第4話 バトル物には突然のハプニングは必須

「全く、この学校は変な奴らしかいないのか?」


「はぁ、この私もびっくりですよ。まさかあのような輩がこの学校内にいるとは、さらに風俗店に通う教師までも」その変な奴らの中にお前も入っているのだが。と闇は心の中でツッコンだがしばらく歩いて3階へ続く階段を上り終わ廊下を歩いていると、ふと、幽一の足音が聞こえないことに気付いた。


「おい、幽一、何してんだ?」そう、闇は振り向いて言うつもりだった。


 しかしその言葉を言うことはなかった。


「なん、だ?」それは、突如、現れた。夜よりも深く、黒よりも黒く、深淵のように果てしない闇が広がっている腕が、気絶している様子の幽一の首根っこを掴んでいた。






 都立八百万九十九学校のとある部室、入り口には『相談部』と書かれた標識がある。


 カタカタカタカタ


「サビ」


カタカタカタカタ


「サビ」


その女は殻に籠ったような髪型をしていた。その女の唇は枯渇した大地のように荒れていた。


その女は目だけは煌々としていた。


「サビ」


 その女はエロゲーが大好きだ。たくさんのパソコンの画面に裸の男女が映っている。


「荒屋敷 差美!!」先ほどから後ろで叫んでいる女生徒の声で、ヘッドホンでもつけていたかのようにエロゲーの世界から帰って来た差美と呼ばれた女生徒は振り向く。


「おいおい、間禽、ボクは今、忙しいんだ、用事なら後にしてくれないか?」


 差美は間禽と言う女生徒に向かって飄々と、とぼけた様子で言う。


 ブチッ 間禽の血管が切れるような音がした。


「いや、あんた、自分が今何をやっていたか」


「エロゲー」


「……」


「エロゲー」間禽が沈黙するので、差美は繰り返しそう言った。


「いや、分かってるから、問題は何であんたがそんなゲームやってるかってことだから」


 心の中の荒れ狂う怒りと言う名の猛獣を抑え込みながら間禽は冷静に言う。そして、手を広げて「しかも、こんなにパソコン並べて、別々のえろ、ゲームして、あんた一体何やってんの?」


と間禽が言うと、差美は、はぁ、とため息をついてやれやれと言うように手を広げる。


「間禽ちゃん、君は何も分かっていない、何も分かっていないよ、良いかい? 今時のエロゲーは声がついているんだ、あ、そんなの別に珍しいことじゃあないでしょって思ったかい? 違うよ、バリエーションだ、『あ』と言う発音だって、色々と違うく作らなくちゃいけない、『あゆむ』『あきら』ほら、これだけで発音のバリエーションが2つも必要だ、もう何が言いたいか分かるだろう? 様々な女性、男性声優さんが、プレイヤーの名前を正確に、自分の呼び続ける、これがどんなに革新的なことなのか、まるでわかっちゃあいないよ」


「いや、そんなこと分かりたくもないし」差美の演説をスパッと切り捨てる間禽の言葉に差美は少ししょぼくれた顔をする。


「それより、例の黒腕、見つかったわ」その言葉を聞いた時、差美の目の煌めきが強くなった。


「間禽くぅん、それを早く言ってくれよ」口が裂ける程ニンマリさせて差美はそう言った。






「まったく、闇さん、あんまりですううううぅうl!!」と委員会室の中で氷柱が泣いていると


『氷柱!!』『氷柱!!』と耳から女性の呼びかける声が聞こえてきた。


「はい、こちら氷柱、どうしました? 交差」もうそこには、先ほどまで闇にしていた変態はもういなく、例えば、例えば、使えないと判断した社員を解雇することを決断する、そんなビジネスマンのような冷静沈着を装った姿の女性が立っていた。


『氷柱!! 黒腕の居場所が分かった!!』


「なんですって!? 今、どこに、いるのですか!?」


 先日、海辺に浮かび上がったと言う、黒腕の居場所を二人は、正確に言うと、『特殊警察課』


は追っていた。


「そこで、場所はどこですか!?」


『学校の学校の3階だ!!』






 闇は今起こっている状況が理解できなかった。理解できるのは、突然現れた不気味な黒腕が幽一の首根っこを掴んでいることだった。初めは、誰かのいたずらかと闇は思っていたが、その腕の不気味さでそうではないことを悟った。


