16

セクハラとパワハラで食事を勝ち取った柳田は、約束通り一花の手を離し、慣れた足取りでエレベーターへ乗り込む。その後ろから、ガックリとした一花が後を追うように乗り込んだ。


エレベーターからも夜景が見える。

どんどん高くなる景色を、一花は無言で見つめていた。


社会人になって男性と二人で食事をするのは初めてだ。断れば大抵は諦めてくれる。今まではそうだった。柳田のような強引な誘い方は初めてで、上手く対処できなく調子が狂う。


一花はガラスにもたれ掛かりながら小さくため息をついた。


「しんのすけ、着いたぞ。」


「あ、はい……。」


目の前の何とも高級そうなレストランの入口で、一花はまた躊躇った。

そんな気持ちを知ってか知らずか、柳田は一花の腰に手を回し、半ば引きずるように中へ入っていく。


「いらっしゃいませ、柳田様。いつもありがとうございます。」


「突然で申し訳ないが、窓側でお願いしたい。」


「はい、かしこまりました。」


柳田に対してうやうやしく頭を下げる店員の姿を目の当たりにし、一花は自分は場違いなのではとひしひしと感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る