第3章 楽園の循環機構

突き抜けるような晴天と、波飛沫の音に混じる歓声。


内陸部では拷問の様な酷暑も、

ここでは束の間のレジャーを満喫するスパイスだった。

南房総の海水浴場は、夏休みを前に早くも芋を洗うが如くの混雑を見せ、

砂浜には色とりどりのパラソルが咲き乱れている。


海水浴客のカラフルな水着と相まって、

花畑で戯れる蝶の群れみたいだとナナは思った。


ナナは、海の家『Sea Cats』のオーナー兼店長である。

店のコンセプトは猫がいる海の家だ。

各メンバーの使い魔を交代で出すことで、

常時10匹近くの鯖トラ猫が、店の中でのんびりしている。


そしてナナのもうひとつの肩書は、ネプチューンの提督であった。

氏族によってトップの呼称はバラバラであり、

団長や隊長など、それっぽい呼称もあれば、お嬢と呼ぶところもある。


(お嬢か、そう呼ばれてみるのも悪くない。提督命令で変えてみようか……)


昼休憩の有効活用として、店の裏に設置したビーチチェアに寝そべったナナは、

まんざらではない笑みを浮かべた。

くりくりのくせ毛に、黄色に近いオレンジの髪には深いグレーの三角形の耳が突き出ている。太めの眉毛と少し丸まった鼻は、人懐っこい印象を受けた。


店のロゴをプリントしたTシャツから褐色の腕がすらりと伸び、

左腕にジャラジャラと巻きつけたミサンガの隙間からは、

赤いミミズ腫れの様な筋が何重も刻まれているのが見える。

リストカットの跡だった。


10年前に行った迎撃戦では東京都とその近隣区域を守るため、

ネプチューンは太平洋沿岸から、落下物を撃って蒸発させる任務を帯びていた。

小競り合い程度なら、地上に落下しそうな天使の破片や、不運な仲間の遺体に狙いをつけるだけだった。


だが、あの戦いは何もかもが無茶苦茶だった。


2万の敵を、たった5千の戦力で迎え撃つ。降り落ちる破片処理だけでも、

射撃統制システム《FCS》の処理能力ギリギリだった。

ロックオンする端から、射撃許可を下さないと間に合わない程だ。思い返してみても、落下被害ゼロで済ませられたのは奇跡に等しいと思っている。


その奇跡を呼び起こすため、

規定高度に到達した落下物は、すべて冷徹に蒸発させたのだ。

例えそれが、落下速度を落とそうともがく傷ついた仲間であってもだ。

戦闘終結後、400名近いメンバーのうち実に64名が、

良心の呵責のあまり自らの命を断っていた。


例えばナナが蒸発させた子の最後はこんな風だ……。


その子はブレイブギアを爆散させ、クルクル落ちていく。

あまりにリズミカルに回るので、そういう玩具の様に見えた。


白い耳と白いシッポ。

ディアンドルというチロル地方の民族衣装をベースにした制服は、

アルテミスに所属している証だ。

小柄な女の子が、懸命に体勢を立て直そうとしている。

彼女が捨てた対物ライフルは、とっくにナナが狙い撃って蒸発させた。


はやくして、頑張って、お願いもう撃ちたくないっ。


レーダーと光学センサーを元に推定復元した映像を、

網膜投影ディスプレイが他人事のように見せつけてくる。

ナナはすがる思いで必死に祈った。


ヴィー!!


ターゲットが規定高度まで落下したことを知らせる警報が鳴った。

祈りは……届かなかったのだ。


失望により干からびた心で、FCSに射撃許可を下す。

どの道、その高度から体勢を立て直したとしても、

80パーセントの確率で墜落死するだろう。


視線が、ディスプレイ越しにロックオンした少女と交差する。

翡翠色の瞳は、絶望と諦観の間を揺れていたが、

その奥に小さな決意が煌めいていた。

ああ、この子はまだ生きるのを諦めていなかった。


それを強引に終わらせるのはワタシなんだ。と、ナナは自分に失望する。

そして、人間の目では捉えられない荷電粒子砲の黄色い光が、一瞬で綺麗さっぱりと少女を消し去った。


あと10秒、せめて5秒待っていれば、

あの子は減速体勢を取ることができたのかもしれない。

緊急着地も成功したかもしれない。


それを考えると気がどうにかなりそうで、その度に腕を切るようになった。

シカっとした痛みにすがりつくと、なんとか平静を保つことができたのだ。

そんな自暴自棄になったナナを救ったのは、

皮肉にも真っ先に自殺した腹心の後任だった。

 

