読まれる小説25 サービス精神
自分の書きたいことを好きなように書く——
この精神で書いたものを、どうしたら読まれるようになるのか。そういうコンセプトで進めてきた、このエッセイ。
だけど、読まれるためには読者が楽しい、面白いと思ってくれないことには読まれないわけです。
そのためにこれまで、一文は短くとか、漢字多用しないとか、あれこれ言ってきたわけですが、それだけではまだ心もとない。
読みやすい文章はしょせん、読みやすいってだけで、それじたいが面白いわけではないからです。
書き手の書きたいものって、要するにストーリーや作品を通じてのテーマですよね。じゃあ、そこを曲げないていどに、どこかで読者を喜ばせるための努力が必要になってきます。
いや、努力はもういいよ……。
あっ、待って! 今回は練習しろとか、そんなこと言わないから!
この場合の努力とは、サービス精神かなと。
つまり、読者が喜びそうな内容を提供しなければいけない。
たいていの読者さまは、その作者の描くキャラクターを応援してくださっています。
なので、そういうのを見にきてくださる読者のために、何をしたらいいか?
それは当然、読者がドキドキワクワクするようなシーンの演出ですよね。
このとき、作者が書きたくないことを読者受けのために書く必要はありません。単に自分がこのキャラにこんなことさせてみたいなぁというシチュエーションを書けばいいだけです。
前にも書きましたが、作者が楽しんで書いたことは、如実に読者に伝わるからです。作者がワクワクすれば、読者もワクワクする。
じっさい、これまで読者が面白いと言われたのは、自分も楽しんで書いたところなんですね。
というわけで、演出にこだわること。たまにはメインストーリーとは無関係でも、オマケのショートストーリーなど書いてもいいですね。もちろん、メインストーリーのなかでも、読者を思うぞんぶん、ハラハラさせる演出をおこなってください。
さて、サービス精神ってそれだけですかね?
キャラの魅せかただけ?
いやいや、文体そのものにもサービス精神って出るのかなと。読みやすいだけじゃなく、面白い文体です。
要するに、コメディタッチな文章ですよね。
たいていの人は文章ってシリアスに書きますよね。まあ、ラノベはそうとも言いきれませんが、文芸作品はそうです。僕がネットサイトで読んだなかでも、文体だけでクスクス笑ってしまうような作品には出会ったことありません。上手い人には、たまに出会うんですけどね。
ギャグを書かれる人の作品、何作かは読みました。ほとんどが下ネタか、仲間内しかわからない意味不明なネタ、または寒い悪ノリ……まあ、そんなものだった。
小説って、まともに書くことじたい、難しい。慣れが必要なのに、それをセンスよく面白おかしく笑わせる文章で表現するなんて、さらにハードルが高い。ちょっとやそっとの筆力ではムリ。
でもね。書ける人には書けるんですね。
僕が「うおーッ! なんだ、これ! こんな文章あっていいのかッ?」と思ったのは二作品だけ。どちらもプロ作家の紙の本。
一つは『ジーヴスの事件簿』作者はP・G・ウッドハウスです。ストーリーじたいもコミカルなんだけど、とにかく文体が面白い。抱腹絶倒しました。ちょっと日本人にはできない表現。比喩が秀逸。
もう一つは森見登美彦さんの『太陽の塔』これもねぇ、現代書生風文体だったかなんだか言われてました。とにかく独特な文体で、めっちゃ楽しかった。
文章が衝撃だったのは、この二作品だけ。と言っても、僕はそんなにたくさん読んでるほうじゃないんで、もっと読書量多い人なら、他にもお勧めがあるんでしょうね。
森見さんはその後、ホラーを読んだら普通の文体になっててガッカリしました。個人的な意見です。すいません。まあ、ホラーに笑える文体はあいませんよね。
とにかく、上記二作品をたまたま近い時期に読んで、こんな文章を書いてみたい、と思った。
で、それまでシリアスな文体しか書いたことなかったんですが、チャレンジしてみたのが、『東堂兄弟の探偵録』シリーズですね。
僕にはネットに公開してるシリーズ作品が三つあります。シリアスなころに書いた『墜落のシリウス』と、前述の『東堂兄弟』、一番新しい『八重咲探偵の怪奇譚』、この三つ。
そのうち、東堂兄弟だけ、コミカルなんですね。文体が。読者さまのウケが一番いいのは、東堂兄弟。次に八重咲探偵。シリウスはコアなファン以外にはウケが悪い。なにしろ、内容も重いし暗いし、その上、文体もシリアスなんで、耽美とBLに許容のある人じゃないと読めないですからね(^_^;)
コミカルを目指して書いた東堂兄弟が人気なのはわかるとしても、あれ? じゃあ、なんで、同じくホラーでシリアスで重い話もけっこうあってBLなのに、八重咲探偵はけっこう読まれるのか?
思うんですが、たぶん、作中で、たまに笑えるシーンがあるからなのかなと。ギャグを言ってるわけじゃないんですが、主役の性格が優しいので、まわりの破天荒な人たちにふりまわされるようすとか、会話のかみあわない感じとかが、息抜きになってるんだろうなと。もちろん、こっちはそれを狙って書いてるんですが、なかなかの効果です。文体もちょっと、やわらかい。
マンガなどでも、シリアスな作品だからと言って、徹頭徹尾、重暗いわけじゃないですよね。たまに、ちびキャラがジョークを言いあったり、息抜きがある。それもまた、読者サービス。
一万字以内の短編なら、ずっと張りつめた緊張感がただよっていても、ストーリー展開だけで読者をひっぱることができますが、長編の、ましてやシリーズ物となると、そうもいかない。適度な緩急が必要。
そう言った、読者が楽しめる要素を盛りこむ気持ちが大事なのかなと。
ただし、コミカルな文体って文芸よりの編集さんには嫌われるので、要注意。たぶん、笑いのツボには個人差があるので、ピンポイントでその編者さんにウケないと、受け入れてもらえないんでしょう。
ジェネレーションギャップも考えられます。ある年代にしかウケないギャグとか。
たとえばですが、高校生の書いた作品って、文章はつたなくても、同じ高校生にやけにウケたりするじゃないですか。あれって感性が似てるからなんですよ。同じ流行のなかで、同じ番組を観て、同じ本やマンガを読み、いっしょにゲームをして育ってきた人たちだから。
笑いのツボもそんなもの。
ある意味、ターゲットをしぼる諸刃の剣とも言えますが、ネットで読者を惹きつける要素にはなり得る。
とくに、ラノベでは確実に、楽しい文章は武器になる。
よく地の文はつまらないと言われる人いますが、それは、その人がまだ面白い文体を読んだことがないだけ。
文章だけで面白いは存在します。
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