二人のワルツ

 サロンから懐かしい音色が聞こえる。穏やかでゆったりとしたピアノの音に誘われるようにように足を運ぶ。

 少しだけ開けてあるサロンの扉の前には、先客がいた。小さな椅子に腰掛けて耳を澄ませる母と、その後ろで影のように控えている父だ。父はこちらを認めるなり金色の眉を上げた。

「おかえり。ずいぶん早いじゃないか」

「ただいま帰りました。父上こそ今日もお早いお帰りで」

「イザベルが退屈しているようだから本屋が閉まる前に寄ってきたのだ。だが、その必要はなさそうだ」

 内容は残念そうなのに、口調も扉の奥に向ける翡翠色の双眸もずっと穏やかだ。頷きかけ、彼は父の携えた雑誌に目を丸くする。

「父上もですか……」

 鞄から同じく今月号の『月刊猫ざんまい・春爛漫号』を取り出すと、父は一瞬目を丸くして頷いた。親子だな、と。

「二ヶ月ぶりの二人のワルツ、やっぱり素敵ね」

 思い切り頬を緩めて笑いかける母にニールも深く頷いた。偶然にも二冊あるこの雑誌はピアノを弾き終えた妹とその婚約者殿にそれぞれ進呈しようと思いながら。

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