長編が書けない人のための長編用プロット作り



 さて、じゃあ、プロットのコツ。今回は限定的な説明ですが、これは面白い作品のプロット作りの基本でもあります。あくまで、僕のやりかたで、ですが。


 僕はあらゆる長さの小説をたくさん書いたので、ネタを思いついたときに、これなら最適の長さは短編かなぁとか、絶対長編だなとかわかる。


 でも、なかには短編は書けるんだけど、長編がどうしても書けない、という人もいますよね。


 以前にも似たような内容は、このエッセイでも書いた気がしますが、今日はもっと具体的に、じゃあ、どうすれば長編が書けるのかなと。

 前提として、エタらないための作りかた、です。


 エタりましたという人の近況を読むと、ほぼ百パーセント「もうネタが思いつかないので、ここでやめます」または「思いつかないので最初からプロット練って書きなおします」というもの。


 これは、たいてい、ストーリー全体の起承転結、とくにラストの締めかたを考えずに、世界観やキャラクター設定だけど書きだしてしまったせいですね。


 僕も以前はまれにですが、途中で書けなくなることがありました。長編ですね。

 失敗するときには共通点があって、世界観だけ、キャラクター設定だけ、あるいはその両方だけが思い浮かんだ状態で、ストーリー展開はまったく決まってないにもかかわず、ムリやり書きだしてしまった……。


 そんなときはどんなに奇抜な世界観でも、キャラクターが生きてても、けっきょく途中で話を思いつかずになげだしてしまうんですね。


 そう。書きあげるために大事なのは、世界観でもキャラクターでもない。それは作品の魅力の部分に大きくかかわってくるんだけど、言わば、色づけ。大事なのは展開です。とりあえず、おおざっぱでもいいので、冒頭からラストまでの流れができあがってること。


 つまり、ストーリーさえできあがっていれば、世界観やキャラクターはあとでつけたせる。


 さて、今回はとくに、ふだん短編しか書けないという人向けの長編講座です。

 なので、そういう短編書きさんは、むしろショートストーリーのネタはよく思いつく、という人が多いんじゃないでしょうか。だけど、それを長編に伸ばせないってわけですよね。


 書籍化の目安とされてる10万字なんてムリ。行って二万字。ふだん書く話は5000字ていど。という人が、10万字を書くために。


 前々から、短編用、長編用の描写量の厚みがあって、短編はアッサリ、長編は濃く描写することで、文字数は調整できますと言ってるんですが、さすがにこれだけで2000字しかない話を10万字にまで伸ばすのはムリがある。ストーリーが薄くて読者が退屈しますから。


 というわけで、まず作品を書きだすために用意しておくもの。


 1、キャラクター。

 たぶん、短編書きさんは、ここが苦手な人が多いと思う。読み切り短編では、キャラクターの個性ってあんまり必要ないので。わりと、どこにでもいるような人が主役で進められる。作者の分身のような人でもよし。

 長編の場合は、かなりしっかり個性のある人が、三、四人は欲しい。キャラクターが物語を進めてくれる推進力になる。


 2、世界観。

 独特な世界を構築しておけば、そのルールのなかでストーリーが展開していくので、全体の統一感を保ったまま、話の幅を広げやすい。さらに世界観の描写などにも、あるていど文字数を使うため、必然的に長くなる。ただし、説明書きをダラダラすると読者は飽きる。とくに冒頭でやっちゃいけません。世界観の説明は必要最低限を小出しに。できれば風景描写、人物描写やキャラクターの行動のなかに、さりげなく入れこむ。


 3、ショートストーリーのネタを五、六個用意する。(前提としてネタ一個ずつの起承転結はしっかりつけておく)

 ここは短編書きさんは得意だと思う。

 一話ぶんのネタで長編一つを書こうとするから、どうしても短くなる。短編を一話二万字で書いたとして、五つ集めれば10万字じゃないですか。単純計算して長編になる。キャラクターと世界観で全体をまとめれば、それっぽい作品になる。


 上記は連作短編の書きかたですよね。単純にショートストーリーを同じキャラクターで書いて、集めただけ。


 こんなんじゃない。もっと、ちゃんと長編が書きたいのであれば、用意した短編をミックスしましょう。ストーリーを一話ずつじゃなく、数話並行で同時に進めるわけです。たぶん、短編しか書けないという人は、ここができてないんだと思う。


