マンドラゴラのポタージュ

 食材としてのマンドラゴラについてわかった事がある。歯ごたえは悪くない、という点と、熱を一定以上加えなけらば臭いもさほど悪くはない、という点だ。

 マンドラゴラ料理でまず意識しなければならないのは臭いだと、マンドラゴラのステーキで学習した。強烈な味に加えてあの悪臭は人間の耐えられる限度を越えている。味は最悪飲み込めばなんとかなるが臭いは避けられない。そこでポタージュを作る事に決めた。


 マンドラゴラ専門店のきつね堂から届いた段ボール箱を開ける。そこには箱いっぱいに埋まったマンドラゴラがあった。その中の1つを取り出し軽く水洗いをする。それからまな板に置いて、マンドラゴラの手足を切り落とし顔を削ぐ。それから皮を剥いた。

 きれいに皮を剥き終えたマンドラゴラは大分小さくなった。ちょうどミニキャロット位の大きさだ。前に買ったマンドラゴラの日干しは皮がついたままであったが、その理由がわかった。皮を剥くと可食部分がここまで小さくなるのかと感慨にふける。

 さすがに1本だけでは心ともなかったので、3本ほど追加で皮を剥いた。ここからが本番だ。

 マンドラゴラをふかさなければならないが普通にやれば悪臭が広がる。まずは水につけてみることにした。水温を測る。17度。1時間ほどたったが全く変化なし。むしろ身が締まってみえる。温度を上げて再度試す。20度、25度、30度。しかし、マンドラゴラは変わらない。

 35度まで上げてみた。すると、ふかされたような弾力があった。もう少し温度を上げる。40度。あの鼻を殺しにかかるような臭いはしない。また、灰汁もわずかに水面を漂うだけでマンドラゴラの身は崩れていない。菜箸でつつくと身に沈み込んだ。

 これはマンドラゴラ料理界に一石を投じる発見である。マンドラゴラはふかす事が出来るのだ。ちょうどお風呂と同じような温度である。

 ふかしたマンドラゴラを取り出してポタージュの準備にかかる。ポタージュとはフランス料理で言えばブイヨン全般をさす言葉である。しかし、一般的にイメージされるのはヴィシソワーズだろう。故に、これから作るのはマンドラゴラのヴィシソワーズが正式な名前になる。

 まずバターを熱した鍋で玉ねぎを炒め、水を加えて煮込む。水が40度程度になったら、その煮え湯とふかしたマンドラゴラをミキサーで撹拌した。


 ぎゃああーー


 という悲鳴のような音が鳴り響く。思わずプランターのマンドラゴラを見た。あの日から変わらず地面から両目を出してこちらを睨んでいる。

 気のせいだと思い直し調理を続ける。ミキサーで混ぜたものに、牛乳を加えて軽く混ぜて塩を軽くふる。本来は、ここで味見をし味を整えるのだがその勇気は出なかった。

 臭いを嗅いでみた。鼻をつくような臭いがするが、この前炙った時よりは格段にましだ。たとえるのならば、薬品臭い香りがする。

 私は覚悟を決めてマンドラゴラのポタージュを飲み込んだ。味わう気持ちは端からない。しかし、マンドラゴラのポタージュの残りが口内でチクチクとさすような痛みをうったえた。賞味期限を数年過ぎたコーヒーを飲んだ時の事を思い出した。

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