5章

5章 堕落



2033年7月


私の矜持とは何だ


私の人生は常にHCPと共にあった

父と母は共にAランク

過度な期待の中私もAランクで試験に合格した

その後両親の勧めで本庁へ就職した

だが配属されたのはラビッシュと呼ばれる人達の処遇を判断する部署だった

同価値である筈の命に期限を付け、足りないネジ穴にはめ込む


狂っている


周りからの期待、そして期待に応えた時の称賛

それを私は自らの矜持だと思っていた

では人の命を疎かに扱いそれを周りが称賛していればそれは正しい矜持なのか

そんな訳は無い

そう思い一度上層部へ進言した

例えラビッシュであろうとも命の価値に変わりは無い

ならば平等な環境で生きる義務がある筈だと

だが返って来た言葉はたった一言だった

「低俗な思想は廃棄物の証だぞ?」

私は脅しに屈した

それ以来必要の無い考えを持つ事は控えた

自分が生きる為に


ある時職場の自室に居ると部屋の電話が鳴った

出てみると聞き覚えの無い女性の声が聞こえた

「もしもーし!難波勲きゅんかな!?

はじめましてー!!キュピーン☆」

凍てつくという感覚は初めてだった

「どちら様ですか?」

「あっ、自己紹介忘れっピだった!

キュピンキュピン☆

うちの名前は羽島燈、現警視総監だよぉー!?キュピン☆」

わざと間を置く

「それで、、警視総監様が私に何用でしょうか?これから用があるので御用でしたら手短かにお願いします」

「それなんだけどねー?そのしょーもない用には行かなくていいよー

もうすぐそっちに客人が行くからその子から話聞いといてー

それじゃぁねーー

キュピン☆!」

電話が切れる

理解が追いつかない

どういう事なのか、と考えている内に部屋の外からノックが聞こえた

先程羽島さん、、が言っていた客人だろうか

ゆっくりとドアを開ける

するとそこには男性?とも女性ともつかない人が立っていた

長髪で猫目、ネイルにロングスカート

だが体型は若い男性?

そう悩んでいると相手が声を出した

「はじめまして、あたし美浅黙っていうの

黙るって書いてダン

変な名前でしょぉー?」

近づきながら上目遣いで語ってくる

「初めまして、難波勲と言います

失礼ですが性別の分かり難い容姿をしていらしているので、、男性でしょうか?」

「アッタリー!男の子ですー!

この恰好いいでしょー?気に入ってるんだー!」

「そうですか、それで私に何か用ですか?」

「あれれ?電話来たでしょ?羽島ちゃんって人

あたしはその人のメッセンジャーなの

早速だけどあたしについてきて

あ、それと今日から君クビだってぇー!」

意味が分からない

「貴方にも羽島という方にも私は一切関わりがない筈ですが?それと離職になる様な事案も起こした自覚は有りません」

「かったいなー勲ちゃんはー

それどころじゃないんだからー

もうすぐHCPが無くなるかもなんだよー?」

思考が止まる

「今なんと?」

「んふー♪面白いでしょー?

今ねー色んな子達が集まってテロを計画してるんだってぇー

それであたし達はそのお手伝いをしてるの」

疑問が止まらない

だが今冷静に思考をする為に必要な情報を聞くことにした

「私の役割は?」

「メインで動いてる子のお母さんを保護してあげて

その後はその子達と動いてくれればおっけー」

「分かりました」

「さっきから思ってたけど勲ちゃんてめちゃクールなんだね

なんか感情がないみたい」

「ちゃんとありますよ

下らないプライドが私の本質なので」

「ふぅ〜ん?」

その後美浅君と別れてから阿崎観斗君という子の家に向かい親御さんを一先ず車に乗せて他のメンバーが居るという飛騨へ向かった

向かう車内で軽く阿崎君の親御さん

涼子さんと軽く話をした

「あ、あの、息子は無事なのでしょうか?

