23

「野原さん何持ってるんですか?」


二人のやり取りを見ていた向井が、一花のデスクに置かれた紙袋を見て問う。


「あー、向井さんにあげます。社長は甘いものお好きじゃないので、お一人で召し上がってください。」


冷たく言い放つと、一花は紙袋を向井に差し出した。向井はそれを丁寧に受けとり中を覗く。


「若竹菓子店のじゃないですか、どうしたんですか?」


「7月限定の羊羮なんです。」


向井が包みを開けると、青と紫の美しいコントラストの中にキラキラと輝く天の川が現れた。


「すごく綺麗ですね。では切り分けていただきましょう。野原さんもこちらへどうぞ。」


向井は手際よく包丁と取り皿を用意すると、隣接する応接室のテーブルに並べ始める。

お皿は二枚、ちょうどいい和食器に切り分けた羊羮を置くと、高級感が漂う。


「わあ、素敵。」


「食べるのがもったいないくらいですね。」


一花と向井の楽しげな声が柳田の耳にも届き、柳田は眉間のシワを更に深くして自分も応接室へ赴く。


「おい待て俺も食べる。」


「社長は甘いもの嫌いなんですよね。無理しなくていいです。」


「嫌いなんて言ってねーよ。」


一花と柳田のやり取りに向井は人知れずクスクスと笑いながら、取り皿をもう一枚用意した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る