「そいつを離せ」闇は黒腕に命令する。すると、黒腕は意外にも幽一を離した。


言うことを聞いた!? こいつもしかして害はないのか? と闇は思ったが黒腕の次の行動でその思惑は外れることとなる。


「ミ、ツ、ケ、タ」微かだが、黒腕は闇に人差し指を向けてそう言った。


そして、次の瞬間、疾風をも突き抜ける速さで黒腕が闇に接近する。


「え?」闇が、反応できずにそのまま黒腕に体が触れるか触れないか近づいてきた。


その時、突然、ギュン!! と槍のような形をした、紫色の光が黒腕を襲った。


黒腕はすんでの所でそれを避ける。


「『自分だけの望む夢(オーダーメード)」その声の方向を闇と黒腕は向く。


 カッコッカッコ 自分に近づく足音が廊下に響き渡る。姿も見えないのに黒腕よりもおどろおどろしい雰囲気が辺りを包み込む。


「全く、こんな美少女と遊んでいるなんて、黒腕はかなりの少女趣味がおありのようだ」


 一歩、暗闇から怨嗟のような気味の悪い声がする。


「腕だけプレイなんて随分な趣味があるじゃないか? そう思わないか? 闇ちゃん」


 一歩、近くにいるみたいに大きな声なのに、姿が見えず、どこまでも続く暗闇が闇の前に広がる。


「あまりボクを欲情させるんじゃないよ」


 一歩、口が裂ける程不適な笑みを浮かべながら、その女は現れる。


 闇は黒腕に気を取られていたのか、それともその女が異常なのかいつの間にか自分の至近距離に近づいてきたことに気付かなかった。


「初めまして、ボクの名前は荒屋敷 差美、最近の趣味は複数のエロゲーをプレイすることです、嫌いなタイプは短気な人です、よろしくお願いします」そう言って、闇に握手をする。


 そこで、闇は気付いた。「お前、なんで私のことを」


荒屋敷 差美と名乗る女性は闇の名前をしっていた。


「いやだなぁ、ボクはただの君のファンですよ、黒城 闇さん。ああ、でも、これは偽名だったか」


「!! お前、何を言って」


「ボクが貴方のことを知っているって言ったらどうする?」


そう言って差美は闇に顔をちかづける。


「ボクはこう見えて頭が悪くて知っていることが何一つない、計算もあんまりだし、政治もよくわからない、経済なんて見てもちんぷんかんぷん、歴史は戦国時代しか知らない、英語? ここは日本だレベル、でも……君のことは何でも知っている」そう言って、闇の頬を撫で始める。


「お前、何者だ?」気味の悪さに耐えながら闇は尋ねる。


「いやだなぁ、言ったじゃないか、ボクはただの君のファンですよ」その瞳は煌々としているのに見ただけで心が見透かされているような得体のしれないものが広がっていた。闇の体から自然と嫌な汗が流れていく、「お前は、どこま……!!?」突然闇の体は差美に引っ張られた。


 黒腕の存在をすっかり忘れていた。間一髪の所で差美が体を引っ張っていったお陰で黒腕の攻撃を避けることが出来た。


「『オーダーメード』」再び、光線の槍が黒腕を襲っていく。黒腕は、ナックルで、槍を打ち落としていく、ように見えた、ニヤリと差美が笑みをうかべる。


「打ち落としたのは失敗だったね」見ると黒腕に、槍が一本突き刺さっていた。


「君の性質を、ボクが、奪う!!」差美が開いた手を閉じてそう言うと、黒腕は突然もがき苦しみだした。めちゃくちゃに動き回ることなく、力を失ったようにだらんと力がなくなったように下にさがり、姿が消えて槍が地面に落ちる。


「よし、これで」と差美が勝利を確信した時、突然、ゾルゾルゾルゾル と何か這いずる音がした。二人が何だと思ってみるとそこには人型で顔が巨大なサソリの尻尾になっている化け物が複数現れた。


