何ぞの許の人か知らず。驍勇にして膂力有り、騎射に善し。興に仕え護羌校尉と為る。赫連勃勃の貳城に入寇せるに、奚は眾三千を聚め、敕竒堡に屯ず。勃勃は因りて進み之を攻め、短兵にて接戰す。奚は勃勃に傷せらる所と為り、退きて自ら固む。勃勃は復た其の水を斷つ。堡人は窘廹し奚を執え、出降す。勃勃は之に謂いて曰く:「卿は忠臣なり、朕は方に卿と共に天下を平げん」と。奚は曰く:「若し大恩を蒙らば、速やかなる死こそ恵為らん」と。乃ち親しき所數十人と自刎し、死す。


(十六国61-4_直剛)




彼の存在どこにもないなーと思ったら、赫連勃勃載記にいました。そりゃいねえわ。


なお、セリフはだいぶ意訳しました。微妙に据わりが悪いとは言え、姚興から大恩を頂戴しているから、と読んでしまってもいい気はしましたが、そこは好み優先で。こうすると戦いは戦い、勝った赫連勃勃には敬意を表し、しかしながら忠義に殉ずるという大変に美味しい人物像が生まれます。そうなのよ、萌えは正義、萌えは正義!

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