名をチハル。任官前は隊の索敵を担当していた控えめな子だったと記憶している。

『自分たちだけの殻に籠もっていたら、何も救われませんよ!!』

そう言って着任早々に猫カフェをオープンさせたのも、この子の手腕だった。


『屋号は提督が考えてくださいね』

役所に提出する書類をつき出して、チハルが迫ってきたのも、

今ではいい思い出だ。


そして、無い知恵を絞って考え出したのが『Sea Cats』

我ながら良い名前だと思う。

任務中によく耳にする『うみねこ』の鳴き声を聞きながら、

みんなで海上を疾走したい。


そんなネプチューン再起を願って付けた店の名前だった。


ところが、店名の由来を知ったチハルは笑い出したのだ。

『ありえない、うみねこの英名はblack tailed gullですよ。ほら、尾羽根が黒いでしょ。それ、ありえませんからっ』そう言って笑い続けていた。


そうして始まった猫カフェは、

確かにナナとネプチューンを変えていった。

最初こそ、自身の分身のような使い魔を、

人間と触れ合わせるのは気が気でなかった。


だが、猫好きの客と接するうちに、同族殺しの呵責は薄れていく。

ヒリつく痛みは決して消えはしないが、

すべて投げ出して楽になりたいと、ナナと仲間たちは思わなくなっていた。


この10年でネプチューンは再生した。

支店を増やし、今年から海の家も始めたのだ。


チハルのことを、頼りになる副官から気のおける友、

そして側にいて欲しい人と思うようになるには、対して時間はかからなかった。


「にゃーお!」


ナナのお腹に9キロの肉塊が落ちてきた。


「ぐほっ!!」


ボディーブローのような猫の着地で、ナナは現実に引き戻される。

お腹の上では、肉付きの良い鯖トラ猫が、

琥珀色の瞳を見開いてナナをじっと見つめていた。

ナナの使い魔を務めるヤマトだった。


「にゃーお!」


一番可愛いのは俺様だろ?と、言っていた。

お前は、俺様の世話をしなくちゃいけないんだとも言った。

主人と使い魔はねこねこネットワーク《NNN》を通して、

常に感情や感覚を共有している。


「これじゃ、どっちがご主人様かわかんないなー。

ちょっと昔を思い出しただけだって、浮気するわけないだろ」


ヤマトの顎を掻いてやると、破鐘のように喉を鳴らす。


「ははは、ひでー声」


伸びをひとつすると、一息で起き上がる。

縞々グレーのシッポも、踊るようにゆらりと伸びた。


「提督、ナナ提督、どこなの?」

副長のチハルの声がした。


「チハごっめーん。スグいくよー」


やばっ、休憩時間をオーバーしちゃったか。

ナナは慌てて脱ぎ捨てたサンダルを拾い砂を払う。あれれ、もう片方はどこ?