そして、ギギギ? と鳴きながら生まれたばかりの小鳥のように首を捻っていた。


「「!!?」」勿論、二人は驚いた。刹那、幽一の顔が闇の頭の中に浮かび上がる。


幽一の方を見ると、その化け物が今にも襲い掛かっている所だった。


「幽一!」突如、闇は幽一のもとに飛び出す。その行動に驚いたのは差美だ。


見ず知らずの生徒を助けるために飛び出す、差美が思い浮かべる闇の姿とは別だった。


 しかし、予想外のことが起きたにも関わらず差美は笑みを先ほどより強くする。


「間禽、聞こえるかい?」


『ええ、聞こえている』


「作戦を変更しよう」


『は? 作戦変更ってあんた、ちょ!』


 闇は幽一の元につきそうになっていたがここからどうするか全く決めていなかった。 


どうする!? こいつを連れて逃げるのは100%無理だ、だったらどうする!! と考えている内に化け物が腕を上げて振り下ろした。


「くそ!!」闇はその場で体を広げた。このまま、ここで死ぬのか? と、覚悟を決めて目をつぶった。


 グシャアアアアア


 肉が引き裂かれる音が闇の耳をつんざく、しかし、闇の体に引き裂かれた感触がない。おかしいと思って、闇が目を開けると、「まったく、せっかくの、黒星、が、だいなし、だよ」と目の前には胸を貫かれている差美の姿が目に入った。


「な!? お前!!」差美の口からは血が流れていた。それが足元の廊下を赤く染める。


「はぁ、はぁ、闇ちゃん、君は、こんな所で死ぬのは無しだぜ?」


「お前、なんで庇った!?」闇が質問を叫んでいると、差美は弱々しく口元を緩めて言った。


「だから、言っただろ? ボクは、君のファンだって」そう言うと闇の胸の中心に人差し指を突き付ける。


「『オーダーメード』」闇に胸に何かが入っていく感触があった。


 しかし、すぐにその感触はなくなった。


「右手をみてごらん」蚊が無くような差美の声に合わせて、闇は自分の腕を見る。


「何だ、これ」そこには先ほど浮かび上がっていた黒腕が右手にあった。まるで、初めから右手あったように黒腕がある。


「その黒腕と共に生きるんだ、ヒカリ、ちゃん」そう言って差美は目をつぶり、グシャッとその場に倒れようとしたが、「あ、待って」と言って闇に這い寄る。


「さ、さい、ごに、お、おっぱい、揉ませ」そう言うとこと切れたように地面に崩れた。


 周りに化け物がどんどん集まってきた。闇は差美の体を抱えていた。


 化け物たちが顔を見合わせていた。どうする? そう言っているように見えた。やがて、ギ、ギギギ、ギャハハハハハハハハハハと一斉に笑い出した。シンダ、シンダと一人一人そう言っていた、そしてその声は波のように闇に押し寄せる、そして一人の化け物がはっきりと「ゴミガシンデイッタ、アアオカシイ」と言って頷いた。そして、腕を思いっきり振り上げて、闇に向かって勢いよく腕を振り下ろした。


 ガッ


すると、闇は化け物の腕を軽々しく抑えていた。


「ギギギぎ?」化け物は防がれたことを疑問に思うような声を上げた。


 闇は、はぁっと大きなため息をついた。


正直、闇は自分の置かれている状況が分からなかった。殻を籠ったような変な女に得体のしれない黒い腕を憑りつかされて、しかもその女は謎の化け物に殺されてしまった。しかし、闇には戦う理由があった。良い印象がなかったが人を殺し、その死を侮辱している奴がいる。


戦う理由はそれだけで十分だ。


グシャッと化け物の腕を握りつぶした。


「なにが、ゴミガシンデイッタだ? もう一度言ってみろ」


 グギャアアアアアッと化け物が叫び出す、周りの化け物が一瞬何が起きているのかわからないと言うようにうろたえたが、そこを闇は見逃さなかった。


 目にもとまらぬ速さで顔に黒腕のナックルを飛ばし、化け物の顔に風穴があいた。


 そのまま、化け物たちは倒れて姿が煙のように消えていった。


 だが事態は解決したわけではなかった。闇の目の前に夥しい数の化け物がそこにいた。闇は目の前に転がっている差美を見下ろして、抱きかかえ、そして、壁に座らせるように置いた。


