姚泓4  ひび割れ    

姚興ようこうは存命中、きょう族三千世帯を

李閏りじゅんから安定あんていに移住させ、

そこからすぐに新支しんしへと移した。


そして姚興が死ぬと、

酋長の党容とうようが部民を引き連れ、

勝手に李閏へ帰ろうとする。

なので姚泓ようおうは姚讚《よう

さん》に攻撃を命じる。


軍を率いた姚讚に対し、党容は即降参。

そこで有力氏族数百世帯のみを連行、

長安ちょうあんへと引き返させ、それ以外は

李閏へと帰還させた。



北地ほくち太守の毛雍もうようが、趙氏塢ちょうしうを拠点に謀反。

姚紹ようしょうが討伐に当たり、即座に毛雍を捕える。

このとき姚宣ようせんは李閏を守っていたのだが、

毛雍の動静を全く掴めていなかったため、

何はともあれ、長安ちょうあん防備の援軍として

姚佛生ようふつせいらを派遣することにした。


姚佛生が出発した後、

幹部の韋宗いそうが、姚宣に対して、言う。


「姚泓様は即位されたばかりで、

 その威徳は明らかとなっておりません。


 そんな中でも、赫連勃勃かくれんぼつぼつの勢力は

 依然強盛なままであります。

 やつが一度攻めてくれば、

 またたく間に国内深くに

 食い込んできましょう。

 姚弼ようおうとそのシンパが排除されたからと、

 国難は未だ去っておらぬのです。


 いま、姚宣様は

 方面守備を任されております。

 ならば、守りのために

 万全を期さねばなりません。


 そこで提案なのですが、

 邢望けいぼうに移られるのはいかがでしょう。

 かの地の地形は堅固なうえ、

 また三方への連絡も取りやすい。

 ここを拠点として守りを固めれば、

 城をキープし続けられるだけでなく、

 次の覇権レースに名乗りを上げることも

 不可能ではございますまい」


厄い。


なにせ韋宗、晋書しんしょ中の評価が

「姦にしてへつらいの者、大好きなのは乱世」

である。

まー結果から引いてるだろお前、

的な印象も強いですが。


ともあれ姚宣、韋宗の提言に乗り、

38000 世帯を引き連れて李閏を放棄、

邢望に南下し、確保した。


そこにやって来たのが、

もともと党容に率いられていた、

あの羌族の部民たち。

故郷に戻れば、何もない。

放棄と言うだけあって、めぼしい物資は

軒並みさらわれていただろう。

あとに残るのは、廃墟であったろう。


うん。

まぁ、キレるよね。


一方の、姚紹。

なんか李閏で暴れてる奴らがいた。

潰した。なんやねんこれ。

聞けば、姚宣の独断専行が招いた事態。

そりゃまぁ、姚紹もブチ切れる。


姚紹の動きを知り、姚宣、慌てて出頭。

怒り心頭の姚紹が許すはずもなく、

処刑された。


また姚宣が邢望に移動した頃、

姚佛生は長安に到着していた。

もはや変事のない長安、

しかも姚佛生の上役は

見るからにアホウな行動。

なので姚泓、姚佛生に

姚宣を説得させようとした。

が、姚佛生。あっさり丸め込まれる。


なので姚紹、姚佛生も殺した。




初,興徙李閏羌三千家于安定,尋徙新支。至是,羌酋党容率所部叛還,遣撫軍姚贊討之。容降,徙其豪右數百戶于長安,余遣還李閏。北地太守毛雍據趙氏塢以叛于泓,姚紹討擒之。姚宣時鎮李閏,未知雍敗,遣部將姚佛生等來衛長安。眾既發,宣參軍韋宗奸諂好亂,說宣曰:「主上初立,威化末著,勃勃強盛,侵害必深,本朝之難未可弭也。殿下居維城之任,宜深慮之。邢望地形險固,總三方之要,若能據之,虛心撫禦,非但克固維城,亦霸王之業也。」宣乃率戶三萬八千,棄李閏,南保邢望。宣既南移,諸羌據李閏以叛,紹進討破之。宣詣紹歸罪,紹怒殺之。初,宣在邢望,泓遣姚佛生諭宣,佛生遂贊成宣計。紹數其罪,又戮之。


初、興は李閏の羌の三千家を安定に徙し、尋いで新支に徙す。是に至り、羌の酋の党容の部せる所を率いて叛還せるに、撫軍の姚贊を遣りて之を討たしむ。容は降り、其の豪右數百戶を長安に徙し、余は遣りて李閏に還ぜしむ。北地太守の毛雍は趙氏塢に據したるを以て泓に叛じ、姚紹は討ちて之を擒う。姚宣は時に李閏に鎮じ、未だ雍の敗れたるを知らざれば、部將の姚佛生らを遣りて長安を來衛せしむ。眾の既に發せるに、宣の參軍の韋宗は奸諂にして亂を好まば、宣を說きて曰く:「主上の初に立ち、威化は末だ著わならざれば、勃勃の強盛なるに、侵害は必ずや深く、本朝の難は未だ弭むべからざるなり。殿下は維城の任に居さば、宜しく深く之を慮るべし。邢望が地形は險固にして、三方の要を總ぶ。若し之に據し、撫禦に虛心せる能わば、但だ維城を克固せるのみに非ず、亦た霸王の業たるなり」と。宣は乃ち戶三萬八千を率い、李閏を棄て、南し邢望を保つ。宣の既に南に移れるに、諸羌は李閏に據りて以て叛じたれば、紹は進みて之を討ち破りたるなり。宣は紹を詣で罪に歸さば、紹は怒りて之を殺す。初、宣の邢望に在すに、泓は姚佛生を遣りて宣を諭さんとせど、佛生は遂に宣が計に贊成す。紹は其の罪を數え、又た之を戮す。


(晋書119-4_仇隟)




あっ駄目だ姚泓の名君ムーヴただのハリボテだった(絶望)


いや、そりゃ動乱期、動揺期の継承ですよ、一筋縄じゃ行かないですよ、けどだめだ、挽回しようないくらい国内の連帯感がズタボロだ。姚興ってめっちゃ頭良かったろうに、どうしてここまで後進のことを考えられなかったんでしょう。まぁあの立場に立たされて投げやりにならない奴がいたらお目にかかりたいぐらいマゾゲー感満載ですけど。いや、五胡十六国時代ってモヒカンヒャッハーの時代って言われがちだけど、390~420年あたりの関中を見るとモヒカンヒャッハーすら可愛く映るよね……?


俺が姚泓にアドバイスするとしたら「いいから亡命しろ、速攻襄陽に亡命しろ」だな。


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