緊張した顔のチハルが、店の裏まで小走りでやってきた。


「ナナ!首都圏に向かって、

太平洋側から200ノットで進行する複数の物体あり。

東京湾は避難指示でパニック寸前だって」


タイミングが良いのか悪いのか、サイレン音が海水浴場全体に鳴り響く。

漁協の当番のおっちゃんが、

だみ声でシェルターへの避難誘導をアナウンスし始めた。

サーファーに早く上がれと、拡声器で呼びかける声も聞こえる。


「うっそぉ、今日の売上が下がっちゃう!!営業妨害で説教してやる」

「あのね、時速300キロ以上で移動する物体が、説教聞くわけないでしょ」

「それ…巡航ミサイルとかだったらいいなあ。私たちの管轄外になるし」

「このご時世で、東から撃ってくる国家なんてないわよ……」


「やっぱり、水面効果で飛んでくる天使御一行かなぁ、

カモメかよアイツらめ……」

「海水浴客が天使異体化セラフォーシスして、大混乱になるよりましでしょ」

「どっかの高校で起きたらしいじゃん。一学年壊滅したとか、こわっ」

「ヘリオス管轄のエリアね。ついでに新人も獲得したそうよ」

「さすが、我らが副長殿は耳が早いな」


氏族の子がわざわざ裏までやってきて「SSS出ました」と震える声で伝えに来る。チハルがわかったと言うと、来た道を戻っていった。


ナナとチハルは顔を見合わせた。


SSS――それは、セラフィック・スクランブル・熾天使の符丁。

せめてこれが智天使を示すSSTとかなら、もっと気楽だったのにとナナは思う。


10年前の悪夢がよぎる。

クオンとクナギのカミカゼは、今でも語り草になっている伝説だ。

あそこまで潔く自分の命を差し出せる度胸は、ナナはとてもじゃないが持ち合わせていない。

チハルの手を引いて逃げ出したくなる所を、自分は提督なんだと奮い立たせ平静を保つ。


「近くに動けそうな味方は?」

「ジュピターの分隊が舞浜に駐留してる。あとは鎌倉がホームのプロセルピナね。支援要請出しておく?」


チハルはキビキビと答えた。


「いや、策もなしに大所帯でノコノコ出て全滅したらシャレにならん。後詰めで待機してもらおう。あたしの隊でロングショットってのはどうかな?」


チハルの日に焼けた顔から血の気が失せた。


「ねえ、ナナ……ネプチューンだけでやれると思う?」

「あの日を教訓にした新しい戦術と武装がある。それでも危なかった逃げちゃおうね」

「そんなこと言って、いつもムチャするくせに」

「もう以前のあたしじゃないよ、今はチハがいる」


ナナがふわり、チハルの頬を優しく両手で包む。

きっかり心臓が四回鳴るまで見つめ合い、キスをした。


「……続きは終わってからね」


そっとチハルはナナから離れた。

自分から離れたくせに、ちらり上目遣いで機嫌を伺う所が、いかにもこの子っぽい。


「ちぇ、チハはしっかり者だなー。もうちょっといいじゃない?」


もっと構ってほしいナナは、

本音を気取られないよう頑張って明るい口調で言った。


「だめ。だらしないリーダーの脇を固める副長の身にもなって」

「うう…12氏族もあるくせに、どこもまともなリーダー不在だと思うんだよね。どいつもノリと脳筋ばっかりな気がするな…さすが楽園エデンを追われたネコの因子を引き継ぐ私たちダ」


「どこの氏族も副長が優秀なのよ。きっと私とルミが、一番苦労をしているに違いないわ」

「ええっ、あんなあざとい子と一緒にしないでくれる?心外だなあ」

「だったら、さっさと指示を出して、提督さん」

「……大ナナ艦隊出撃用意、頼むよ副長殿」

「出撃準備、直ちに」


そう言ってチハルは、特別にもう一回だけキスを許した。


             ※ ※ ※


本来『第7艦隊』は、横須賀に母港を置くブルー・リッジを司令部に展開するアメリカ海軍艦隊のことだ。

ネプチューンのリーダー《提督》『ナナ』が率いる隊は、

このアメリカ海軍艦隊にあやかった、

通称『大ナナ艦隊』として12氏族中に知れ渡っていた。


「ダメージ反射効力ラインまで6000」

ナナの左肩に乗った鯖トラ猫のヤマトが、チハルの声音で喋った。


ユミル経由で全員のFCSが同調し、

索敵能力が一番秀でているチハルから、補正データが逐次飛んでくる。


ナナのブレイブ・ギア=リヴァイアサンは、全装甲型フルアーマーのギアだ。装甲はグレーのデジタル迷彩が施され、シャープな直線で構成されたボディラインは、そのまま変形して、大空高く舞い上がっていきそうだ。


