07

柳田と向井の前に堂々と立ち、一花は丁寧に挨拶をした。


「本日より秘書課に配属になりました、野原一花と申します。至らぬ点などあるかとはございますが、早く仕事を覚え精進して参りますので、どうぞご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します。」


秘書課とは名ばかりの、要は柳田と向井のサポート業務だ。以前は二人社員がいたが辞めてしまい、今は一花だけが配属されている。


「こちらこそ、よろしくお願いしますね、野原さん。さっそくですが、仕事をお願いします。」


向井は優しく微笑みながら鬼のように仕事を与え、柳田は値踏みをするように一花をジロジロと見た。

そして口を開く。


「野原……といえばお前、しんのすけだよな。おい、しんのすけ。」


「…………は????」


呼ばれたのかどうなのかよくわからず、一花はすっとんきょうな声を出してしまった。


「社長、野原さんが困惑していますよ。」


向井に冷ややかにたしなめられるものの、柳田はいたく気に入った様子で訂正する気もないらしい。


「あの、しんのすけって、もしかしてクレヨンしんちゃんですか……?」


「しっくりくるだろ?」


こねえよ!

と喉元まで出かかったのを、ぐっと抑えた。


異動初日早々これである。

一花はこの先の仕事に不安を覚えた。

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