姚泓11 劉裕侵攻3   

懿横いおうという人物が姚泓ようおうに進言する。


姚恢ようかい様は、姚弼ようひつ反乱の際にて、

 忠誠心を示す働きをされましたが、

 陛下が即位し、皇統を継がれてから、

 未だ恩賞らしい恩賞で

 その忠義に報いられておりません。


 そんな姚恢様はいま、

 外では死地に身を晒し、

 内でも国のなにがしかに

 関わることもできずにおります。


 いま、安定あんていの民らも、

 いざ赫連勃勃かくれんぼつぼつが迫りくれば、

 九割近くのものが南に逃げ出そうと

 考え始めましょう。


 その流れに乗り、姚恢様が

 四万の精兵を率いて南下されれば、

 そのまま大きな内乱が起き、

 国家存亡の危機にさらされましょう。


 ここは姚恢様をいちど長安ちょうあんに召喚し、

 慰撫するのが良いのではないでしょうか」


しかし、姚泓は言う。


「仮に、姚恢が国をどうこうしようと

 考えていたとしてみろ。

 やつを召喚するのは、

 自ら災いの招来を早めるに等しい」


結局姚泓は、懿横の提言には従わなかった。




吏部郎懿橫密言於泓曰:「齊公恢于廣平之難有忠勳于陛下,自陛下龍飛紹統,未有殊賞以答其意。今外則致之死地,內則不豫朝權,安定人自以孤危逼寇,欲思南遷者十室而九,若擁精兵四萬,鼓行而向京師,得不為社稷之累乎!宜征還朝廷,以慰其心。」泓曰:「恢若懷不逞之心,征之適所以速禍耳。」又不從。


吏部郎の懿橫は密かに泓に言いて曰く:「齊公の恢は廣平の難にて陛下への忠勳有れど、陛下の龍飛紹統してより、未た殊賞を以て其の意に答うる有らず。今、外は則ち之を死地に致し、內には則ち朝權に豫らせずば、安定人は自ら孤危逼寇なるを以て、南遷せんと思うを欲す者の十室に九たらん。若し精兵四萬を擁し、鼓行し京師に向かわば、社稷の累為らざるを得んか! 宜しく朝廷に征還せしめ、以て其の心を慰むべし」と。泓は曰く:「恢の若し不逞の心を懷けるに、之を適所に征すは以て禍を速むるのみ」と。又た從わず。


(晋書119-11_規箴)




まぁ、この状態で誰かを信じられたら、そりゃ話が早いよね……懿横の言うとおり、姚恢が赫連勃勃に寝返るのは、何らおかしいことじゃない。前話と合わせて読めば、姚泓にとって姚恢の背反は、ほぼ、黒。だから安定の軍を下手に引き入れたいとは思えない。うん、妥当。妥当だと思う。


問題は、どの手をとっても詰みでしかないことだよな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る