05
とは言うものの、仕事自体は楽しかった。
面着だけでなく、電話での応対や来客者のデータ管理も受付事務の仕事だ。コツコツ努力しながら自分なりのやり方を確立していく。そんな柔軟性に富んだところはベンチャー企業ならではと言えるかもしれない。
だが一花は薄々気づいていた。
自分は受付には合わないということを。
事務作業はそつなくこなし何も困っていることはないのだが、問題は受付業務にある。
企業の顔とも言えるべき入口に座るため、それなりに気を遣って化粧もするし愛想笑いだってする。それが原因なのか、よく男性から声をかけられるのだ。
それは光栄なことなのかもしれない。
だが一花にとっては迷惑極まりないことだった。
男性に興味はない。
同僚は誘われると嬉しそうに尻尾を振ってついていくが、一花は全然嬉しくないし行きたくもない。いつもあっさり断り場を白けさせてしまう。
そんな一花についたあだ名が“鉄の女”である。
鉄壁なガードで男を寄せ付けない。
受付なのに笑顔が薄い。
好き勝手言われていることに気づいてはいたが、特に改善する気持ちはなかった。
自分はただここで働ければそれでいい。
そんな風に考えていたからだ。
*
その日は突然やってきた。
異動が決まったのだ。
当然、受付として座っているのは相応しくないために、愛想を振り撒かなくていい事務仕事に移るのだと思った。
だが受け取った辞令には“秘書課”と書いてあり、一花は目を丸くして驚いた。
この会社は一体自分に何をさせたいのか、まったくもって意味がわからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます