4章 

4章 沈黙


2033年7月



俺は何を伝えたかった


俺が物心付いた時にはHCPとかいう訳分からんシステムにこの国は支配されていた

小学校に上がる頃両親がラビッシュになり

俺は施設に預けられた

俺は周りが勉強する中暴力に明け暮れた

周りの奴も文句を言う奴も

それでラビッシュになるならそれまでだと思っていた

この腐った環境を腐った人間達は良い国だと謳っている


狂っている


早いとこ部外者になりたかった

だが中学3年の頃、外で喧嘩をしているときお巡りに捕まった

そしたらそのおっさん、自分家に住めって言い出しやがった

最初はからかってんのかと思ってたらそのおっさんの話を聞いた

この法律の所為で大切な人が死んで空っぽになってたと、

なら何故それでも生きているか聞いてみた

そしたら死にたい気持ちとは別に自分にはやるべき事があるかも知れないという気持ちが拮抗していると言った

だから自分のHCP指数をたまに下げては気付いてくれる人を探しているらしい

この国を変えてくれる人を

俺は思った

そんな思いをしてる人間が誰にも話さないで

ひたむきに生きているのかと

俺は誰かに認めて欲しかった

聞いて欲しかったし見て欲しかった

そしてその欲がどれだけ大事な物か

このおっさんに教わった

それ以来おっさんとつるむ様になり

俺は俺なりにこの国の変え方を考えながら生きてきた


まさか本当にこんな時が来ようとは


車で4時間程走り岐阜県の飛騨という所に来た


「クッッッソ遠いな!なんだここ!

ど田舎じゃねーか!こんな所人1人住んでねーだろ!?」

「それがここでたった1人で住んでいる人がいるそうだ

この時代に関東圏を離れて住む人がいようとは

きっと凄い人なんだろうな、、」

「確かにな、、普通じゃねーのは確かだ」

そうしてそこから20分程車を走らすと一軒だけでかい家が見えてきた

「あれか?」

「そうらしい」

車を降り玄関と思われる門の前に立つ 

インターホンがあったので鳴らしてみる

すると中からなかなか渋い声が聞こえた

「開いている」

一言だけ聞こえてきた

「は、入るか、、」

門を開け中にある屋敷の扉を開ける

靴を脱ぎ真っ直ぐ進むと大きな居間があった

襖を開くと中に4人男が居た

「お?待ってたぜおっさん!この人があんたの知り合い?なかなか良い雰囲気だな!」

「おっさん、、彼は?」

「あぁ、彼は業平諒君、そしてそこに座ってスーツを着ているのが木戸聡君

その隣の子が阿崎観斗君だ」

「なるほどな、おっと失礼

俺は赤羽言由、このおっさんのダチだ」

木戸と観斗君は会釈をしてきたが業平は近寄ってきた

「なぁあんた、強いだろ?」

「何?」

「後で手合わせ頼む!体が鈍ってしょうがねーんだ!」

「ま、まぁ構わんが、、」

悪い気はしなかった

生まれてから個性が強い人間に会ったのはおっさんくらいだ

むしろちょっと嬉しいくらいだった

「話をして良いか?」

さっきの渋い声が聞こえた

「紹介が遅れたな

このジィさんは磐勢清十郎、頑固そうだろー?」

俺達にどんな反応を求めてるんだ!?

