第24話 師匠来襲2
ベッドに横たわったシアの胸に手を当て、目を瞑っていた白銀の瞳がゆっくりと開く。
「うん、ま、大丈夫かな」
ジズから静かに安堵の息が溢れる。その横でふん、と鼻息を鳴らしたのはヴォルクだ。
「だから俺がちゃんと調整してるから問題ないと
言っただろう」
「大きくでたな、小僧め。んじゃ言ってやるけど、守護だのなんだのつけすぎだよ、粘着男め。すんとも香りが出てないじゃないか」
「漏れ出さないように蓋をしろと言ったのはそっちだが?」
「少しずつ消化してやんなきゃ密度が増す一方なんだよねー、わかるかい?小僧」
「ふん、消化は俺自身でやってる。問題ない」
「はあーん?アンタ、これ以上虹彩を染めたら許さないよ!」
ジズに抱き起こされたシアは、相変わらずの2人のやり取りに笑みを溢す。
なんだかんだヴォルクも、師匠の前だけは子供っぽくなるのだ、気を許してるからこそだろう。
「ジズ、師匠をクランの皆にちゃんと紹介したいから、後で2人を食堂につれてきてくれる?私はお茶の用意しておくね」
「気分は?大丈夫なのか?」
「うん。師匠のお墨付き貰ったから安心でしょ?」
ちょうどバース以外は幹部メンバー(トーヤも含む)も揃っていたので食堂に集まってもらう。もらったプートとお茶を配り終えた頃にヴォルクたち3人が入ってきた。
「なんか騒ぎにしちゃって悪かったわね。このバカが家の場所教えないもんだから、こっちに来るしかなくてね」
ヴォルクの頭をべしり、と師匠が叩くとトーヤが「ひょえ!」と顔を青くする。
「えと、改めて紹介させてください。私たちの師匠で育ての親でもある人で」
「ども、ネリーよ。シアとそこの黒と茶色の坊主たちも含め、お世話になってるみたいね」
にこりと微笑んだネリーに、惚けたように「白くて眩しいっす」とトーヤが呟いた。
うん、見た目は目映い美しさだよね。
「ジョナムから聞いてたけど、ものすごい美女ね」
クランメンバーの紹介が終わると、ラナイが待っていたように詰め寄ってくる。
「今日はどうしてここに?」
「シアが若返っちゃったって聞いたんでね。まあ、健康診断かな。昔っからヴォルクにシアの事、任せっぱなしにすると色々閉じ込めすぎちゃうんでね。粘着スゴくて気持ち悪くない?」
話題の主は、師団に帰ってしまい不在のため、師匠の言いたい放題にジズは呆れ顔だ。
「シアに固執すんのは昔っからだろ。あと、あんたがヴォルクのことシアに任せすぎなんだよ」
確かに、ヴォルクの執着を加速させたのは、他ならぬ師匠のはずだ、とシアはジト目になる。
「あ、師匠。婚約の件ちゃんと話してなくてごめんなさい」
「いいのいいの、どうせ娘にしたいバカと、名実ともに自分に紐付けたいバカが急いだんだろうから。それはお祝いしたくないけどちゃんとお祝いするけど、また別の機会にね。
とりあえず、ハロルに荷物渡してあるから後で受け取ってよ。おめでと、シア」
「ふふ、有難うございます」
ちゃんとした婚約式はまだ先なので、クランの皆にもお祝いなどは辞退しているのだが、祝いの言葉を貰うのは素直に嬉しいものだ。
「シアたちの育ての親で、夫のジョナムとも古い知り合いだって聞いてるけど、ネリーさんずいぶん若いわよね?」
「見た目はねー」
長いサラサラの白金の髪に白銀の瞳。肌の色も白っぽいから、全体的に眩しい師匠は見た目は30代だ。
「アタシ魔女だから。成長止まってんのよ」
ラナイがシアたちの幼少の頃の話を聞きたがると
「勝手に話すと陰険な嫌がらせする奴がいるから」と、やんわり断っていたくせに、その代わりにと
シアの失敗談ばかりをあれこれ教えるのだから酷い。
師匠は他にも用事があるらしく、「また来るわね」とあっという間に帰ってしまった。
