空とマンドラゴラにまつわる神話のある国で生まれ育った、司祭見習いの青年の物語。
SFです。いや、SFには違いないのですけれど、でも最初の一話だけを見た段階では、きっとファンタジーとしか思えないお話。あらすじを説明するのがものすごく難しくて、そういう意味では変則的なお話のようにも見えるのですけれど、その実、物語そのものは至ってシンプルというか、少なくとも難解な部分があるわけではない作品です。
タイトルがもう最高に好きです。もうこの文字列だけですでにドラマが感じられる。もちろん、その一文を見ただけではまだ正確に何を意味しているかはわからないのですけれど、それでも(あるいは、だからこそ)それを知りたいと思わせてくれるパワーがある。この辺の言語感覚というか、うまくフックとして作用する文章のぶら下げ方が本当にうまくて、先にぐいぐい引っ張られるような感覚で読みました。
他に具体例を引くなら、本文中の「あの日、空は叫ぶ一〇〇人分の顔だった……」といった表現など。本当に好き。「どういう意味だろう」と思わせられるし、意味がわかると今度は「それをこう表現するんだ!」と、その感覚そのものが楽しくなっちゃう感じ。第二話の最後あたりなんかはもう、どうしてもテンションが上がっちゃう。
あと、これは余談のようなものかもしれないのですけれど、やっぱり三題噺であるというのがすごい。空、マンドラゴラ、太宰治。それを本当に、ただ使うだけでなくしっかり軸にした物語であるところ。このみっつがこう繋がることによって生まれる、現実からの遊離具合(逆に現実との接続具合でもある)がとても楽しいです。たぶんなかなか見ない感じの世界観を、読んで体感するときのこの不思議な感覚。まさに創作の物語ならではの、想像する楽しみを味わせてくれるお話でした。お話も優しくてワクワク感あって好き!