第16話 お茶会もしくは公開処刑1

「彼、普段おうちではどんな感じなの?」

「声をあげて笑ったりするー?冷笑じゃないよ、わははーって」

「家事とかする?料理作ってくれたりするの?シアには世話焼きそうじゃない」

「あーんとか?ぷぷぷー」


天気のよいカフェテラス。

かわいい赤いパラソルのテーブルで、シアを挟むように座った2人から猛攻をうけていた。


「甘い言葉囁いたりするの?あの顔で?やっだぁー」

「独占欲は強いよねー。ねえ、その首輪見せてー。え?取れないの?どんだけだー」


矢継ぎ早の質問はシアが口を挟む余裕を与えてくれない。返事は期待されてないのかな?


「このお茶美味しいんだよー。最近入ってきたばっかりの茶葉でねー」

「ケーキもいいけど、そのマカロンもおいしそうねぇ。半分交換しない?」


・・・どうしてこうなったんだっけ


シアは少し温くなってしまったハーブティに口をつけながら、そっと空を仰いだ。






買い出しに出るシアにジズが立ち上がると、珍しくラナイが待ったをかけた。

「たまには女子同士で内緒話したいのよ。緊急の案件もないし、ついでにお茶してきてもいいでしょ?」


ジズが首のリボンを調節しつつシアの顔を窺ってきたが、特にシアの方に含みはないので、こてりと首をかしげる。


「建国祭が間近でだいぶ街に人が多くなってる。迷子になんなよ?」

「・・・しつれいな」

「大丈夫よぉ。危ない場所には近寄りもしないわ。何かあったらすぐに式鳥飛ばすから。さ、行きましょシア」


ラナイに手を取られ、慌てて買い出し用の籠バッグを持った。



街は建国祭に向け賑やかに装飾されている。

街灯や店舗のドアなど街並みの至るところに、紫紺と白金のリボンが結ばれており、その中心にラピートというギザギザの黄緑の葉を2枚飾るのが習わしだ。


「あ、ラナイさん!リボンで髪を編み込んでいる人もいますよ。可愛いですね~」

「シアだって今は若いのだもの、やればいいじゃない」

「精神年齢的に抵抗感がちょっと・・・。あ、すみませんっ」


すれ違いざま、シアの持つ籠が往来の人にぶつかってしまったので、慌てて胸に抱えて持ち直す。

「まだあと10日以上もあるのに、随分人が増えたわね」


もともと行商も人も多い王都だが、この時期はとにかく観光客が増える。特に魔法関連目的の場合は、観光客のみならず王都住民でも奇行が際立つ。



街中に普段使いとして設置されているが、ここでしかみられないものが多い生活魔道具。しかもこの時期限定のものもあり、興奮あらわにあちこち忙しなく動き回る人や、うずくまって凝視している人もいるので、ただ歩くのにも注意が必要なのだ。


