マンドラゴラのお浸し
マンドラゴラ料理大全という奇書が存在する。好事家は何時の時代にも存在したのだ。この本の作者は無類のマンドラゴラ好きであったらしい。マンドラゴラが人間に歩み寄ったわけではなく、この作者がマンドラゴラに合わせて生まれてきた、と言うべきだろう。それは歴史が証明している。
マンドラゴラ料理大全には多種多様な料理のレシピがあるわけだが、作者の感想はあてにならない。だからこそ、作者がいまいちと述べた料理を最初は試す事にした。
マンドラゴラと言えば根の部分を思い浮かべるだろう。しかし、地上で揺れる葉もまたマンドラゴラなのだ。今回試すのはマンドラゴラの菜を使ったお浸しである。
調理の方法は一般的なお浸しと同じだ。まずは昆布で出しをとる。そこにマンドラゴラの菜を入れて味を染み込ませて完成だ。好みで醤油や鰹節をかけても良い。
私はこの日のために育てていたマンドラゴラを見つめた。決して抜いてはいけない。マンドラゴラの伝説は本当である。マンドラゴラを引き抜くと金切り声をあげ、それを聞いたものは亡くなる。よくて発狂だ。
私にはまだやらなければならないことがある。マンドラゴラを調理し終えるまでは正気を失うわけにはいかない。
プランターに植えてあるマンドラゴラの葉を慎重に掴んで持ち上げる。しかし、緊張していたためか根が少し顔を出した。マンドラゴラの目と見つめ合う。
まだ大丈夫。口は出ていない。そう自分に言い聞かせて調理ハサミでマンドラゴラの葉を切った。
私はだし汁の入った鍋に火をかける。そこにマンドラゴラの葉を入れて味を染み込ませる。ちなみにだしは昆布にした。
皿に盛り付け醤油を垂らした。マンドラゴラの葉を掴む箸が震える。至高の農作物、マンドラゴラ料理一品目はなんとも形容しがたい味がした。一言でいうのならば、とても不味かった。
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