第4話

この1年間で、本当にたくさんの人と出会った。いや、もともとわたしの担当エリアのお客さんだったのには変わりないけど、わたしにとって、これまではたくさんいる配達先の1人でしかなかったお客さんたちの一人一人にそれぞれの生活があって、それぞれが思い思いの絵の具を用いてその日を色付けて生きているんだって知った。


7地区のレイリアさんが1人息子を持つ靴職人だってことも、35地区のサキールさんが来年結婚する予定だってことも、51地区のナイクさんがわたしの好きな本の挿絵を描いていたことも。


全部、今まで知らなかった。知ろうとしなかった。


媒介者でいて良いことなんてないと思ってた。選んで媒介者になったわけじゃないのに、生まれた瞬間から、人と人の間に挟まって生きる道しかわたしには選択肢がなかった。だけど、わたしたちはそういうもんなんだって自分を納得させて状況を受け入れていた。


だけど、媒介者って良いかもしんないって、今、たぶん初めて思ってる。

そして、それが、この運命に終わりが見えているからこそ感じられるものだということも。


もう、わたしたちは特別じゃなくなる。そう、この計画が全てうまく進めば。


不思議とプレッシャーは感じなかった。みんなが心の奥底で望んでいた未来がもうすぐ手に入る。


*


12月23日、クリスマスイブのイブの日。わたしは、ユニとキコを呼び出した。いつものように画面の中のカフェでチーズケーキセットを注文して2人と向き合う。


「もしもさ、外を自由に出歩けるようになったら、どうする?」


そう切り出すと、キコとユニは怪訝な表情をした。


「えー…考えたことなかったな」


「外の世界に興味はすごいあるけど、出られるなんて想像したことないや」


2人は少し考え込むように腕を組んだ。


「でも、もしもそんなことができるようになったら、わたしは旅行に行ってみたい。外国の景色がどんなになってるか見てみたい」


キコがそう言うと、


「わたしは、キコとクルムに直接会ってみたいな。クルムは宅配の時に会えるけど、3人で本物のカフェで本物のチーズケーキ食べてみたい」


とユニが言った。


「でも、なんでそんなこと聞くの」


チーズケーキを頬張ってキコがそう聞いた。


「実はさ…」


わたしが話し始めると、2人は目を丸くして、画面越しでもわかるくらいに身を乗り出して耳を傾けた。

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