お嬢様は贈りたい
母が祖母から譲られて輿入れ時に纏ったウエディングヴェールを、この秋、イザベルも受け継いで身につける。ドレスの仮縫いの段階で王宮に貸し出していたそのヴェールがオーキッド家に本日戻ってきた。繊細でたおやかな刺繍に目を細めていた母が突然噴きだした。イザベルが三度まばたきをすると、目尻に浮いた涙を細い指でそっと拭い、やっぱり母は笑った。婚約式のことを思い出したらなんだか懐かしくて、と淡い菫色の瞳を和らげる。
「お父様ったら、イザベルが『大きくなったらお父様のお嫁さんになりたい』と約束してくれるまで絶対にサインするものかと陛下と王太子殿下の前で駄々をこねたのよ」
大人たちの手続きが終わるまで、イザベルはヘンリー殿下とそのお兄様方とお菓子を食べたりピアノを連弾したりボードゲームをしたりしていたので全然知らなかった。
「……お父様とお茶の時間を秋まで毎日ご一緒したいです」
イザベルがそっと希うと、母はとびきりやわらかく頬を緩めて頷いてくれた。
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