何だか体がポカポカと温かいのは、元気な師匠の顔が見れたからかな・・・
「魔力とマナの巡りを整えたから体温が上がるって話してたぞ」
シアを膝上に抱えて椅子に座り、後ろを振り向いたシアの額に頬を寄せ
「まあ、微熱だから大丈夫だろ」と話すジズの姿に、出掛けていたガッシュが食堂に入ってきてギョッとしたように釘付けになっている。
「まさか魔女とは驚きましたね」
「え、なんでシアちゃんたちに誰も突っ込まないんだよ?」
「本当よね。私、本物の魔女って初めて見たわ」
「シアちゃんとジズの距離、おかしくない?姉弟ってこんなにベッタリしないよね?」
「そもそも魔女ってなんなんすか?」
「え、オレ無視?」
最後のトーヤの問いに答えたのはジョナムだ。
「保有魔力が桁外れの魔導士でしょうか。息を吸うように魔法や魔術を使えるようですよ」
「先の大戦で随分血脈が途切れて、もう何人もいないって言ってたな」
「ジズ君の言うとおり、魔女は血で受け継ぐものらしいですからね 。戦争で犠牲になり、結果途切れてしまった血が多いのでしょう」
「へぇー。じゃ、大層な人に師事してたんすね。
あれシアさん」
こくりこくりと船をこぎ始めたシアを、自分の胸に深く凭れかからせるように抱きなおすと、ジズは魔力を練って式鳥を飛ばした。
「今日は果樹園の手伝いもありましたから疲れたのでしょう。子供たちの面倒もあれこれ見てくれていましたしね」
「ジズ君も、今日はもうあがってしまってください」
「ちょっと待ってて。荷物持ってきてあげるわ」と2階のジズの執務室に荷物を取りにラナイが席を立った。
本格的に寝入ってしまったのか、シアからは静かな寝息が聞こえ始めてきた。
「すいません、じゃお先にあがらせてもらいます」
シアをそっと抱えあげロビーまで来ると、ラナイが持ってきてくれた2人分の荷物を受けとる。
「シア、なんか言ってるわよ。寝言かしら」
「いや、多分あいつの名前です。・・あぁ、ちょうど来たな」
今やすっかりお馴染みの黒紫の式鳥は、ジズの肩に止まると話し出した。
「悪いがもう少しかかる。家まで連れていってくれるか」
「陣は俺の声でも反応すんのか?」
「追加してある。シアは・・・寝てるだけだな。
熱があるのか?」
「いや。微熱はさっきのネリーの調整の影響だろ」
「ほかの体調の変化は無さそうだな。悪いがジズ、頼んだ」
シアの中に式鳥が溶け込むように消えると、後ろから大興奮なガッシュの声が響く。
「あれが噂の!マジで本物の鳥みたいだね!」
「お前、もちっと声を抑えろって」
「しゃべる式鳥とか初めて見たよ!かっこいいな、オレのもあんな風にできるかな?」
「だからうるせぇって!オレだって、話す式鳥なんぞあれしか見たことないわ!!お前ごときにできるわけな、あいて!!!」
「2人とも、お静かになさい」
「「さーせん」」
後ろのトーヤとガッシュのやり取りに苦笑を漏らすと、シアの目蓋が震える。うっすらと目を開いたがまだ寝ぼけ眼だ。
「・・・じず?」
「寝てていいぞ。家に帰ろうな」
しっかりと抱え直すと、ジズの首に腕をきゅっと巻き付けて首もとにシアが顔をよせる。寝位置を探すように頭をぐりぐりと動かしていたが、ピタリと止まって再び寝息が聞こえ始めた。
ジズは淡く微笑むとシアの頭に唇を落とした。
「んじゃ帰ります。また明日」
「・・シアちゃんとジズの距離、おかしくない?」
「それ2度目な」
「バカねぇ、あの2人はあれが普通なの」
思わず見入ってしまっていたトーヤとガッシュの2人は赤らめた顔のまま、後ろ手に手を上げたジズにそっと手を振った。
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