第23話 師匠来襲1
傭兵ギルドへの入団は15歳からだが、10歳から見習い制度というものがある。
危険の少ない依頼のみ、範囲も隣街までで、必ず複数人で受けることが条件になっている。
また、森に入る採取系や、農園の手伝いなどで遠出する場合は、必ず規定ランク以上の引率者がつく。
見習い後のギルドへの入団は問わず、年齢制限のみであるため、王都の子供達からお小遣い稼ぎとして歓迎されていたが、なによりギルド員を目指す子供にとっては、憧れの人と身近に触れ合えるチャンスでもあった。
シアはそんな見習いの子供達15名と、王都のはずれにある果樹園にきていた。
お酒の原料にも重宝されるプートという果物の収穫の手伝いだ。
「おいシア、オレらが木にのぼってジャンジャン採るから、どんどん箱詰めしろよ」
「シアは若くなっても相変わらずどんくさいからな、木登りはオレらにまかせろよな」
「こら、シアさん、だろう?」
「わかりました!レッカスさん!」
引率役のレッカスは見上げる程の高身長と自慢の筋肉が、格好良くて強くてなにより優しい、と特に男の子たちに大人気だ。
「シアちゃんが可愛くなったからって、みんな照れてんのよ。男の子ってやぁねー」
「シアちゃん、今日はジズ君は来れなかったの?」
女の子たちに人気なのは、逞しすぎず、明るくて若い、見目のよろしいジズだが、今日は別の依頼に出ている。
午前中のみの収穫だが、元気な子供達の活躍で予定以上の量が採れた。
果樹園の管理人が用意してくれた果実ジュースを戴きつつ、お昼のお弁当を気持ちの良い風を受けながら食べる。
エルフにとって自然の中は心地好く、大きく伸びをすると、既に食べ終え転がりまわって遊び始めている子供達を微笑ましく見やった。
「子供って元気ですねー」
「うちの子達もあのくらいですけど、まぁ元気ですよ。シアもジズを育てたなら経験があるのでは?」
そうなのだ。そのはずなのだが。
「ジズは5歳の頃から師匠があちこち連れ回してたので、家に帰ってくる時はお腹すかしてるか寝てるかでした。それでも子供はこんなに賑やかで動きまわるのかと驚いたんです。ヴォルクとあまりに違っていたので」
レッカスが何とも言えない顔になる。
「・・彼とも小さな頃から一緒に?」
「ヴォルクが4歳のときからです。なんというか、無邪気さとは無縁の子供でしたね。自分から外で遊ぶこともありませんでしたし」
からだの成長も早く、10歳のときにはシアと目線が変わらなかった。
だから魔力供給を受けるにも自分が屈む必要はなく・・・
「シア?」
「わわわわ、いえ!なんでしょう?」
余計なことまで思いだしかけてた!
「暑いですか?顔がずいぶん赤いですが」
「あ、や、いえ。あ、と・・・ナンデモナイデス」
パタパタと顔を扇いでいると、いつの間にか目の前では子供達が何やら言い合っている。
「だーかーら!ほんとなんだって!ここの人も見たって言ってたし!」
「ここはイシェナルなんだから!そんなのいるわけないじゃん!!」
「どうしました?」
レッカスが間に入って話を聞いたのは、父親がこの果樹園から果物を仕入れている青果店の男の子だ。
「俺の父ちゃんがさ、最近ここいらで何度も白い竜を見たって言うんだ。すっげー大きいんだって、普通の飛竜の倍くらい。でもすぐ見えなくなっちゃうんだって」
「飛ぶのが早いんですか?」
「違うよ!パッと消えちゃうんだって」
そんなわけない、と周りの子供達が囃し立てるが、騒ぎを聞いて集まった果樹園の人達も、自分も見た、と言う。
「本当に大きな竜でね。いれば大きな奴ですから、すぐわかります。で、良く目撃する場所の近くを探してみたんですが」
「危ないですよ。人馴れしている飛竜であっても興奮すれば攻撃を受けます。今後はやめてくださいね」
「へい。でね、竜は見つかんなかったんですが、赤い屋根の草まみれの家があってね。でも次の日は無くなってて。不思議なこともあるなって話してたら、その次の日には違う奴が見たって」
「あの」
赤い屋根の家と大きな白い竜
「シア?」
「あの、たぶんそれ私の知人です。害はない人達なのでそっとしておいてください。お騒がせしてすみません」
「只今帰りましたー」
お土産として貰った、山盛にプートの入った箱を
3つ抱えてヨロヨロとクランハウスに入る。
高く積んだ箱のせいで前が見えず、入口から入った途端につまづいた。が、
「あれ?」
腕から消えた荷物と、後ろからシアを抱き抱える正体は、ここにいないはずのヴォルクだ。
「あれ?」
「あれ、じゃない。まったく」
「今日は見習いとプート収穫だったっけ。レッカスはどうしたんだよ?」
プートの箱はヴォルクからジズに渡されている。
「あれ、ジズも。レッカスさんは入り口前にプート運んだら、またギルドに行ったの。次の見習いの依頼の話するんだって」
ジズは分かるが、なぜヴォルク?