もっとも、ネプチューンのギアはすべて水上か水中仕様のため、

空を飛ぶことは望めない。

その分、水面や水中の高速移動や、陸戦型以上の兵装搭載能力に秀でていた。


リヴァイアサンの背面や四肢にポータルサークルが現れ、

金属同士がぶつかる鈍い音を立てながら外部武装が追加されていく。

背に折りたたみ式の105mmリニアキャノンを背負い、

肩と両足にマイクロミサイルポッドがマウントする。

右腕に固定式の収束重粒子砲が、

左腕には近接防御用のCIWSを兼ねたガトリングレーザーを装着した。

搭載した武装の質量で、海面がたわむように大きくへこむ。


「その姿を見てると、あなただけは、何があっても沈まないって思うわ」

使い魔のヤマトを仲介して、チハルが軽口を叩いてきた。


「チハを見る度に、よくそんな軽装で平気だなって感心するよ」

ナナは負けじと言い返してやった。


ヤマトの耳がピクピク動く。

聞き取ったナナの声は、ねこねこネットワーク《NNN》を通して、

チハルの使い魔が伝えているだろう。


飛沫を上げてチハルが右側から近づいてきた。

襟と肩口がグレーの白いセーラー服。

プリーツスカートだけ、グレーの洋上デジタル迷彩柄になっている。


かつてナナが、真顔でスカートだけ迷彩にして効果があるのかと聞いたところ。

ファッションに決まってるじゃない。と、笑われたことがある。


チハルの武装はMXカラサワレールガンと、

腰に下げたUAV《無人機》ポータルカタパルトのみ、

背中にはレドームを格納したバックパック。

足元は水上移動用のローファーを模した斥力発生装置。

こういった衣服を模したギアは、甲衣型ドレスと呼ばれている。


ナナとチハルに随伴する仲間は、全装甲型フルアーマー3騎、

甲衣型ドレス3騎という防御力と機動性半々の編成だ。

氏族たちは、それぞれ淡い紫色に発光するポータルサークルを発生させ、

武装を装着していく。


「ダメージ反射効力ラインまで3000」

使い魔を介し、全隊にチハルが告げた。


全装甲型フルアーマー3騎が、

背部からストライクランスを次々発射する。

ロケット噴射で、上空2000メートルまで一気に上昇。

空間置換推進に切り替わったランスは、極超音速で急降下突進する。


べイパーコーンを発生したタングステングラファイト製の槍が、

水蒸気のスカートを纏い、権天使の外殻もろとも神核を貫いた。


追撃にチハルを含めた甲衣型ドレス4騎は、

口径を50mmに切り替えたレールガンで戦術N2弾頭を斉射する。

爆発により発生した衝撃波で、

攻撃地点に巨大なマッシュルーム型の水蒸気ドームが発生した。


水蒸気が壁となり、レーダーも光学センサーも通らなくなった

――観測能力特化のチハル以外は。


「直掩壊滅を確認。熾天使の中央神核の座標送ったよ!」

チハルから通信が入る。


ナナの網膜投影ディスプレイに、

ロックオン済のターゲットマーカーが表示された。

背負った105mmリニアキャノンを左腕で構える。

中折式の弾帯加速装置が接合し長い砲身になった。


「いっけぇぇぇぇっ!!」

ナナが吠え、リニアキャノンを撃つ。


右腕の収束重粒子砲と全マイクロミサイルポッドも斉射した。

重粒子の反応発光と105mmAPFSDSの海面に刻む水柱が、

水蒸気ドームの中に消えていく、

遅れてマイクロミサイルが、ミルク色の壁の中に飲み込まれていった。


ダメージ反射の効力圏外からの超長距離飽和打撃。

これが10年前を教訓にして築いた対熾天使の戦術だ。


だが、言うは易し行うは難し。

FCSのアップデートに始まり、観測手の機能強化や、

長距離から神核を破壊しうる武装の開発まで課題は山積みだった。

結果としてこの10年で、ほぼ数世代分の技術飛躍を遂げることになった。


水蒸気ドームが、着弾の衝撃波で破れた。

ミルク色の磯臭いモヤが、大ナナ艦隊に雪崩落ちる。

視界は完全にホワイトアウトした。


「着弾、有効打と判断。本当に撃破…本当に私たちだけでやったの……」

モヤの中から、いつまでも握っていたいチハルの手が現れた。


「もちろん、チハの索敵と観測のおかげでねっ」

素手でチハルに触れられないことを恨めしく思いながら、

ナナはそっと手に触れた。

感圧フィードバックが、無骨なマニピュレータをしっかり握りしめてきたことを伝えてきた。


「あのねナナ、戻ったら、返事しようと思っていたんだけど……いいよ」

「えっ……」


ナナは先週、チハルにとある提案をした。『一緒に暮らしてみないか』と。


共同生活を営む氏族は割といる。特に珍しいことでもない。

盟妹のオーバーライドを結んだばかりの姉妹は、

育成指導を兼ねて一緒に暮らす。

師弟や気が合うもの同士で、部屋をシェアすることも一般的だ。

だがナナは、もっと深い意味でチハルと共同生活を送りたかった。


「いいの?私なんかで、その、いいの……マジで?」

「なんて言い草……。そっちから告ってきたんじゃない。

言っておきますけど、眠れなかったんですからね。その日は」

「うう、ぜひ、ぜひぜひっ、OKですっ。

あた、あたしも、あの日は眠れなかった…」


キュゴッ。


大気が割れた。

真空状態になった空間に、周囲の空気が押し寄せる。


ッバァァァァァン!!


空気が衝突する破裂音。

ミルク色のモヤもすべて消し飛んだ。


「くうっ、全隊ダメージ報告。チハッ、何が起きたの?」

謎の現象で荒れる海面からチハルを守ろうと、

ナナは引き寄せようとし言葉を失った。


先程まで繋いでいたチハルの左手が、肘から先を失っていた。


「……え?…あれ、チハ……」

左手だけのチハは、とっても軽かった。


「右翼が……右翼隊壊滅。ビーコンロストッ」

観測補の子が、使い魔ごしに報告を入れてきた。


驚愕から抜け出しきれていないナナだったが、

脊椎反射ともいえる判断力で指示を出す。


「ブレイクッ…いや、私の後ろにっ」


ナナはリヴァイアサンの周囲に常時展開する24層の積層歪曲シールドを、

倍の48層に引き上げる。

意図を察した古参の子が、自分のシールドをナナのシールドに重ねた。

次々とシールドが重ねられ、118層もの積層歪曲シールドを築く。


「全隊、後退!」


ナナの号令で、スモークとチャフを撒き、大ナナ艦隊は離脱速度を上げていく。

網膜投影ディスプレイに映る熾天使は、シルエットこそ女性だが、

その体は昆虫を思わせる節くれだった外殻で構成されていた。

下腹部は大きく損傷し、確かに中央神核は破壊してある。


もごり。


壊れた神核を押し出し、体内から真新しい神核が誕生した。


ひりつく喉で、ナナはなんとか声を絞り出す。

「観測補、あれはなんだ……何が起きたっ」


泣き出しそうな声で、観測補は応じた。

「ノイズが酷くてわかりません。

副官が健在なら、もしかしたら解析できたかも……ユミルに戦闘記録を照会中」


「あのバカトンボめ、最初からチハを潰すつもりだった……」


チハルの観測があったからこそ、

天使のZone of Control内の電子妨害をものともせず、

ロックオンや位置標定システムの使用が可能だった。


彼女を失ったことで、超遠距離射撃ロングショット

本当の意味で一か八か《ロングショット》になってしまった。


「エネルギー反応増大!さっきのが来るっ」

観測補のヒステリックな金切り声。


「対ショック!」


キュゴッ!

