キャラを崩壊させないギャップの作りかた



 前回で終わらせるつもりでしたが、キャラを崩壊させないためには愛です、愛と書いたけど、そう言えば、どうやったら崩壊させないギャップを作れるのかという具体的なことを書いてなかったなぁと。


 じゃあ、崩壊してしまった前回のマンガの二例を参考にして考えていくと、まず、崩壊してしまうのは、なぜなのか。


 つまり、そのキャラクターの本来の持ち味を新たにつけくわえたギャップが消してしまったから、ですよね。


 両者ともBL要素があったので、最初に出たときは超絶美形の役どころでした。カッコイイ、美しい、セクシー、耽美、ノーマルな男を夢中にさせてしまう——だいたい、こんな感じ。ビジュアルはまったく違いましたけどね。一方はブロンド長髪。もう一方は黒髪短髪でしたから。


 ただ、崩壊していく過程は同じでした。両方とも、足されていくギャップが耽美、美形と相入れない要素だったからです。


 片方は食いしん坊、子どもっぽい、空気読まない、能天気みたいに足されていって、いつしかただの単純幼児系キャラに成りさがってしまった……。


 もう片方は、ちょっと過程が複雑なんですが、彼の部下にめっちゃ個性の強い人物がいたんです。ドケチの会計係でした。そのキャラじたいは僕も好きでしたよ。いい味出してたので。


 ただね。そのキャラにひきずられて、主役もいっしょにどんどんコメディ路線に落ちていったんですね。イジられキャラになってしまったあげく、敵役の軍人のほうをカッコよく見せるために、一人まったく明後日の方向でギャグをかまして、メインストーリーにからまなくなってしまったんですね。最初は盗めないものはない超一流の怪盗だったはずなのに、最後のほうはぜんぜん、へっぽこ三流泥棒に成り果ててた。むしろ、メインストーリーのかきまわし役。


 つまり、部下のドケチをきわだたせるために主役の個性が負け、どんどんカッコ悪くなって、物語の舞台から去ってしまった。そのマンガのタイトルは主役の名前だったのにね。


 そう。ギャップでキャラを崩壊させないためには、そのキャラの長所を消さないこと、なんです。上記の二例も最初の設定の美形耽美セクシー路線を守りとおしていれば、崩壊はしなかったと思う。


 愛があればキャラを壊すことはない、というのもそのへんのことです。作者がその人物を愛していれば、キャラがカッコ悪くなってくような変なギャップは入れないですから。


 ですが、長期のシリーズ作品だと、たしかにギャップは欲しくなりますよね。というか、作者にその気がないにもかかわらず、勝手に新しい一面が出てくることだってあるし。


 例をあげるとですね。

 うちの『八重咲探偵の怪奇譚』のヒロイン、八重咲青蘭やえざきせいら。彼はパッと見、長身(女性にしてはです。170センチあるかないか)の絶世の美女にしか見えない細身の美青年。手足が細くて華奢なんですが、怪力なんですよ。成人男性くらいなら、ヒョイっと持ちあげることができます。まあ、これには出世の秘密があるんで、その秘密を知れば「ああ、だからか」って納得できます。


 これ、初期設定にはなかった要素なんですが、第二部くらいでなにげに、青蘭が龍郎に肘鉄をくらわせたら、そうとう痛かったって描写を書いて「むっ、これ、使える?」と思ったんですよね。


 フォロワーさんのあるかたとこの話で盛りあがったことがありました。以下、フォロワーさんの質問からです。


「じゃあ、青蘭自身は自分が怪力だって知ってるんですか?」

「いや、知らないと思いますよ。龍郎が『青蘭って、かなりの怪力だよ。おれは武道もして鍛えてるし我慢できるけど、ふつうの男なら肋骨折れてるからね』って言わないかぎり、気がつかないんじゃないですか?」

「本気でケンカになったとき、言わないと龍郎が死にますよね?」

「ケンカのときに言ったら、怒り狂ってるから、よけい乱暴になるんじゃないですか?」

「じゃあ、ふだんにさりげなく言うしかないんですね」

「そうですね。青蘭が機嫌のいいときを見計らって言うしかないですね」

「青蘭、龍郎にそんなこと言われたら、泣きますよね!」

「泣きますね。『じつはさ、青蘭って、すごい怪力だって知ってた? たまに叩いてくるとき、ものすごく痛いよ?』『みゅう……』(泣いてる)こんな感じ?」

「泣きかたが可愛い!」


 って、長い引用でしたw

 キャラ愛を感じてもらえたでしょうか?


 青蘭は超絶美形、耽美、セクシー路線。一見、傍若無人の超富豪なんですが、心をゆるした相手にだけ甘えん坊になります。トラウマのせいで子どもっぽい一面も。怪力設定はあってもなくてもかまわないんですが、まあ、長所を殺さない要素だったので、とり入れてみました。


 長所を消さない、殺さない、これが重要ですね。

 なので、そのキャラクターの長所、短所を知っておくことが大切です。把握できてるか心配なら、紙に書きだしてもいいですね。

 新しい要素となるギャップを思いついたとき、それがキャラクターの長所を消さないなら、足してもオッケー。どうやっても相殺しそうならやめておく。


 たくさんの要素があれば、より人物像に深みが増していくので、本来ならギャップはどんどん、とり入れていくべきなんです。相殺するか、しないか、この一点にだけ注意しておけば、あとで困ることはないはず。


 またまた青蘭の例で悪いですが、子どもっぽいっていうのもギャップとして出てきた要素です。ふだん横柄で他人を信用しないくせに、ぬいぐるみが大好き。


 この要素、入れるか入れないかは、キャラによっては悩みどころだと思います。耽美、セクシーとそぐわないですから。

 青蘭の場合は、多重人格で五歳のままの青蘭がいて、過去のトラウマにも結びついているので、それもまた魅力の一つになり得ると判断しました。


 長所を消すかもしれないけど、重要な理由があるギャップなら、さらにキャラクターに幅を持たせてくれるわけです。ギャップの必然性ですよね。


 ちなみに長所っていうのは表面的に見えてることが多いですよね。なので、ギャップっていうのは短所にからんで出てくると思うんですよ。短所を強調する形になってしまうので、長所と相反することがままあるのではないでしょうか?


 でも、短所が魅力的な人って、そこが可愛いって感じますよね?

 短所を魅力的に見せる。それがギャップのコツなのかもしれません。


 人間には表の顔、裏の顔ってあります。ギャップはおもに裏の顔に属するんでしょうね。うまく使いわけると、「人間性が浮薄」「紙切れみたいな人間」なんて言われることはなくなりますよ。

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