第2話
地上は太陽が沈む順に夜を迎える。小さな島から順番に聖夜を迎えていき、最初の大都市は『東京』だ。ここは土地は狭いながら多くの人間が密集して住んでいる。
その分聖夜を祝う祈りは地上でも指折りの強さだから、全ての祈りが無事天に届くよう、注意深く見張る必要がある。
私は三大天使として多くの天使を指揮しながらその様子を見守っていたため、バカ息子がこともあろうか聖遺物を持ち出して天界を抜け出していたなど、まっっっっったく気が付かなかった。忙しくて。そう。言い訳ではない。決して……。
◇◆◇
「おおーー!ここが『東京』かぁ!すっごい!キラッキラだー!」
イルミネーションだけじゃなく、たくさんある建物の中全てに明かりが灯り、樹木も光っている。あれはどういう仕掛けだろう?
そして夜なのに人がたくさんいる。そのほとんどの人が光って見える。そうか、あれが母様が言っていた『祈りの光』だ。幸せになりたい、幸せでいられることへの感謝が光になって見えるって言ってた。人間同士では見えないなんて、勿体ない話だ。
そしてもちろん、僕の姿も見えていない。だから子供のためのケーキを買って走って帰るお父さんを家まで運んであげても、恋人同士の手をそっと繋いであげても、彼らは気づかないから、手助けし放題だ。
僕が手伝ってあげた後、その人の胸の光は更に強く輝く。どうやら喜んでもらえたらしい。
「すっげー!超嬉しい!いいなぁ、大人の天使は毎日こんなコトしてるんだ」
僕も早く一人前になりたい。沢山人間の手伝いがしたい。
しかし今の成績だと、特に母様が『ダメ』って言いそう。学院を無事卒業出来ても、暫くは母様の見習いで天界から出られないだろう。
「だったら尚更、今夜は楽しまないと、だよな!」
僕は抜け出す時にパクってきた聖十字架を、ポケットの中でもう一度握り直す。えーと、これってどんな力持ってるんだっけ?やべ、忘れちゃった。まいいか。失くさないように気を付ければ。
そうやって周囲の光景を楽しみながら歩き続けていたら、一件の家にたどり着いた。
◇◆◇
「メリークリスマス!」
「「メリークリスマス!」」
母さんと父さんはシャンパン、俺と妹の聖美はオレンジジュースで、クリスマスの乾杯をした。
「さ、ケーキ切るぞ。聖也、聖美。どの部分食べたい?」
「私イチゴ!お兄ちゃん、ね、いいよね?」
「いいよ、俺イチゴ嫌いだし」
そう言うと、聖美は歓声を上げて父さんに飛びつく。父さんは聖美に強請られるまま、イチゴが密集した場所を綺麗に切って聖美の皿に乗せた。
「はい、聖也はこっちね」
俺には、母さんがローストチキンの大きな塊を渡してくれる。こんがり焼けていてとても美味しそうだ。大好物だが、その皿を見ていたら、俺は泣きそうになって慌ててトイレに駆け込んだ。
俺にとっては大事な家族。大好きな父さんと母さん。大事な妹。
だけど、四人で一緒にいられるのは今夜まで。
明日には父さんと母さんは離婚する。
そして俺は父さんと、聖美は母さんに連れられてこの街を出る。
もう、四人一緒には、過ごせない。
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