海面が割れた。


118層あった積層歪曲シールドが、抵抗しきれず112層まで消滅する。

生き残ったシールドが辛うじて攻撃を反らせ、

高火力の何かは濃紺の空の彼方へと消えていった。


「ユミルから返信、天使の新兵器とのこと。

以後グラビティキャノンと呼称、即時離脱を推奨していますっ」


「…尻尾巻いて逃げろっても、後ろから撃たれたらお終いだっつの」


遮蔽物もない海の上、いや隠れる場所があったとしてもシールドを削るあのパワーは、山ひとつ吹き飛ばしかねない。ナナは何とか助かる方法を考えようとする…。


「ああ、もうっ、バカだから思いつかねえ。お前らヤマト頼むっ」


リヴァイアサンの装甲の継ぎ目に爪を立て、しがみつく使い魔を引っ剥がし、

観測補にぶん投げた。


「あばよ、ダチ公どもっ!!」


お守り代わりに、千切れたチハルの腕を握りしめ、

ナナは出力全開で熾天使に突進。

レーザー目標指示装置で熾天使を捉えると、

ミサイルを発射し、その後を追うかのように疾駆する。


ミサイルが命中すると、理不尽この上ないことに、

リヴァイアサンの胸部装甲に衝撃が走る。


先の攻撃を反らすために減衰しきったシールドは、あっけなく消滅した。

跳ね返ってきたダメージによって、

リヴァイアサンの胸部は破片を大海原に撒き散らす。

被害は中のナナにも及び、肋骨が何本か折れた。


「ゴフッ、やっぱ反則だろ、あの反射能力っ!」


仲間を守りたい一心でつい突撃してしまったが、

さりとてナナに良い秘策は浮かばない。

網膜投影ディスプレイに追尾転移の警告表示が出る。


転移式空間機雷かと、対ショックに舌を引っ込めたナナの前に、

モフモフの物体が実体化した。

人間に対して秘匿し続けてきた猫の最高機密、空間転移だ。


「なごぉーっ」


ミスリル合金ハイセラミック複合材の装甲を切り裂く勢いで、

鯖トラ猫が爪を立てる。


「ヤマト?戻ってくるな!引き返せバカ!!」


「んみゃーっ」

お前も逃げるならなと、言い返したヤマトは、

いつもの定位置であるナナの左肩にしがみついた。


「お前は本当にバカだよ……。

バカトンボから中央神核のデータを取れるだけ取ってやる。

ヤマトは戦闘記録をユミルに送ってくれ」


「みゃおっ!」


グラビティキャノンを発射されたら、もう防ぐ手立てがない。

そうなったらヤマトと一緒に、犬死にならぬ猫死にだと、

くだらないことを考える。

猫死に?

ああ、そうか、それがあったな。

ナナはほくそ笑んだ。


熾天使が詠い出した。

聞き慣れない言語が奇怪なリズムを刻む。

リヴァイアサンが、即座にライブラリ照合しナナに警告を出した。

【警告:サンダーブラスト】


「んな中位スペル、当たるかっ」

詠唱完成と同時に、スペル・デコイを射出。

海面を奔る雷光は、すべてデコイが引き寄せ身代わりになった。


ナナは加速して熾天使に肉薄する。

そして中央神核を最大解像度でズーム。

通常の神核は血の色をした水晶体だが、この神核はブドウの房の様に、

小さなコアが詰まっていた。


「これ…全部…神核の予備なのか、せこい事やりやがるっ」


「にゃっ!」

新型神核のデータを送り終えたことを、ヤマトが告げた。

これで思い残すことはない。


「クオンの猿真似しか思いつかなかったなっ、バニシングモードッ!」


晴天の只中にありながら、関節の駆動部から尚も輝く光が溢れた。

リヴァイアサンから小さな太陽の輝きが誕生する。

それは、醜悪な天使を浄化するに十分な熱量を秘めていた。


光が収まると、大空高く吹き飛んだ天使の破片が、

スコールの様に海に降り注いでいた。


ブレイブギアを駆る少女と、相棒の猫の姿は、どこにも見当たらなかった。


             ※ ※ ※


ゴーン。


ゴーン。


神々しい重厚な鐘の音に、ナナは目を覚ました。

気づいたら洋上を見渡すように浮かんでいた。しかも、素っ裸で。

体が透けて見える。掌を目の前にかざすと、向こう側の水平線がよく見えた。


肩にしがみついているのは、相棒のヤマトだ。

本来、9キロもある恰幅の良い猫のはずだが、重さを感じない。


これは地縛霊になったのだろうか?