 つまり、一話めの話の起を書いたら、次は二話めの起、三話めの起、そこで一話めに戻って承を書き、四話めの起を入れて、二話の承、一話の転、四話の承、二話の転、一話の結、四話の転をさきに出しといて、五話の起、三話の転、四話の結、五話の承、二話の結、六話の起、五話の転、六話の承、三話の結、五話の結、六話の転結。

 みたいな書きかたです。もちろん、じっさいには作品ごとにこの順番は違ってていい。


 六話ぶんもまぜると頭がゴチャゴチャするって人は四話くらいでもいいかも。ストーリーのテンポは少しゆっくりになりますが。

 これにキャラクター同士の愛憎などをからめれば、10万字くらいは行くはず。


 ただ、この書きかただと、話がぶつ切りになるので、そこをまとめるコツは、全体のテーマとなるショートストーリーを最初に一つ選んでおくこと。一から四話(またはもっと多く)のなかで、これがもっとも重要かなと思うネタを、全体のメインストーリーにします。ほかのネタはメインストーリーを補足するためのサポート。サブストーリーです。


 サブストーリーはキャラクターのなかの誰か一人に焦点をあててもいいですね。脇役を輝かせる手法です。

 逆に言えば、メインストーリーはキャラクター全員に関係する内容であるほうがいい。


 具体的に例をあげると、


 ある街に平凡な高校生がいて、となりの幼なじみに片想いしてる。その幼なじみからある日相談を受ける。最近、庭のかたすみに夜になると必ずリンゴ(もっと変なものでもよし)が一個置いてある、なぜかわからないので気味が悪いと言われ、二人で調べることに。(これはサブストーリー)


 一方、十年前にバディが謎の死をとげた事件を追い続ける刑事がいる。(これもサブストーリー)過去の事件をからめつつ、今の事件も捜査。


 両者はまったく無関係と思われていたが、じつはつながりがあり、ある連続殺人事件を解決するいとぐちだった。(これ、メインストーリー)


 さらに後半から出てくるふつうのおばさん。娘の反抗期が悩みの種。平凡な生活に見えて、じつはこれが全体の事件のつながりを知る突破口になる。(これじたいはサブストーリー)


 こんな感じですね。


 ショートストーリーをまぜて書くときに、一話から六話の起承転結を単純に順番に書くんじゃなく、バラバラにおりこんでるのは、作品全体に緩急をつけ、読者を飽きさせないためです。起ばっかり六回も続けば、もっさりしますよね? やっぱり転や結は盛りあがりの部分なので、演出も派手になるし、展開も早くなる。なのでチョコチョコ、そういうのがはさまれると、全体のテンポがよくなる。


 なんなら、まんなかで犯人視点のサブストーリーが起承転結まるまる一話入ってたりしてもいい。短いストーリーであっても、犯人の存在感が増す。


 あとはこれに世界観として、国民全員の脳波がマイクロチップで管理され、ウソをつくと即時発覚する社会とかの設定を入れると、SFミステリーになります。ウソをつかずに、どうやって刑事をごまかすかなどの犯人との心理戦が生じますよね。ストーリーの色づけです。


 キャラクターとしては、幼なじみのヒロインが、例の刑事にひとめで惹かれる。主役の高校生はやきもき。だけど、じつは刑事はヒロインの生き別れのお父さんだった、とかね。家族として懐かしさがこみあげてたわけです。


 これら、今てきとうに考えたプロットだけど、書こうと思えば10万字には達しそうじゃないですか?


 あとは元ネタのショートストーリー同士の相性もあります。似たネタを持ってくると、まとまりがいいし、でも意外性も欲しいから、まったく接点のなさそうな話題を一つ、二つ持ってくるとか。


 どのストーリーをどのキャラクター視点にするか、全体の順番として前半に持ってくるのか、後半に持ってくるのか、など。


 まぜることによって、相乗効果で話がどんどんふくらむ場合もありますし。

 じっくり練れば、長編一作にはなるはず。きっと。

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