「磐勢だ、話は聞いている

早速だが本題に入ろう、まず君達はどうやって国を変えるつもりだ?」

観斗君が答えた

「今の総理大臣、茅場武靖を捕らえます」

「なるほど、それしか無さそうだな

ならば次だ、奴らの軍事力は世界中が恐れているレベルだ、核まで持っている

そんな野蛮人をどうやって制するつもりだ?」

業平が慌てていた

「おいちょっと待て?核だって?よりによって日本が?どういう事だ?中卒の俺でも分かるぞ!そんなのはあり得ない!それに他の国が許す筈無い!」

そうか、彼はこの世界については何も知らないんだったな

「落ち着け諒、まずだな、、この日本は今国では無いのだ」

「は?」

「正確には立ち入り禁止区域の様な状態になっている

この国は20年前、国連を抜け国である事を放棄した

その代わり他国との一切の関係を断つと、、

そしてアメリカやEUの強固な反対を核の所有というカードで押し切った

そうして今の日本が出来上がったのだ」

「意味が分からな過ぎる

第一他の国が居なきゃ貿易?とか色々困るだろ?」

「それがな、HCPを施行してから日本の自国生産率、GDPは100%になった

そしてラビッシュになった者は人間ではなく労働力、、よって全ての食料や資源は試験に受かった人間にしか与えられん

故に通貨なども無いのだ

全てがこの国で完結している」

淡々とこの国のイかれた実情を語る

業平は完全に放心状態だった

「なぁ、なんでこんなになっちまったんだ

難しい事はわかんねー、けどな、これが間違ってる事くらい分かる

なんで誰も止められなかったんだよ!」

磐勢さんが下を向く

「全ては俺の責任だ」

全員が固まる

おっさんが聞いた

「それはどういう意味で?

あ、もしかしてあなたは!?」

「思い出してくれたかな 

HCPが施行される前の最後の総理大臣

それが私だ」

全員が戸惑う

「このジィさんはな、俺がガキの頃から武術を教えてくれてたんだがその傍らで政治家もやってた

だがまさかこんな事になってるとはな」

「情けない話だ

何もかも俺の未熟さ故の結果だ」

「聞いて良いか分からないが、、

磐勢さん、何であんたは止められなかったんだ?」

磐勢さんが顔を顰める

「今の首相、茅場武靖は頭の良い男だ

私の過去を洗いざらい調べ上げ、暴力を扱う首相だと世間に晒した

故に俺は下がった支持率を上げるのと茅場の欠点を探すのに必死だった

だが間違いだった

本当の敵は茅場ではなかった

今の統括大臣である奈咲承という男だった」

観斗君が反応した

「その名前、聞いた事があります」

「あろうとも、彼は君のお父さんの同僚だったのだから」

観斗君が青ざめる

勿論俺たちは意味が分からなかった

「どういう事ですか?!父をご存知なんですか?」

「彼は国内有数の技術者でね、あらゆる面で活躍していた

政治家でも彼の名を知らない者は少なかったよ」

「それは何故?、、」

「彼は他にもある研究をしていた

[教育]に関してだ

その際共に研究していたのが奈咲承ともう1人

姶良勇という男だ

その3人は揃いも揃って天才でね

奈咲は経済面、姶良は技術面

そして君の父、阿崎創は全ての面において優れていた

しかしある事をきっかけに奈咲は豹変し政治家に転身した

そして他の2人が研究していた内容を盗みそれを利用して国を乗っ取ろうと計画した

それに賛同したのが茅場武靖だ」

「なんと、、それでは最初から国を操る為にHCPを?」

「そうだ、、何もかも計算尽くで勝負を挑まれまんまと俺はボコボコにされたという訳だ」

悲しい笑顔を浮かべる

木戸君が静寂を切った

「磐勢さん、状況は分かりました

当然あなたの心に宿る物は僕には察しがつきません

けれど、どうか僕らに力を貸してくれませんか?」

おっさんも口を開いた

「私からもです

もうこんな事で優秀な若者達が失われるのは、、大切な人達が消えるのはもう耐えられないのです

どうか、お願いします、、」

「磐勢さん、勿論俺からもです

これは確かに悲しい出来事だが同時に

人が生きていく上での1つの可能性なのかもしれない

これを乗り越えれば人はまた1つ、強くなれる

これを歴史にするんです」

「磐勢さん、僕は父について何か知れるかもしれない

最初はそんな気持ちでこの話を出しました

でも今はそれよりもここに居る人達の

失った物を取り返したい

たとえ戻らなくとも

それで今より良くない世界になろうとも

変わらなければいけないと思うんです

人も

世界も」

「なぁジィさん、あんたそんなにヤワじゃねーだろ?

