第4話


 それからしばらくはミナトさんに会わなかった。

 これ以上サボると単位がヤバイからとか言い訳をつけてタバコ屋によらないこともあったし、何度か小窓を覗いても姿が見えない日もあったから。

 

 そんなことが何日か続いて。その日は珍しく放課後にタバコ屋に立ち寄ってみた。期末テストで、いつもより早く学校が終わったからだ。

 もしかしたら、時間を変えたら会えるかも、なんてことを考えていたのかもしれないけど。

 

 学校帰りにこの道を通るのは初めてだった。タバコ屋に続く住宅街もいつもに比べると少し活気があるようで、ちょっと時間帯が違うだけでまるで違う場所に来てしまったみたいだ。

 けれど路地を進んでいくと段々人気が無くなって、目的地に着くころにはすっかりいつもの風景だった。俺はいつも通りベンチに腰掛けた。

 

「また来てるし」

 いつの間にか、ミナトさんが小窓から顔を出していた。

 

「珍しい時間に来たな」

「テスト週間だったから」

「テスト。懐かしい響きだな。しばらく来なかったからタバコやめたのかと思ったのに」

「まあ、色々忙しくて」

「別に来なくて構わないけど」

 

 彼女の言葉は相変わらずだったけど、その時は声を掛けてもらえたことが嬉しくて、この間みたいな失敗はもうしないようにしようと心に誓った。

 

 それでも、やっぱりミナトさんとはあまり会話が弾まなかった。相変わらず彼女は、へえ、とか、ふーん、とか。

 彼女からすると、俺はいつだって子ども扱いで。それがどうしようもなく悔しくて、なんとか見返してやりたくて。

 だから俺は彼女を笑わせようと必死になった。思いつくままに話し続けて、時折彼女がクスクス笑ってくれると、ホッとした。

 

 だけど、それだけ。閉ざされた心にうっかり足を踏み入れないように気を付けながら、彼女を笑わせるために話題を探す。

 

 人は、不安だとお喋りになるらしい。

 そんな事を俺は、初めて知った。

 

 そうしてそのとき、俺はようやく、自分が彼女に恋をしていたことに気がついた。

 

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