「わりいな、後で絶対助けるから、だから、こいつらは私が片付ける」そう言って前を向いた。


 そして、後ろに化け物がいないことを確認して、差美の近くから少し離れて化け物たちの元に近づき「どうしたぁ!? まさかさっきの奴で精神グロッキーしたかぁ!? 笑えよ、嗤ってみろよ、お前ら」と言って黒腕で挑発をする。すると、化け物たちは一斉にかかってきた。


 化け物一匹に対し、闇は思い切り地面に足を踏みしめ拳で体に風穴を開けようとした。


 しかし、振り下ろした瞬間、ゴシャアア!! 廊下中の空間を埋め尽くすくらいの金属の塊が水道管が破裂したように現れて、化け物を一掃した。


「は!?」もちろん一番驚いたのは闇だ。突然自分の腕から金属の塊が現れて伸びたのだから。しかし、それよりも(なんだよ、これならこいつらを一掃できるじゃねえか)と目の前の腹立たしい化け物共を蹴散らせることを確信した。驚きは自信に変わる。


「嗤えよ、お前ら、さっきみたいに」闇はそう言って更に挑発をする、ギギギ、ぎぎぎぎ、と化け物はうめき声を上げる。そして、次の瞬間、化け物は一斉に接近してくる、と思っていた。


 しかし、化け物の体にピシッと亀裂が入る音がしたかと思うと、次の瞬間、ガラスが割れるように化け物たちの体が全て砕け散った。


「な!?」と闇が驚いていると、急いでいる足音が近づいてきた。


「大丈夫ですか!? 今すぐ非難を、て闇さん?」近づいてきたのは、氷柱だった。体中の汗は戦闘の疲労を表しているようである。


「氷柱、お前、どうかしたのか?」と聞くと氷柱はイノシシのように突撃して「どうしたもこうしたもありません!! 風紀委員部屋から出てきたら、得体のしれないクリーチャーが廊下中をうろうろしているではありませんか!! 闇さん、姿が見えないので私は心配したんですよ!?」と言って闇を抱きしめようとする。が闇は、それを躱し、「それより、あいつを何とかしてくれ!! あいつ、私を庇って」と差美を指さそうとしたが「あれ? あいつは」差美の姿が見当たらなかった。


「あれ、おかしいな、たしかにさっきまでここに」と言いかけて氷柱を見ると、ふと氷柱の視線が先ほどまで自分に見せていたものと違うことに気付いた。


「氷柱?」氷柱の目は瞳孔を開いており信じられないと言うような顔をしていた。


「闇さん? 何ですか? それ」と氷柱は闇の右手、黒腕を指す。


「ああ、これ? これは、さっき、何か知らないけど、私の手に」闇が説明した時に氷柱の表情がどんどん暗くなっていく。


「闇さん」そう呼びかけたと思いきや、突然、氷の鎌を繰り出し、刃を闇に向けた。


「いえ、黒城 闇、貴方を国家転覆罪により、拘束します!!」その目は先ほどまでとは違い冷たく、獲物を狙う狩人のような鋭い眼差しをしていた。目にわずかな水を浮かべている。


「国家転覆罪って、おい、どういうこと」


「抵抗しないでください!! そこから一歩でも動けばあなたの首が落ちます」最早、氷柱は下手すれば闇を襲い掛かる勢いだ。


 すると、突然、「なんですか? 交差」と誰もいない所に向かって疑問の声を上げる。


「ええ…ええ…ええ、え!? 何ですって!? どういうことですか!?」と何度か受け答えしたかと思うと突然叫び出した。


そして、暫く、闇を睨みつけていたが、やがて、氷の刃をひく。


「あなたは現状、危険人物として処理をすることに決定いたしました」


「は!? 危険人物!? どういうことだ?」と闇が質問すると、氷柱は顔をちかづけて「黙りなさい、あなたはこれから、24時間、365日、いえ、永遠に、ずっと、あなたは監視されなければなりません」目にはもう信愛の文字はなかった。