「食堂までの往復の手間を省いてレッカスの分まで積んだんだろ?シア、自分の非力さをもっと理解しろよ」
「なにおう!」
「怪我するようなこと、するんじゃない」
なぜかそのまま、ヴォルクに抱えられて食堂まで移動する。
恥ずかしいのでおろすべし、と腕をぺちぺち叩くが
「またイチャついてる・・・」
とすれ違い様にトーヤに呟かれただけだった。
ヴォルクは魔導師団として、マスターのジョナムにアルマの治療の経過報告にきたらしい。籍は抜いたがジョナムが身元預かり人になっているためだ。
食堂の椅子にシアを設置すると、おでこにキスを落としていなくなった。
「いいいい今のなんだ、シアちゃん浮気?!」
途端に騒ぎだしたガッシュの頭をジズが叩く。
「魔導師団副師団長ヴォルク=レーベルガルダだろ?お前まさか、しらねぇの?」
「ジズさん、多分違うっすよー。世間のイメージと違いすぎて混乱してんじゃないすかね」
「あ?いつも通りだよな、シア」
うん、私たちにとってはね。
「だってさ、冷酷無比で超実力主義だからミスには手厳しいとか。金の瞳に魔力が帯びると死の合図とか。表情を浮かべるのは最終宣告のときだけとか」
「えー。27歳、家柄よしエリート職業。高収入でイイカラダで超イケメンだけど、とびきりの美女にも眉ひとつ動かさないから、実は男色で、クランメンバー曰くジズさんと・・・あいたっ!!」
力一杯拳骨をふりおろしたジズにトーヤは
「噂っすよー。オレはシアちゃんにだけデレるの、もうわかってますってー」
「トーヤは明日、俺と特訓しようや」と楽しそうだ。
「ガッシュ君のは大袈裟に話を脚色しすぎだよ。とりあえず今のはヴォルク本人だよ。それで、一応私の婚約者・・・かな。っあ!!」
「どうした、シア?」
「ねぇ、婚約の話、師匠にもした?」
婚約の話が持ち上がったのも、王都に来てからだ。
シア自身は森を出た5年前から1度も会っていない
が、
ハロルディンはもちろん、ヴォルクやジズは会っているような口振りを時々するのだ。
「ヴォルクかタヌキがしたんじゃねぇの?それがどうしたんだよ」
「今日の見習いの子と果樹園の人達が、"大きな白い飛竜"と"赤い屋根の草まみれの家"を見たって。しかも消えたりするらしいし」
「あー・・・・・。ババアだろうな」
「近くにきてるのかな??」
と、入り口からものすごい音が響いた。
ジズに手を繋がれてロビーに様子を見に出ると、入り口の"外側に"大の字になって仰向けで人が倒れている。
駆け寄ろうとしたシアの手をジズが引くと、そこに吹き抜けの2階の手摺からヴォルクが飛び降りてきた。
「ヴォルク、人が!」
「俺の結界で弾かれただけだ、問題ない」
・・・なんで、結界?
疑問が口を出る前に、倒れた人がむくりと起き上がった。
「あ、あれ?ししょ」
「ヴォぉルクぅーー!!アンタでしょう、なにこの結界、むっかつくー」
光を受けると虹色にも輝く白金の髪を振り乱した絶世の美女が、鬼の形相で怒鳴っている。
「ふん、この程度で弾かれるなんて耄碌したんじゃないか?ババアめ」
「あああああったまきったー」
両手で練り上げ始めた多重の魔術陣に、ヴォルクが立ち上げたのは噎せ返るような濃度の魔術式だ。
「バカかあいつら、この一帯を焦土にするつもりか。・・・シア」
ため息をついたジズが、腕に乗せるようにシアを抱えあげた。
「ジズ?あれ師匠よね」
「そうだな。んで悪いが2人を止めてくれ」
そういうと、そのままシアをポーンと2人の間に向けて放り投げた。
「「っっっシアっ!!!」」
「よし、止まったな」
はー、やれやれと息をつくジズと
ビックリしたまま固まっているシアと
身を投げ出してシアを抱き止めたヴォルクと
再び結界に弾かれて、仰向けに転がっている白髪の美女
「・・・・・・・どうしたんです。これ」
ギルドから戻ったレッカスが、何かに弾かれることもなく、普通に入り口から入り、その光景を見渡したのだった。
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