第11話 交通誘導プロフェッショナル
「お兄ちゃん、私もう寝るから。おやすみ」
もう色々と限界だった。
笑いそうになったり怒鳴りそうになったりで腹筋と背筋が筋肉痛。
返信が来ないことで兄があれこれと悩んでいる間、私は神坂先輩へのアドバイスで忙しかった。
ーー奥手にも程がある。
でもそこがまた神坂先輩の可愛いところ。
神坂先輩は兄からメッセージが来るたび私に相談してくるようになった。
例えば
『なんて返すのが正解?』
『こんな事書いたら印象悪い?』
『勉強の邪魔になったりしない?』
と毎度毎度こんな感じ。
ーーとっととくっ付いちまえよ!
ーーどんだけ似た者同士なんだよ!
心の中でそんなツッコミを入れないとやってらんないバカバカしさ。兄が受験生で無ければ放置していたかもしれない。
ピロン。
神坂先輩だ。
『返信が遅くなってすみません。お風呂に入ってました。練習キツくて大変です。疲れ過ぎて一歩も動きたくないです こんなので大丈夫よね?』
大丈夫なワケねぇよ!と思うけれど、兄のメッセージも『お疲れさま』の一言なので仕方ない。
大丈夫ですよ。と返信を打つ。
ついでにイブの予定も聞いておく。でないと兄が壊れてしまいそうな気がするから。
ピロン。
『お兄さんにメッセージ送ったよー☆ イブは家族と一緒に食事に行くのでメッセのやり取りは難しいかも』
ーーほうほう。コレで兄も一安心だ。私のキューピットぶりに感謝しろよクソ兄めッ。
そんな事を思いながら兄に先輩情報を開示する。
ちょっとずつ。
兄は今どんな顔をしてるんだろうか。
メッセージが来る来ないで一喜一憂する兄を見ていると色々心配になってしまう。
特に受験勉強の事とか。
今このタイミングでカップル成立なんてさせたら兄は浮かれてダメになるかもしれない。かと言って不安を募らせて勉強に集中できなくなるのも困ってしまう。
ーーやっぱり私が一肌脱ぐしか!
二人の糸は絡まっている。
けれど本人達に自覚はない。
軽くポンっと背中を押すだけで簡単にくっ付いてしまうはず。
百均で売ってる強力な磁石みたいに。
それほどカンタンな状態なのだ。
けれど兄の目の前には大学受験という高いハードルがそびえ立つ。何かひとつでも手順が狂えば受験という名のハイジャンプを失敗してしまうかもしれない。
ーーん? 先輩的にはソレもありじゃね?
ーーいやいやダメダメ。一浪されたら両親が困る。私だって迷惑だ。
その後も様々な作戦パターンをシミュレートしながら神坂先輩とメッセージのやり取りを続ける。
『今日撮った写真、兄に見せてもいいですか?』
『え、やだ。恥ずかしいし』
ーーこの堅物め。
『じゃあ、兄のプライベート写真と引き換えならどうです?』
『それは・・・ちょっと揺れる。かも』
ーーかかった。
「フフフ」
悪い笑いを止められない。
「コレで行くか」
ピロン。
選んだの先日の撮影会の写真。
最初の一枚。
シャツのボタンを外し上着を脱ごうとしているワンショット。モデルが兄で無ければイイ写真なんだけど。
けれど神坂先輩にはお宝のはず。
ピロン。
『ギャー!カッコ良すぎるー!!』
「お次は、コレだ!」
ピロン。
送ったのは兄の腹筋画像。
それなりに引き締まっているイイ腹筋。
なのだけど。
おへそ横のホクロからヒョロっと細長い毛が生えていて笑いを誘う癒やし系画像になっている。
ピロン。
『ヒョー!!美し過ぎて死んじゃう!』
ーー美しいだと?
次に送るデータはちょっと苦労した。
慣れないアプリを使って加工する必要があったから。
ピロン。
送信ボタンを押してから送信完了まで少し時間がかかる。それだけ大きなデータである証。
神坂先輩のジャンプから兄の小っ恥ずかしいセリフまでを切り取ったムービーファイル。
きっとコレで先輩の腰は砕けるはすだ。
ピロン。
『いやぁああああ!!!』
その後の神坂先輩の反応はお察しの通り。
舞い上がった先輩から言質をとるのは容易かった。
今日撮影した写真以外もOKになる。
ーーフフフ。
ーー兄よ。悶えるがいい。
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