連絡は取れているんですが何をしているかも分からず、、」

「申し訳ありません、私もつい先刻事情を詳しく伝えられぬまま行動させられているので、、息子さんとはまだ面識も無いのです

申し訳ありません」

「そ、そうでしたか、、こちらこそごめんなさい、、」

「いえ、、ですが恐らく息子さんを含めた他の方も無事だと思われます

それ以上は合流しなければ何とも、、」

「分かりました、ありがとうございます

ところで息子からは定期的に連絡が来てはいるのですが昨日気になる言葉が送られていたのですが」

「、、というと?」

「おかしい事をおかしいと声を上げるのはいけない事かな?、、と来ていて

もしかしたら危ない事をしているんじゃ無いかと思って心配で、、」

少し息を吐く

「恐らくですが今彼らが企てているテロの事かと思われます」

「そんな!?、、」

阿崎さんが悲嘆な顔をしている

「私もテロ、としか聞いていないので具体的な内容は定かではありませんが

ですが阿崎さん、私も息子さん、、観斗君の言いたい事が分かります

ですから私もこうして国の立場でありながら詳しい話も聞かずに加担している次第です」

少し笑いげに話した

「、、、私の夫、観斗の父は彼が5歳の頃に亡くなりました、死因は不明で最期の顔も見させてもらえませんでした

だからなのだと思います

観斗はきっとこの国の所為で父が死んだのだと

ですが私も観斗とどう話して良いか分からず、、」

阿崎さんが顔を下へ向ける

「でも危険な事だけはして欲しく無いんです

どうにか止めて貰えませんか?」

「勿論その意見には賛成です

ただテロ行為の中止は恐らく出来ないと思われます

事が大きくなり過ぎました

ですが観斗君を危険な目には絶対に合わせません

私を含めた他の人間もそう思っている筈です

それ故に安全な場所へ身を潜めている筈です

今後の動きがどうなるか分かりかねますが観斗君の安全を優先で行動します」

未だ不安そうにしている

当然な反応だ、気持ちは痛い程分かる

、、だが

「阿崎さん、先程も言いましたが私には観斗君の気持ちが分かります

それはきっと、ずっと1人で抱えていたものでしょう、そしてその気持ちは時に自ら行動で表さなければならない時があると思うのです」

阿崎さんは何故か少し笑った

「親子というのは嫌でも似るようですね」

会ってもいないのに観斗君とそのお父さんの雰囲気が少し分かった気がした

それから少しして磐勢、と書かれた表札のある屋敷に着いた

寂れた土地に住む人が未だいる事に嬉しい気持ちを覚えた

インターホンを押すと渋い声が聞こえて来た

「誰だ?」

「私、東京都立本庁国内循環管理部の難波と申します

訳あって皆さんと共に行動する事となりました

今こちらに阿崎君の親御さんも一緒にいらっしゃいます」

少し間が空いた

「開いている」

中に入り奥の居間の襖を開けると5人の男性がいた

すると高校生くらいの男の子が「母さん!」

と声を出し阿崎さんの元へ寄った

彼が阿崎観斗君らしい

「それで、、君は何故我々の事を知っている」

自分の身に起きた事を全て話した

だが先程美浅君から一つだけを釘を刺された事があった

「羽島ちゃんの話は良いけどあたしの話だけは伏せといてね?あたしはあくまでサブだから、それと次あたしと会った時は合図するまで知らない振りしてね♡」

約束通り美浅君の名前は伏せて説明した

すると仲吉さんという方が反応した

「私ともう1人、赤羽君という子の元にも羽島警視総監が訪れました

やはり協力してくれる、という事でしょうか?」

「恐らく、、

とにかく私も状況は理解しました

私が羽島さんに勧誘された理由は分かりませんがどうやら協力しなければ仕事も無くなる様なので、、

ただ私も勿論この国の在り方は許容出来ません

お力になれるか分かりませんがこれから宜しくお願いします」

そう言うと皆からもよろしくと返って来た

そして観斗君の元へ近寄った

「君のお母さんから少し話を聞かせて貰いました、確かにこの計画を成功させるのは大事ですがそれまでどれだけ危険な目に遭うか分かりません

家族、という人の大切さを理解した上で行動して下さい

勿論私を含めた全員が君の安全を優先して行動させて貰います」

周りの人達が頷く

「ふぁ、ふぁ〜い、、」

こらっ!と後ろで阿崎さんが叱る

心が廃れていた私には眩しい景色だった

親子を眺めていると肩をトントンとされる

「改めて、僕は木戸聡です!国の裏切り者が僕と仲吉さんだけだったので仲間になって貰えて嬉しいです!」

「木戸君、私はそんな響きの悪い人間になった覚えはありません、、」

後ろから長身の男性がこちらへ来た

確か、業平君、、

「おっす!俺は業平諒!シクヨロなおっさん!」

オ  ッ  サ   ン  !?

「つーかよ!裏切り者で言うならあのしかめっつらジジィも裏切り者じゃね?」

と、、とんでもない紹介を受けた年配の方は家主の磐勢さんか

HCP施行前の最後の総理大臣

名前だけは聞いた事があった

それとこの雰囲気の方にそのノリは、、

「諒、首を出せ!!!」

地鳴りの様な声が鳴り響く


濃い、、キャラが濃い!!

いけない、冷静さが欠けていく、、



私は今まで友人と呼べる者は居なかった

この国のシステムを言い訳にして


変えるのは国だけでは無い

命の価値

人の価値

そして私そのものだ

いつかあった筈のプライドを取り戻す、いや

プライドを持つ為に

それは私に成すべき、そして正しい責務を持つという私の在り方を手にする為に



どこかの国にこんな言葉がある

[ノブレスオブリージュ]


もう私は責務を放棄しない

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