大ヒット作に学ぶ ワイルドスピードの徹底されたサービス精神



 ヒット作って、ヒットするだけの理由が必ずあると思うんですよね。とくにシリーズ化されて、長く続く作品。


 ワイルドスピードって映画があるじゃないですか。

 僕はテレビで放映したのを三作ほど見たんですが。

 とくにファンでもないし、車やアクション映画が好きなわけでもないのに、なんとなく一作見たら、わりと面白かったんですね。そのあとはテレビでシリーズがやるたびに見てます。まあ、スマホぽちぽちしながらでも。


 とくに出てる俳優さんが好きだとかもないわけで、純粋に映画に惹きつけるものがあるってことなんですよね。


 もちろん、派手なカーアクションが売りのシリーズですから、そこは迫力あります。そして毎回、強大な敵に立ち向かっていくストーリー。


 そのなかで基軸になっているのが、仲間やファミリーとの絆なんですよね。とても普遍的な感情です。世界中の誰もが共感しやすい。


 つまり、

 1、華麗なアクションの連続。作品中、半分以上がアクション。

 2、家族や仲間、恋人を大切にし、毎回、必ず誰かのピンチを救うことになる。裏切りがあるように見せて、じつは裏切ってはいない。疑惑の仲間を信じ続けるみんな、という構図。

 3、かつての悪役がケンカののち、改心して仲間になる。少年漫画のような王道展開。

 4、前述のくりかえしになるけど、絆がよりどころなので、宗教などセンシティブな問題にはふれてない。したがって、どの国のどの宗教のどの人種でも楽しめる。


 上記のような点で、ヒットするように気をつけて作ってるんだなぁと。


 ただ、それだけではないんですね。細かい部分でのサービス精神がとにかく旺盛。


 つかみの演出とか、ラストの余韻とかを、ほんの少しのサービス精神で、グッと盛りあげてる。


 そこは映画ですから、映像的なサービスですね。視覚からの情報量は、とにかくスゴイですから。何が起こってるか一瞬で理解できますよね。


 カーアクションが一番の売りなので、当然、観客は女性より男性が多いと想定されます。だけど、主要メンバーにはマッチョな男が多く、主役に恋人はいるものの、だからと言って激しいラブシーンがあるわけじゃない。再会して気持ちが昂ったときにキスくらいのもん。


 だからでしょうね。男性の観客の目をひきつける演出が、冒頭に近いあたりで、必ずあるんです。かるいエロですね。あれなら文章で描写しても、カクヨムでギリオッケー。


 ていうのが、毎回、メインストーリーとは別に冒頭でちょっとしたカーレースをするんですが、そのとき、ミニスカハイヒールのめっちゃくちゃナイスバディな外国のお姉さんが、たぶん、あれ自分の下着ではないかと思うものを使って、スタートの合図を切るんですね。自分の下着ですから、当然、本人ははいてない。それでミニスカでハイヒールなんで、まあ、あるていどはどうしたって見えるわけです。見えそうで見えないラインを保ちながら、真っ赤な下着をふりおろす。下着って上じゃないです。下ですね。足長のスタイル抜群のお姉さんですから、そりゃ男ならガン見しますよ。


 そのシーンを見てるときに、「あれ? このシーン、前にも見たことある。もしかして、この前見たのと同じ話かな?」って思ったんですね。けど、ストーリーが進むと、やっぱり初めて見るやつだったので、じゃあ、あの既視感はなんなんだ、と。


 もしかして、毎回、またはシリーズの何作かで入ってるお約束のシーンなんじゃないのか?


 足りないお色気をここでカバーしてるわけか。

 お約束だとしたら、毎回、違う女の子を使ってるだろうし、それを見比べるなどして楽しみにしてる人も多いだろうな。


 そう結論づけました。

 映画のなかで言えば、ほんの数分なんですが、存在感のあるシーンです。こういうちょっとしたサービスって大事だよなと。たまたま似たシーンが僕の見た二作品に入ってただけの可能性もありますが。


 ワイルドスピードは最初から見てるわけじゃないので、人物関係がイマイチわかりません。が、印象に残ってるシーンがほかにもあります。そこも感心しながら見てました。


 それはシリーズ何作めかのラストシーン。兄弟のようにすごしてきた仲間の一人が、結婚して家庭を持って、妻子と平穏に暮らすために引退する、と決意します。


 最後に主役と二人で「いっしょに走ろうぜ」となるんですが、平凡な日本人は一台に乗りこむと思うじゃないですか。でも、ドライブを楽しむわけじゃないんですね。彼らはそれぞれの愛車に乗ります。


 そして、海岸線沿いのカーブの多い山道を競走し始める。ああ、走り屋だからか。でも、これだと話もできないし、楽しいのかな? なんて愚かなことを考えてしまったことを、次の瞬間、後悔するハメに。


 ちゃんと計算しつくされた演出だったんです。

 それまでクネクネしたカーブの一本道を、抜きつ抜かれつ、最後には二台がピッタリならんで並走します。

 すると、次の瞬間、道の前方が二又にわかれるんです。二台のスポーツカーは左右別々の道へ進み、それをドローンかヘリですかね? 俯瞰して上から撮るわけです。


 その道が二度とまじわることがないと気づいたときに、ゾクッとしましたね。


 なるほど。これは二人のこれまでとこれからを暗示する演出だったのか。これまではずっと、競いあいながらも肩をならべて走り続けてきた。でも、これからの道は別々なんだ。それぞれの生きかたがある。


 空は晴れ渡り、海のスカッとした青がまぶしくて、清々しさもありつつのちょっと哀愁。

 二人の別離を視覚的に表現する見事な演出でした。


 別れてしまうんだけど、それでも、こうして走り続けているときは、いつもおまえといっしょだよ。たとえ道は離れても、おまえはおれの兄弟だ——みたいなね。そういう精神性まで感じさせました。

 人間関係をよく知らない僕ですら、ジーンと来ましたね。


 千言万語をついやすより、主役の気持ちがつまった、いいラストシーンだったと思います。


 て言うか、この話を最初に見たので、以降のシリーズ作品も見るようになったんだろうなと。


 ヒット作には人を惹きつける何かがある。それは、ちょっとしたサービス精神だったり、わかりやすい演出だったり、普遍的な感情だったり。


 小説でもとりいれることはできると思うんですよね。小説は文章だから、目で見るメディアには劣ると言った主張をされる人もありますが、サービス精神は小説でだって発揮できます。『読者が楽しめる』を意識するかどうかの問題なのかなと。

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