第3話 ふたり撮影会
「はいはい、今度は後ろ向いて!」
結果だけ言えば俺は敗北し妹の要求を受け入れた。だが厳しい交渉の末たったひとつの事だけは守り抜いた。
兄としての誇りをかけてパンツの着用を認めさせたのだ!
妹に。
リビングに妹と2人。
俺は半裸になってソファーの上でポーズを決める。
「ソファーの背もたれに片脚のせてくれる?」
「こ、こんな感じか?」
「そそ」
パシャリ。
「うーん、なんか違う。ポーズはそのままで太ももに力入れてー」
「おぅ・・・」
パシャリ。
パシャリ。
「いやぁ、改めて観察すると脚の毛ヤバイな、お兄ちゃん」
「じっくり観察すんな! 感想も禁止!」
「へーい」
パシャリ。
俺の半裸を撮影する妹を見ていて感じる違和感。
あれだけ熱くヌード撮影を迫ってきたのに、いざ撮影が始まるとえらく淡白なのだ。
ひと言で言えば熱が無い。
ーー本当に俺の身体を撮りたかったのだろうか?
「ねぇ、お兄ちゃん」
「なんだよ」
「パンツ」
「脱がねーよ!」
熱は無いくせに食い下がる。
「今度はこっち向いて腹筋に力入れてー」
「ぐぬぬぬ」
「おぉ、割れてる割れてる」
パシャリ。
「なぁ、なんで俺こんな事してんのかなぁ」
俺のへそのアップを撮ろうとスマホカメラを近づけたり遠ざけたり構図に悩む妹に質問を試みる。
「ん? チョロいからじゃない?」
パシャリ。
ばっさりだった。
ーー聞き方を間違えた。
「聞き方が悪かったな。そのぉ、アレだ。お前はなんで俺のはだか画像を欲しがるんだ?」
ズバリ、男らしく兄らしく核心を突いてみる。
「はぁ? 私が? なんで?」
間髪入れずに返ってきた妹の声には微かに怒気が混じっていた。
ーー思ってた反応と違う!
「いやだって、お前の方から凄い勢いで俺に迫ってきたじゃん」
妹の導火線に着火しない事を祈りつつ、なるべく簡潔にかつ低刺激な反論。それでも着火する時は着火しちゃうのだけど。
「んー、グイグイ押せば落ちるかなって思っただけだよ。お兄ちゃんヘタレっぽいし」
妹の導火線に火はつかなかった。
けれど欲しい答えははぐらかされ、ついでに兄の尊厳も踏みにじられる。
「落ちるかなって・・・酷いなオマエ」
「落ちたじゃん」
先程の怒気が消え、今度はとことん無邪気な笑顔を向けてくる妹。その姿を見て俺は小さなため息をつく。
「はぁあ・・・」
欲しい答えから遠ざかるのはもどかしいけれど、今の俺は敗残兵。勝者の無茶振りには多少目を瞑るしかないのだ。お手上げだった。次に出すべき言葉など何も思いつかないでいた。
そんな俺の心中を察してくれたのか、たんに気が向いただけなのか今度は妹の方から言葉をよこしてきた。
「お兄ちゃんはハイジャンプの時に筋肉のカタチって意識したりする?」
「は? カタチ? 筋肉の?」
「そうカタチ」
意味がわからない。
筋肉を意識するかと聞かれれば、ある程度は意識していると答えられる。だけど筋肉のカタチとは一体どう言う事なのかまったく想像できない。
ーー頭の中がクエスチョンマークでいっぱいだ。
少しの間を置いて俺にソレ以上の返答の用意がないと判断した妹はさっきと違う角度から話を進める。
「ハイジャンプの時ってさ、踏み切りのタイミングや身体を捻る瞬間とかに筋肉を意識したりするでしょ?」
「うん。まあ。する、かな」
言われてからジャンプの時のイメージを思い浮かべて見るけれど、踏み切るタイミング以外そこまで筋肉を意識した記憶がなくて曖昧な返答になってしまう。
「その瞬間の筋肉のカタチ、くっきり浮かぶ筋肉のラインをね、意識してるのかなって」
「いやぁ、まったく考えた事はないなぁ」
「だよねえ」
一体何を聞かれているのか理解は出来ないけれど、妹の纏う雰囲気が真剣モードに切り替わっている事に気が付いた。
ーーひょっとしたら部活の事で何か悩みがあるのかも。
ーーここは兄として陸上部の先輩として良いアドバイスをしなければ!
などとズレた思考に酔いしれる俺の頭に再び妹の声が届く。
「やっぱ見るだけじゃわかんないな」
そう言い放つと妹は俺の内腿の肌をパンツのラインギリギリまで『スーッ』と優しく撫で上げた。
「ひゃん!」
かわいい声がリビング中に響き渡る。
俺が出した声だった。
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