読まれる小説24 導入部のコツ2

 ※注

 前エピソードと同じシリーズ作品につけたサポーター特典です。



 さてさて、二回めですね。

 では、さっそく、改稿前にダイブ!



 *


「正装でありますか? ワレス隊長」

「うむ」


 昼下がりのことだった。


 広大なユイラ皇帝国の辺境の砦、ボイクド城。

 魔族の徘徊する森から国内を守るこの城に、傭兵として来たワレスが、分隊長になって、しばらく経ったころのことだ。


 食事から帰ってきた部下のハシェドが、裾の長い衣とマントをつけたワレスを見て、声をかけてきた。


 ワレスは飾り帯に剣をさしながら答える。

「今日は入隊者があるだろう。広間へ行かなければならない」

「ホライの代わりですね。あいつも運がなかったな」


 ホライは、つい四日前に死んだ同僚のことだ。



 *


 まあ、こんな感じです。

 どうってことない普通の出だしですよね。


 でも、そこが問題なんです。

 この出だし、普通すぎる……。


 正装って言葉で、一瞬、何かが揺れたけど、深くつかむこともなく淡々とすぎてしまった。そんな感じ。


 一話めは習作として書かれ、二話めは、その応用として書かれたため、いろいろと何かが足りない。


 たとえば、この話の一番、重要なキーワードって、「似姿」ですよね。このワードには、いろんな意味が、こめられてます。


 1、魔物の正体についてのヒント。人に似て非なるもの。

 2、コリガン中隊長が、ずっと持っていた思い出の細密画。

 3、ハシェドがワレスの容姿にあこがれていることを示す小道具。

 4、ブランディが持ってた例の絵のせいで起こるドタバタ。


 なので、ここは、どうしても、それらに、つなぐ何かが欲しい。



 *


 ユイラ皇帝国の辺境の砦。

 ボイクド城の昼下がり。

 ワレスが、この城に来て、ひとつきあまりだ。


 宿舎の自室で、ワレスが着がえていると、いきなりドアがひらいた。

 まあ、しかたない。ここは傭兵たちの十人部屋だ。とつぜん、同室者が入ってきたからと言って、とがめることはできない。

 身投げの井戸事件を解決した手柄で、分隊長に昇格はしたが、やはり、大部屋のままだ。


 入ってきたのは、ハシェドだ。

 ワレスを見て、一瞬、息をのむ。


「早くドアをしめろ。外から見える」

 ワレスが叱責すると、あわててドアをしめた。

「隊長! 正装でありますか?」

「まあな」



 *


 と、このあと、さらに、ワレスさんの着てる服の特徴が詳しく書かれてます。ホライのことは、まだ書かれてないw


 そして、この二話めと、一話めの出だしでは、明確な違いが、いくつかあります。


 まず、前回の冒頭編で、会話から始まるのは動きがあっていいと書きました。が、この二話めは、セリフから始まる原文を、あえて地の文にしてます。

 そこに、今回の改稿に、こめられた仕掛け(ってほどでもないけど)がありまして。


 頭にあったハシェドのセリフが、今回の改稿では、かなり下のほうに来てますよね。

 最初に、場所と時間の説明があり、主役が着替えてることが提示され、少し設定の説明があったあと、セリフの前に、ご注目~!



 入ってきたのは、ハシェドだ。

 ワレスを見て、一瞬、息をのむ。



 これこれ。これ、重要ですね。

 息をのませることによって、何か驚くようなことが起こるんだ? と読者さまに思わせる。

 しかも、ワレスさんに叱られるまで、ハシェドはけっこうな時間、見とれてる。


 直後にセリフで、

「隊長! 正装でありますか?」


 つまり、今回の出だしは、このセリフのための修飾みたいなもんですね。

 この場面を印象づけることによって、その後の展開や、ラストへの伏線になるわけです。

 ラストは、わざと冒頭と似た場面にして、余韻につなげています。

 まあ、伏線作りのテクでもあります。


 あと、もう一点。

 一話めの冒頭との違いがありますね。

 それは、この話が連作物だということ。

 二話めの今回は、連作としての冒頭になってます。

 原文では、しつこく、魔物が徘徊して、砦を守る兵士で……と説明くさい文章が続いてますが、改稿では、なるべく、そういうの減らしました。

 なぜなら、読者は一話めを読んで、そのへんのことは、もう知ってるから。

 前回との違いなど、必要な説明だけに、とどめて、ワレスさんの正装を強めました。



 以上、二回、以前のエッセイからそのまま持ってきました。SFやファンタジーは冒頭に設定をつめこみすぎるので、推敲でどのくらい情報をしぼったか、参考までに。

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