姚泓10 劉裕侵攻2   

姚紹ようしょう東晋とうしん軍が迫っていると聞くと、

長安ちょうあんに帰還し、姚泓ようおうに言う。


「晋軍はすでに許昌きょしょうを通過しました。

 晋の襲う豫州よしゅう赫連勃勃かくれんぼつぼつの襲う安定あんてい

 どちらも遠くで孤立しており、

 救援は至難、と申し上げざるを得ません。


 ここは諸城の兵力を

 長安に結集させるのがよろしいでしょう。

 さすれば十万の兵力を得、

 堅固なる守りを実現できましょう。

 仮に二勢力が同時に攻めてきたとて、

 易易とは攻め込んでこれますまい。


 もし同時ではなかったにしても、

 晋が豫州を、赫連勃勃が安定を攻めても、

 どう我々を打ち崩せましょう!


 ただし、事態は差し迫っております。

 どうぞ、速やかにご決断なされませ」


ただし、梁喜りょうきが言う。


姚恢ようかい様は勇猛にして、威名明らか。

 嶺北れいほくの地の民は姚恢様を畏敬し、

 また彼らは赫連勃勃を憎んでおります。


 彼らが我々に背くことは考えられず、

 となれば赫連勃勃は安定を諦め、

 この長安を攻撃するのにも、

 わざわざ遠征せねばならなくなります。


 ここで安定を放棄すれば、赫連勃勃軍は

 容易くようにまで及びましょう。


 いま、関中の兵力で晋軍からの防御は

 なんとか間に合っております。

 確定し切れないピンチに応じて

 うかつに戦力を削るのは

 よろしくございますまい」


姚泓は梁喜の言葉に従った。




姚紹聞王師之至,還長安,言於泓曰:「晉師已過許昌,豫州、安定孤遠,卒難救衛,宜遷諸鎮戶內實京畿,可得精兵十萬,足以橫行天下。假使二寇交侵,無深害也。如其不爾,晉侵豫州,勃勃寇安定者,將若之何!事機已至,宜在速決。」其左僕射梁喜曰:「齊公恢雄勇有威名,為嶺北所憚,鎮人已與勃勃深仇,理應守死無貳,勃勃終不能棄安定遠寇京畿。若無安定,虜馬必及於郿、雍。今關中兵馬足距晉師,豈可未有憂危先自削損也。」泓從之。


姚紹は王師の至れるを聞き、長安に還じ、泓に言いて曰く:「晉師は已に許昌を過ぐ。豫州、安定は孤遠にして、卒は救衛せるに難し。宜しく諸鎮の戶を京畿が內實に遷し、精兵十萬を得らば、以て天下に橫行せるに足らん。假に二寇をして交侵せしむれど、深き害は無きなり。如し其れ爾らずんば、晉の豫州を侵し、勃勃の安定を寇ぜるにても、將た若し之れ何ぞや! 事機は已に至れり、宜しく速決を在すべし」と。其の左僕射の梁喜は曰く:「齊公の恢は雄勇にして威名有り、嶺北に憚らる所為りて、鎮人は已に勃勃と深く仇す。理は應に守死せるに貳無く、勃勃は終に安定を棄つ能わず、京畿に遠寇す。若し安定無くんば、虜馬は必ずや郿、雍に及ばん。今、關中の兵馬は晉師を距ぐに足らば、豈に未た憂危の有せざるを先に自ら削損せるべからざりたるなり」と。泓は之に從う。


(晋書119-10_規箴)




姚紹の一手が完全に亡国のそれなんですよねえ。まあ、それだけ追い詰められてたってことなんでしょう。というか姚興の時の多方面作戦よりもはるかに絶望度が高いよね、この状態。なんでこんな時代の帝位を望んだんですか姚弼さん……無理ゲー&無理ゲーにもほどがあるでしょこんなん……

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