8章
8章 永劫
2011年12月
誰もが不満を持たぬ平和な世界を
俺が目指したのはそんな世界だった
今の国は腐り過ぎている
皆が理不尽を受けていながら笑顔で生活を営んでいる
かと思えば不自由の無い生活を送っている奴らが周りに迷惑を振り撒きながらのうのうと知らん顔をしている
この社会に個人の感情は不要だ
そんな物があるから争いが生まれる
悲しむ者が苦しむ者が現れる
俺の父もその犠牲者だった
父は貿易会社を営んでいたが社内の不祥事により倒産
俺は政治家を目指していたが父を含め生計を立てる為経営コンサルタントとして働いた
その内結果を出していくと各方面から声が掛かる様になった
その時だった
文部科学省から共同研究に携わってみないかと声を掛けられた
[少子高齢化に伴う青少年擁立教育研究]
最初は興味本位でその研究に加わった
だが俺以外にも有名な専門家がいると聞かされた
阿崎創
姶良勇
俺も名前だけは聞いたことがある程度だったがどこまで優秀な人間か知らなかった
初対面の印象は最悪だった
同じ部屋で研究するという事だったので、ある程度の私物は持ち込んでいた
だがこの2人はイかれていた
揃いも揃ってレンジにガスコンロに漫画に冷蔵庫
挙句に布団まで持ち込んでいた
「君達はここへ何しに来たんだ?」
「寝に来た」
「住みに来ました」
空いた口が塞がらない
天才となんたらは紙一重、と初めて実感した
早々にこの話からは手を引こうと思った
だがいざ作業が始まると2人は人格が変わった様に研究を進めていた
何より2人の話している事、考えている事について行く事が出来なかった
ずっと1人で仕事をこなし、評価され、そんな自分を俗に言う天才だと思っていた
俺はその決定的な違いに嫌悪を覚えた
嫉妬とも例えられるだろう
それでも何とか2人に合わせられる様に努力をした
「仮に学力では無く人格の固定、よく言う暗黙の了解をシステムにしちゃうのは?」
「ほぼ洗脳ではないですか?独裁国家になってしまいます
ですがそのやり方なら国内総生産率、経済成長率は間違いなく上がるでしょうね
まぁ風俗的思想、生活文化等、人を主体で考える今の社会では実現は出来ませんね」
「比重は傾けない方が良いね
だとしても今の国じゃ別のやり方も限られるしね
先立つ物が無いと、、もしくはそれに代わる物」
「多国籍?」
「微妙、効果が遅い」
「戦争はどうですか!?」
「君も十分独裁者じゃないか」
「後は、、やはり国庫というテンプレしか無いのでは?」
「10年圏内の話だったら僕らがここに居る意味はない
少なくとも1年から2年の話じゃないと情勢的にも不味い」
「、、、いけませんね、出尽くしました
承さんは何かありますか?」
いきなり振らないでくれ!
こっちからしたら話のテーマは分かっても話してる内容はさっぱり分からん!
「要は今の状況からすぐに国を豊かにするにはって話だろう?なら金を配るしか無いだろう」
「それはもう言った」
「な、、」
「やはり大きなアクシデントの方が国という物は変化し易いのでしょうか、、」
「とりあえず正攻法を探るしか無い
それにこれが上手く行けば社会からマイナスな事が格段に減る筈だ
それはこの上無いプラスだからね」
それから一週間共に過ごしたがやはり俺にはついて行けなかった
考え方の違い、、
それさえ無ければもっと彼等とも上手くやれたのか?
それとも彼等がおかしいのか
俺がおかしいのか?
まただ
人の思想、感情、思惑
見えない物が社会に溢れ過ぎている
帰り道に少年とぶつかった
少年は舌打ちをして通り過ぎた
コンビニで買い物をしたら店員が箸を入れ忘れた
入れる様声を掛けたら睨みを効かせ舌打ちをしていた
昔からだ
昔からこの国の人間はそうだった
嘘を吐き、人を貶め、非を押し付ける
狂っている
この研究はもしやチャンスなのでは、と突然頭の中を過った
確か阿崎が人格の固定、暗黙の了解をシステムに、、と言っていた筈
次の日阿崎から詳しく聞く事にした
「あー昨日言ってた奴だね、まぁ実現は無理だけどもしやるとするなら、、
全国民を対象に試験を行う
それも思考力を試す
出題する側からすれば特定の思考力を導きだす問題を用意すれば良いだけだからね
後はそれを数値化して区別
そして受かった人はご飯でも家電でも家でも買い放題!
落ちた人は働いて〜ってやる!
どう?怖いでしょ?(笑)」
「、、、それは確かに、、、怖いな」
俺は直ぐに研究チームを抜けた
一度仕事で面識のあった茅場官房長官に電話を掛け俺の頭の中に浮かんだ話を伝えた
「以前貴方がこの国を良い方へ変えて行きたいと仰っていたのを思い出しました
この方法なら必ず変わる筈です
どうかご助力願えませんか?」
「些か問題は多いですが、、
良いですよ?表舞台には私が立ちますので奈咲さんに全てお任せします」
変わる
ようやく
父にこの話を伝える事にした
「承よ、誠に偉い
願わぬ程立派になってくれた
これからは私もお前を手伝おう
嘘の無い、素晴らしい国を作ろう」
俺の願った世界は生まれる
神が創りし楽園を!カナンの地を!
この国と定める!
罪
終わる事無き平和な日々を知恵と引き換えに手にしよう
2033年7月
「終わらせるものか」
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