第5話
男の子の後ろについて、そっと家の中に入る。家族に見つからないように、ということだけど、考えてみたら普通の人間に僕は見えない。けどこの子は自分に見えるから家族にも当然見えると思ってるから、コソコソしてるんだろうな。
階段を昇った先の部屋の扉を開く。目で、入って、と言われ、言う通りにした。男の子は背で扉を閉め、ほーっと安心したように息を吐いた。
「あの、さ。さっきはごめん。泥棒とか言っちゃって」
「ううん、僕こそ驚かせてごめんね。普通、人間に天使は見えないから」
「そうなのか?でも俺、さっきお前の手もつかめたぞ」
あ、そういえば。街を歩いていた時は誰にもぶつからなかったのに。うーん、なんでだろう?
「それはその子の願いが強いからよ」
突然、背後から透き通るような声と、水色の光が差し込んできて、僕は固まった。
この光、この声……。これは、もしかしなくても……。
そーっと振り返ると、三大天使の証の四枚羽根を広げて、母様が立っていた。
「マリエル!!あんた、聖遺物持ち出したって本当なの?!」
ガーー!!っと吠えるように母様が一喝する。ひえっ?!せいいぶつ?何のこと?
「し、知らないよ。あ、図書回廊抜け出したのはごめんなさい。でも明日からちゃんと勉強するからーー」
必死で言い訳する僕を無視して、母様は僕のポケットに手を突っ込んで、例の十字架を引っ張り出した。
「持ってるじゃない」
怖い。水の守護天使だから色々青いんだけど、額の青筋は絶対それとは関係ないはずだ。なんかピクピクしてるし。
「全く……。さ、帰るわよ」
十字架を自分の胸の谷間に押し込むと、猫の子をつまむように僕の首根っこを掴んで飛び立とうとした。そこへ。
「ま、待ってください、神様!」
男の子が再び僕に飛びついた。
◇◆◇
家族に見つからないように天使を俺の部屋まで連れてくると、今度は窓の外が昼間みたいに光った。さっき、天使の背に見えた羽根よりずっと大きくて真っ白で眩しいくらい輝いていて、しかも四枚もあった。
神様だ……。そうだ、きっとそうだ。だって、天使よりずっと光ってるんだもの。
天使に続いて神様まで現れたってことは、俺の願いを聞いてもらえるかもしれない。
けれど、神様は天使を摘み上げると、そのまま帰ってしまいそうになったので、俺は慌ててまだ近くに居た天使のほうを捕まえた。絶対、離すもんか。俺の願いを聞いてもらうまでは。
「お、お願いします!俺、神様にお願いがあるんです!!」
眩しくて目を開けていられないほどだったけど、一生懸命光を見つめながら話し続けた。
「うちの両親、明日離婚するんです。そんで、聖美と、妹と、明日で離れ離れになっちゃうんです。俺、俺絶対嫌なんです!妹と離れたくないんです!お願いします、今まで通り四人で暮らせるようにしてください!!」
俺が叫んでいる間、神様は帰らないでそこに居てくれた。眩しすぎる光がどんどん小さくなって、暫くすると一人の女の人が見えた。
その人は、うちの庭に現れた天使にそっくりだった。長い金髪が足元まで伸びていて、目は池の水より透き通った水色で、真っ白な裾の長い服は隅から隅まで輝いて見えた。
思わず見惚れていると、俺が捕まえていた天使も、神様の服の裾をツンツン引っ張って何か言った。
「母様、とりあえず聞いてあげようよ」
神様は天使の言葉を聞くと、そっと目を伏せると、ふわりと床の上に降り立った。
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