目の前には、街灯のリボンにかけられている祝いの術式を見ようとしたのか、途中までよじ登った状態で自警団に怒られ引き摺り下ろされている人もいる。

大騒ぎにならないのは毎年恒例の風景だからだ。


「5年前は自分もあんな感じだったのかな、と思うと恥ずかしいです」

「ふふ、おのぼりさん丸出しで可愛かったわよ。ジズ少年にがっちり捕まえられてたものね」

「魔道具はともかく、こんなに大きなお祭りが初めてだったんですよ」

「魔道具はともかく、なのね・・」


建国に尽力した魔導士のローブの宵闇。一条の光のような月虹の魔女の髪色の白金。2人を支え繋いだ賢者の紋章であったラピートの若葉。


擦りきれる程読み込んだ、大好きな建国の物語のお祭りだからこそ、参加できることがとても嬉しかったのだ。




観光客目当てに出している露店を冷やかしながら一通り買い物を終え、川沿いのカフェでひと休みしていた時だ。


外のテーブルで心地よい風に吹かれながら、ラナイにここぞとばかりにヴォルクとの話題を振られ、たじたじになって目を泳がせた先で、ふと気になって視線をとめる。


何処にでも居そうな風貌の青年だ。柵に背もたれて川向こうを見ているので、横顔しか見られない。

見覚えはない、はずなのだが。

「どしたの、シア。あの濃紺の髪の彼、知り合い?」

「いえ。ただ何となく気になって・・・・あ」


バッチリ目が合った。


「・・・すごいいい顔でこっちに来るけど?本当に知り合いじゃないの?」

「・・や。知り合いだったみたいです」



「シアちゃん!すごい、なんで気づいたのー」


手を振りながらにこやかに駆け寄ってきた青年は、ラナイにちゃっかり同席の許可をもらい、手を上げてウェイターを呼んだ。

「僕はカフェオレ、2人は追加は?じゃポットで新作のなんだっけ、そうそうメイチュ産のハーブティちょうだい。あとケーキはこれとこれ、これもかな。あ、こっちは2つね。シェアしたいから小皿もらえる?で、1か月ぶりだねシアちゃん、なんで気付いたの?」


最後の台詞でようやくシアを見た。

さすがにラナイも呆気にとられているが、シアに至っては慄いてすらいる。


「こ、こんにちはマイクさん?」

「なんなの、この場馴れ感。手際がいいとかの問題じゃなくない?シア、この人大丈夫なの」

「やっぱり、ちゃんと僕ってわかってるんだね~。こんにちはシアちゃん。こちらの素敵な女性に紹介してもらっても?」


「あ、ラナイさん、こちら魔導師団の・・・マイクさん?」

「なんで疑問系なのかしら」


偽名だって話していたからだが、本人が頷いているのでこの場もマイクの名でいいのだろう。


「この前のアルマの件で知り合ったばかりだったので」ということにしておく。

諜報云々はここで話すべきではない。


微妙な言葉の間に『事情あり』を汲み取ったラナイが視線で、後でね、と伝えてくる。



「で、なんで気付いたの?結構自信持ってたのにー」

確かに外見の容姿はまるで別人だ。どうやっているのか、魔力波まで変えているらしい。


「気付いたのはたまたまですよ、ちょっと目にとまっただけだし」

「目にとまらないようにしてあるんだけどなー。ま、いいか。ヴォルクさんに聞いてみるねー」



マイクが追加で頼んだもので一気に豪勢になったテーブルにラナイが歓声をあげる。


「ねぇ、師団の面白こぼれ話とかないの」

「うーん。団長のオモシロ話はいっぱいあるけど、聞きたいのはヴォルクさんのことでしょー?こっちも質問していいなら情報提供するよ?」


始めこそ不審そうにしていたラナイも、マイクの巧みな話術ですっかり打ち解け始めた頃だ。

「よしのった!じゃこっちからの提供はシアにまかせるわね」

「え、ええ??」

「うんうん、先にシアちゃんに色々聞いちゃおうかなー」


ノリノリで話の盛り上がる2人に、シアは嫌な汗をかきながら、しどろもどろで答えたり、はぐらかしたりと、ぐったり疲れ果てていた。


追求はひと休みして、今はカーリング団長の失敗談で笑い転げているラナイを横目に、ケーキに逃げていたシアの肩にぴるっと琥珀色の式鳥がとまる。


「あ、ジズだ。そろそろ帰ってこいだって」

「そういえば、よくジズ宛に来てた黒紫の式鳥って彼だったのねぇ。本当はシア宛に来てたの、隠してたんだ?」

「・・・・すいません」

「おや、彼のも結構、本物の鳥みたいだねー」



ジズ宛の返信を、魔力を練り変えた式鳥を作って飛ばす。シアでは鳥のかたちの手紙がせいぜいだが。

「黒紫色だと思ったのに違うんだねー」

「え!」

「シアの式鳥なんだからピンクで当然でしょう?」

「そそそそそそうですよ、ピンクです!」


ふぅん、といたずらに笑うマイクは、これ以上突っ込む気はなさそうだ。何処まで知っているのか。


・・・・やり手の諜報部員、怖い。



「時間がたつの早いわねー。じゃあ最後に師団のこと、何か教えてよ」


ラナイからの催促にニヤリとマイクが笑う。

「じゃあ取って置き!今のシアちゃんの姿になったときの裏話ね」

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