そろそろ休憩は終わりじゃねーか?

てゆーか、俺らみたいなのが出てくんの

待ってただろ?」

「まったく、、こんな老ぼれが出た所で

何にも変わらんかもしれんのに、、

HCPは欠陥だらけだな

出てくるのは天才じゃなくて天才級の馬鹿しかおらんらしい」

一気に空気があったまる

「それじゃあ!?」

木戸君が笑顔になった

「君達に1人探して欲しい人間が居る

姶良勇という男だ」

「そういえばさっき名前が出ていましたね」

「そうだ、彼が居れば形勢は一気に変わる」

自信有り気に語る

「そんなに凄い人なんですか?」

木戸君がそう聞くと待ってましたかの様に語り出した

「奴はな、周りが作れんと言った物を作り

出来んと言った事を次々に成し遂げた

やがて周りの人間は奴の事をこう呼んだ

[可能性の獣]と、、」

「可能性の、獣?、、」

「まぁ、出来ん事は無いやばい奴って意味だ」

「じゃあその人がいれば何とかなるかも知れないと?!」

「あぁ、だがそれは奴らにとっても同じ事だ

特に奈咲からすれば最も殺したい男だったに違いない」

「それで、その人は今何処に?」

「アメリカだ」

耳を疑う 

「ちょっと待って下さい!僕らはこの日本から一歩も出られないんですよ!?」

「安心せい、船でいつでも出れる

俺には弟子がおってな、各地に散らばらせていざという時の逃亡ラインを張ってある」

「このジィさん、弟子がうじゃうじゃ居るんだぜ?しかもHCPが施行される直前に全員日本から逃してるんだ、バケモンだろ?」

皆で頷く

「では全員でアメリカに行くのですか?」

「いや行くのは1人で構わん」

唾を飲む

「あの!それ、俺が行っても良いですか?!」

「構わんが、、」

「俺実は、世界の事をどうしても知りたくて

だから一度でいいから日本を出たかったんです」

心の内を吐き出す

だが誰も笑わなかった

「そうと決まれば今日の夜には行きなさい

時間は無いぞ?」

コクリと頷く

だいぶ話が読めてきた

なら帰って来た時にはメンツが増えてるな

おっさんの肩を叩く

「上手くやれよ?」

おっさんはキョトンとしてたが大丈夫だろう

ひとまず俺はその姶良って人を捕まえなきゃなんねーな 

「ちょっと待ってくれ!赤羽つったか?

一戦合わせてくれよぅ!」

なんだこいつ(笑)

笑いながら頷く

「素手で良いか?」

「あぁ構わねえ」

上着を脱ぎ剣道場で手合わせをする事になった

「磐勢さん、、あの赤羽君結構強いんですけど諒君は大丈夫でしょうか?」

「まぁ見た感じ素手なら赤羽君に分があるな

素手なら」

観斗君の掛け声で詰め寄った

凄い動きするなコイツ

距離が詰められない

なら、、と躰道の動画を見て覚えた飛び蹴りを繰り出してみる

随分と驚いている

、、が次の瞬間業平の顔が目の前に現れた

避けられない

が、俺の勝ちだ

一気に地面ギリギリまで体を倒し一瞬で腹に拳を突く

すると業平はお腹を抱え悶えている

「いってぇぇぇぇぇ!

何だよお前!馬鹿強ぇーじゃねーか!

普段何してるんだ!?」

「カメラマン」

「頭沸いてんのか?」

少し休んでから磐勢さんの弟子と合流し船でアメリカへ向かった

ようやく知れる

広い世界を

いつかこの国を変えたら全世界の人にこの事を伝えるんだ

俺はその為だけに生まれた気がする

だから何としても成功させる



こんな面白い話、早く言いふらしてーな

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