「あなたが平穏な日々をすごしたいのなら、その黒腕を今すぐ切り落とすか、私たち、いえ、世界に害が無いか示すために、永遠に私の元につくか、それしか方法はありません」と氷柱は闇の頬を人差し指でなでながら言った。


「さあ、こうなってしまった以上、貴方の今後の生活には平穏という二文字はありません、覚悟をしてください」


「いいぜ」闇の即答に氷柱は目を細める。


「私を危険とか化け物とか思っても良い、その代わり、私が進む道は私が決めるからな」闇は真っ直ぐと氷柱の目をみつめる。氷柱は相も変わらず冷酷な目をしていたが、やがて目をそらした。氷柱は少し違和感を覚えている、黒腕が憑りついているのに闇が平然としているのだ、普通は狼狽する、そんな得体のしれないものが自分の体に憑りついたら。だが闇はそうじゃない、まるで全てがどうでも良いかのような態度をしている、それが氷柱の警戒心を高めていく。


「一応、伝えておきましたよ、黒城 闇は危険人物として監視をさせると、まあ、『ゴッドハザード』の調査で海外に行っていた貴方がここにいるとは思いませんでした」


「いや、この国の近くの海で黒い腕のようなものを発見したという目撃情報があったからな、それできた」


「それで、これで良かったんですか? 紅くれない 紫杏紫杏総副隊長」


新東京にある特殊警察課の本部、総副隊長室で、青いペストマスクをつけている栗色の髪の毛をしたショートカットの女性は、炎のようなサイドテールをした紅い髪をした少し小柄な女性に質問をした。その女性は口にダブルリードと言うものをタバコのように加えている。


「ああ、交差、ありがとな」


「黒腕、いわば『ワールドアパート』が人類の脅威になる可能性は十分にあると思いますか」と交差が質問すると、紫杏は「確かに、可能性は十分ではない」と言って、リードを見ずにつける。


「なら」


「だが、私たちの味方になる可能性だってある、違うか?」交差が口を挟もうとしたが紫杏の言葉でそれは止められた。


そして紫杏の言葉に交差は苦い笑顔をする、マスク越しでも分かるほどだった。


「まあ、納得はできないか」と紫杏が言うと、ドアがガラッと開かれる。


「よぉ、紫杏、どうだ? 俺の部下は」と面長の少し目元にクマが出来ているが目が真ん丸に大きくて快活そうな男性が総副隊長室のドアを開いた。


「おいおい、あいかわらずノックをしてくれよ」やれやれ、と言うように頬を緩めて紫杏は男性に向かって注意する。


「堅いこと言うなよ、俺たちの仲だろ?」と男性はおどけて、紫杏は仕方ないなと言うように肩をすくめる。


「狩村隊長!!」と言って、交差は啓礼する。


「ああ、いいぜ、いいぜ、交差、こんな俺みたいなのにも啓礼をしなくても」


「いえ、我らが隊長にそう言うわけにはいきません」


「そうか」少し困ったように狩村が返事をするとタバコを灰皿に置きながら紫杏に向かって「それで? 黒腕が俺たち、人類の味方になるって、どれくらいの勝算があるんだ?」と聞くと、


紫杏は「さあな、さっぱり分からん」とあっさり言った。


「はぁ? お前、何の勝算も無しに黒腕にとりかれた奴の処分を取りやめたのか?」


「ああ、そういうことになるな」


「はぁ、あきれたぜ」と言葉では言っていたが全然そう思っていないように狩村の目は明るい。


「私はただ、誰にだって機会はあるって思っているだけだ、1%でも危険は危険だ、だけどそれの裏側に希望もあると言うことをわすれてはならない、私はそう思っている」そう言って窓の外を見つめる紫杏の顔は真剣であり、どこか遠くを見つめているようにも見えた。


「全く、お前さんは相変わらず、そう言うのに関しては甘いな、戦闘に関しても、その位、甘かったら、いや、それは失言だったな、忘れてくれ」狩村はそう言うと、「じゃあ、失礼したぜ」と言って部屋から出て行った。残されたのは、交差と紫杏だけ。


「さて、黒城 闇、彼女は脅威となるか、それとも強大な仲間になるか」紫杏の目には火が点いていた。その目は身を焦がすほど、もしくは全身を包み込むほどの勢いがあった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る