あるいは浮遊霊と言うものだろうか?


しばらく考え、まあヤマトと一緒なら何とかなるか。

という、根拠のない結論に達した。


「おい、ヤマト。これからどうすりゃいいんだい?」


「んみゃあ……」

心なしか、ヤマトに元気がない。そういえば体がやけにダルい……。


「ん、早く扉を開けろ?なんだそりゃ」

 すうっと、眼前に木製の丸いドアが出現した。


「何これ怪しい……」

ナナはヤマトを抱っこしたまま、扉の前で考えあぐねた。


「みゃ……」

「え、来るって?何が来るの?」


黄金の光が天上から差し込み、ナナを照らし出す。

得難い多幸感が湧き上がってきた。

賛美歌なんて歌ったことがないのに、勝手に口ずさんでいた。

ナナの透き通った体が、天上に吸い寄られていく。


「ふぎゃっ!」

ヤマトが急かした。


ナナはドアに手を伸ばそうとする。

ドアノブに指が触れる。

天上から注ぐ黄金の光が、一層強くナナの体をさらうように吸い上げていく。


遥か頭上から、門が開く音がした。

見上げると、頭上に天国の門が開け放たれていた。

幼子の天使が小さな翼をパタパタならし舞い降りる。

花びらを撒き散らし、祝福のホルンを吹き上げた。

ナナの心に、歓喜が沸き起こる。


「んみゃあ…」

精神汚染だと、ヤマトが掠れる鳴き声で警告をする。

チハルを思い出せ、お前は俺様の……。


「わあ……」


幼い天使が愛くるしい笑顔で、ナナに花冠を授けようと近づいた。

自然と手を胸の前で組み、敬虔に頭を垂れる。


花冠が頭に乗せられる寸前に、ナナは天使の喉を渾身の力を込めて締め上げた。

それでも天使は、とろける様な笑顔を浮かべるのをやめようとしない。


なぜならそれは……。


「なぜなら、お前らが、そんな外見で人に魅了チャームをかけるのは…、

霊的実体を刈り取って楽園エデンの資源に使うためだからだろっ。

私は楽園エデンなんていかないぞっ。

お前たちのトイレットペーパーになってたまるかっ」


小気味よい音を立て、幼い天使の首があらぬ方向に曲がる。

ナナはそれを、躊躇うことなく投げ捨てた。


門から、無数の生白い手が伸びてきた。


「ヤマト、今度こそさよならだ!」

使い魔をぶん投げたのと同時に、幾十もの手がナナを拘束する。


「くそったれ、楽園エデンの循環機構なんて、くたばっちまえ!」

ナナを絡め取った手は、門の中へと引きずり込んでいく。


「やめろっ、いやだっ、いやだっ……助けて…チハッ!!」

 

