第4話 わな
半裸の兄を制服姿の妹が襲うという悪夢はあっけなく終了した。
母が帰ってきたのだ。
「何やってんの! あんた達!」
俺は初めて聞く地の底から響くような母の声に身もアソコも縮み上がったが、妹の方は別に何でもないって感じでまったく動じていなかった。
その上・・・
「お兄ちゃんに筋肉の付け方を教わってたんだよ」
と少々事実を捻じ曲げて伝える始末。
それを聞いた母も母で
「なんだ、そうなの?びっくりしたわー」
で済ませてしまう。
家庭内での信用度あるいはヒエラルキーというモノは兄より妹の方が遥かに上位である事を思い知った瞬間である。
そんな悪夢のような夕方の出来事を消化できないまま夜を迎えた。
自室のベッドに横たわりながら『筋肉のカタチ』について考える。だが、その疑問が浮かび上がるのと同時に太ももの内側にあの時の『感触』も一緒に蘇ってしまった。
脚の付け根に熱がこもり周囲の皮膚がひきつるのが分かる。
ーーイカン!別の事を考えよう!
だが別の事をと思えば思うほど思春期の嵐は激しさを増して行く。
「スマホ、スマホ」
俺は脳内に発生した妄想の卵を押し潰すため自分の行動をワザと声に出して気を逸らす。
「ゲーム、ゲームの続き」
ベッドから抜け出し机の上に置かれたままのスマホに手を伸ばす。
「ヤベ、メッセの嵐じゃん」
友人やゲーム仲間からのメッセージがいくつも並ぶ中に妹からのメッセージが混じっている事に気付いてしまう。
ーーごくり。
ーーまさか見抜かれてるのか。
などと思いつつ妹からのメッセージを最優先で確認。
『協力さんきゅ!』
『腹筋カッコよく撮れてたよ』
『ねぇコレ見せていい?』
『いいよね!』
相変わらず一方的な言い分だ。
『ダメに決まってるだろ』
と打ち込んだけれど送信ボタンは押せなかった。
ーー誰に見せたいのか?
ーー何故見せたいのか?
そんな疑問が浮かんだからだ。
打ち込んだメッセージを削除してメッセージを書き直す。
『誰に自慢したいんだ?』
見せたい理由をストレートに聞いても誤魔化されると思ったので、少し挑発する意味も込めて『自慢』って単語を選んでみた。
ーーコレで謎が解ける。
ーー解けなくてもヒントは得られるはず!
「ふふ、兄の賢さを思い知れ!」
俺はニヤリとしながら送信ボタンを押す。
けれど妹からの返信は来なかった。
友人への返信を済ませゲーム仲間からのお誘いは丁寧なお断りを入れ万全の態勢で待っていたにもかかわらずだ。
「焦らしテクニックとか高度過ぎるだろ」
本日何度目か分からない敗北を認めた。
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