自然の摂理
「あれは何ですか?」
「あれはレオナード兄上とヘンリー・ローです」
教科書に登場する初級構文の如き会話である。
サロンから聞こえてきた長兄のテノールに誘われるように足を運べば、長兄と末弟が向かい合って座っていた。末弟は長兄の落ち着いた声音にいつになく真剣に耳を傾け、ノートに書き取りをしている。その青い瞳には静かな炎が揺らいでいる。
第一王子である我らが長兄レオナードは、祖父と父の後継として兄弟の中で誰よりも勉学に忙しく、日々を分刻みのスケジュールで過ごしている。けれども、兄は、自分を含め弟たちに弱音を吐く姿を見せたことはない。そのやさしくも忙しい兄が弟と一緒の時間を過ごしているのは珍しい。
「……二人は歴史の勉強をしています」
次弟デイビスのまたしても初級会話構文のような言葉にラグランドは片眉を上げた。末弟ヘンリー・ローは先日念願だった王立魔術学院の入学試験に合格したばかりである。気を抜かずに勉学に励むとはなんとも立派だ。
「へえ、それは関心」
「いや、それがですね、兄上……」
言いよどむ次弟にラグランドは瞬きを返した。四兄弟の中で誰よりも冷静で、誰よりも面白い愛称「氷の王子様」で呼ばれるこの次弟が目を泳がせて言葉に迷う姿はとても珍しい。明日は雨かもしれない。
「その、あれはタイニー・ベル嬢に手紙で何気なく質問された王宮の歴史にうまく答えられなかったのも、返事が遅れたのも相当悔しかったみたいで。しょげたヘンリー・ローに、レオナード兄上が一緒に勉強しようと声をかけて現在に至ります」
言い終えるなり、第一目撃者デイビスは顔を両手で覆った。
今日も長兄が立派で、弟たちが可愛い――
第二王子ラグランドは両手で顔を覆い、天を大きく仰いだ。深く息を吐き、サージェント王家の王子たちにとっては太陽が東から昇るのと同様の摂理を噛みしめた。
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