丸いドアが開き、グラビティキャノンを超える奔流が迸る。

それは、羽虫のようにまとわりつく天使と、絡みつく手を吹き飛ばした。


「ナナ、こっち!」


目の前にヤマトを抱えたチハルが現れた。

草色のサマードレスから、すらりと両手が伸びてるのを見てナナは安心した。


「んみゃあっ!」

 二度も捨てるな!と抗議する相棒猫をなだめ、ナナはチハルの手を取った。


ヤマトがわざとらしく爪を立てて、いつもの左肩に収まる。

霊的実体という状態だからか、爪が素肌に食い込んでも痛くなかった。


そして二人と一匹は、

犬に追いかけられた子猫のように、一目散に丸い扉の中へ飛び込んだ。


扉を閉めると、猛烈な勢いで手がドアを叩いているのがわかる。

チハルがドアの内鍵をロックした。激突音に合わせ、金具が嫌な音を立て軋んだ。


「ヤマトがね、ナナが危ないって教えてくれたの。もう、なんで早く入ってこなかったのかなっ!」

いかにもナナに原因があるように、チハルは責め出した。


「気づいたら裸で宙に浮かんでいて、目の前にいきなりドアが現れたら、普通は開けるはずないでしょ!」

言い方にカチンときたナナは、思わず言い返す。


ズン。


爆弾が落ちたかのような衝撃音が轟いた。

ドアに背中を預けていたナナは、堪えきれずよろめいた。


「ううっ、このドア、破られたりしないよね?」

先程の怒りもどこへやら、ナナは弱気になる。

「大丈夫よ。やつらでも、こっちの空間防壁を破って侵入はできないわ」

「こ、怖かった。白状すると、触手っぽいの昔から苦手なんだ……」

「そんなので、よくネプチューンの提督が務まったね」


「仕方ないじゃん、ダメなものはダメなの。……本当にチハなんだ」

「本物ですけど何か」

「ここはあの世なの?」


チハルはクスクス笑い出した。

「違うけど、そうだな、強いて言えば猫と氏族のための天国と言えなくもないかな。ここは、ねこねこネットワーク《NNN》の集合的意識の中枢。

世界中の猫と氏族が、アクセスをして情報を共有し参照している。

この領域そのものがユミルの正体よ。

死んだ私たちも、ユミルを構成する一員になるみたいね」


「マジで……ユミルって、超技術のクラウドOSか何かだと思っていたよ」


「えっと、一足先に死んだから、ユミルから教えてもらったんだけどね…

最初に楽園エデンを追放された神代の猫、ユミルに死が訪れた時、彼女は天国を拒絶した。なぜならそこは、霊的実体を捕らえるための檻だったから。

楽園エデンの資源として利用されることを拒んだユミルは、

現世のディレクトリに猫と氏族のためのプラットフォームを創造したの。

見て……」


「わあ……」

ナナは感嘆の声を上げた。


目の前の世界が急に広がった。

空間にたゆたうネコ耳とシッポを生やした少女たちが無数にいた。そ

の間を猫たちが気ままに歩き、あるいは少女のお腹の上で丸くなっている。

なぜか大小様々な箱も散らばっており。

その中には、もれなく猫が入り込んでいた。


そして……。


「ああ、見て…あの子だ……」

ナナは喘ぐように声を漏らした。


白い耳に白いシッポ。

草色のサマードレスを身に着けているが、間違いようがなかった。

ナナが撃ち殺したアルテミスの子だ。


「あの子が、話してくれた子なの?良かったね、穏やかそうで」

「うん、うん。良かった。ずっと……忘れられなくて……」

「安心した?」

 子供のようにナナは頷いた。

「ほっとした。私たちも…ここで眠って暮らすことになるの?」

「みんな眠っているように見えるけど違うよ。はいこれ、服とクエスト情報誌。

毎週月曜に発行するって」


ブレイブギアの兵装転送のように、チハルの掌にポータルサークルが現れ、

折りたたんだ草色のワンピースと雑誌を実体化させた。


「毎週月曜って、そんなにニーズあるのこれ?」


胡散臭い思いで、手早く着替えたナナはクエスト情報誌なるものを受け取り、

ページを適当にめくった。


【急募、NNN管理◎飼い主探しから統合戦術情報伝達システムまで幅広く活躍】

【既存ノードの維持修復 ※割合はアナタの都合に合わせてOK】

【ブレイブギアのエネルギー転送管理 ◆イチから丁寧に教えます】

【実戦経験者優遇 ★FCS同調と弾道修正演算の任務です】

【長期プロジェクト ●楽園防壁の攻略演算 ◎意識領域を提供するだけの任務】


様々な求人情報…もとい、クエスト情報を斜め読みしたナナは呻くように言う。

「散々ユミルを利用してきたけどさ。

まさか死んだら使われる側になるなんて、思ってもみなかった。

でも、あたしバカだから難しいのは無理だよ?」


「意識領域を提供する任務はどう?能動的に行う必要はないみたい。

この楽園防壁の攻略演算ってのは面白そう。

あ、ナナ疲れてるよね、もう少し休んでから決める?」


「ううん、チハと一緒のクエストがいい」


「わかった…応募するね」

広告文をタップすると、

任務を受領しますか?〈YES〉〈NO〉と、表示が浮かぶ。

二人は順番に〈YES〉を押した。


「これで完了したの?チュートリアルとかないんだ、あっけないな……」

ナナは少々拍子抜けをした。


「いっとくけど、私も初めてなの」

「そりゃそうだ……ダメだなあ、チハに頼る癖がついちゃったみたい」

「はぁ…やっぱり私とルミは、一番苦労をしている副長に違いないわ。

どこかゆっくりできそうなスペースを探しましょ」

そう言ってチハルは、上下の存在も定まっていないネコ空間を見回した。


「あのさチハ、ちょっと、付き合って欲しいんだけど……」

ナナがチハのワンピースの裾を握る。

その様子が、あまりにも子供っぽくて、チハルは吹き出した。


「ふふふっ、どうしたの?」

「……あの子にきちんと謝りたいんだ。

…けど、ひとりだと…怖くて、面目ない……」

「いいよ、付き合ってあげる」


白猫を胸に抱いて眠る女の子に、おずおずとナナは近づいた。

時折、後ろを振り返り、チハルの姿を何度も確認する。

そんなナナに向かって、チハルは声を出さず口だけ動かして応援した。


どうにかして、手を伸ばせば触れることができる距離まで近づいた。

ナナの心臓はもう破裂しそうだ。

自爆した時だって、こんなにドキドキしていなかったはず。

怖くて、グレーの縞々シッポが、しんなり垂れ下がる。

眠り姫にかけるべき言葉を思いつかなかったナナは、

とりあえず女の子の隣に正座した。


アルテミスの種族特徴である小柄な身長、白い耳とシッポ。

人形と形容するに相応しい卵型の顔に、整った目鼻立ち。

海で日焼けしたナナとは対象的な子だった。


「誰?」


ぱちりと開いた翡翠色の瞳に、ナナの驚いた顔が写り込んでいた。

伸びをした少女はしなやかに起き上がる。

抱きかかえていた白猫も目を覚まし、主人の肩に乗る。


「ナ、ナナっていいます…」

「…ルウ。その耳…ネプチューンの人?」

「うん…。あたしっ、迎撃作戦で、落下物を処理して…いたんだ。

ルウを…撃ったのは…私だ。

ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ。痛かった…よね」


「ううん、一瞬だったから。あなたは義務を果たしただけ、気にしないで」

「……ごめんなさい」

「もういいよ。ずっと以前に、自殺したネプチューンの子が次々やって来たから、あなた達も…辛かったんだと思う」

「…ごめん、あっ、また言っちゃった……」


鈴を転がすようにルウは笑った。

そして真剣な表情をつくる。


「ねえ、私より後に亡くなったアルテミスがいないから、

現世の状況を知りたいの。お願い、知っている限りでいいから、

私の氏族がどうなっているか教えて……」


ナナは、つっかえ、つっかえで、アルテミスの情報を一生懸命思い出していく。


「ええっと、団長のメイエンはまだ頑張っていて、

『あーみんず・ろっじ』のケーキも相変わらず美味しい。

今は安全マージンをすごく意識した作戦行動を実行するから、

戦死者を出さない氏族として有名。

あとは、んーと、双子の幹部が台頭して注目を集めている。

双星って二つ名も持ってるんだぜ」


「双子……」

ルウの翡翠の瞳が、光を宿したように輝き始めた。


「うん、変わった名前なんだ、ルイなんとかって」

「ひょっとして、ルイウとルイセ?」

「おー、それそれ、そんな名前」

盟妹いもうとたちなの。

私がいなくても、立派に成長してくれたんだ」

盟姉あねがいなくても、盟妹いもうとは育つもんだ。

あたしのネプチューンもきっと大丈夫だな」


腕組みをして一人うなずくナナの肩に、ヤマトが乗っかった。

何か忘れていやしないかい?

そう言いたげな視線を主人に向ける。


「なーにが大丈夫よっ、一人で納得してないでちゃんと呼んでね。

私、ずっと後ろで、呼んでくれるの待っていたんだからっ」

耳をヒクヒクと引きつらせたチハルが、ナナの後ろに立っていた。


「ご、ごめんチハ、忘れてた……」

「はぁ?死んでも、そういうトコ治らないんだね。信じられない」

チハルのシッポの毛が逆立って、倍近く膨らんだ。

「すいません、ホント面目ないです」

耳をぺたんこに倒したナナは、ルウに謝罪したときよりも一層身体を縮めた。


その一連のやり取りにルウは懐かしいものを感じる。

(…盟妹いもうとたちに会いたいな……)


努力家で、ハッキリ意見を述べるルイウ。

しっかり者で、寡黙なため不思議ちゃんと誤解を受けることが多いルイセ。

どちらも愛しく大切なルウの家族だった。


このネプチューンの二人組を見ていると、

現世に残してきた盟妹いもうとたちを思い出してしまう。


どうしてだろう?

白いネコ耳をピンと立て、この珍客たちの会話に耳を澄ます。


ああ…そうか。

この二人は、求めあい、与えあっている。

お互いを引きつけ合う二重惑星のように。


ふと、愛猫を抱いてまどろみながら演算をする日々が、とても退屈に思えてきた。

この嵐の様な二人が離れていくと、きっと寂しくなるにちがいない。


「…になってください」

ルウの声はあまり小さく、

丁々発止の口論を繰り広げるナナたちの声にかき消された。


「……あぅ」

ルウの翡翠色の瞳が若干うるうるする。

使い魔の白猫が、励ますようにルウの頬を肉球で優しく叩いた。


(ルイウ、ルイセ、お盟姉ねえちゃん頑張るからっ)

深呼吸の後、すうっと息を吸い胸を膨らませた。

…今だっ!

「友だちになちってくださいっ!!」


口論を止め、何事かと見つめてくるナナとチハルの視線が痛い。

(最悪…噛んじゃった……私のバカ……)


「いいよ、友達になちろう!なあチハ」

「私たち来たばっかりだから、むしろ心強いよ。こちらからも、ぜひ友達になちってねっ」


「…うぅ…いじわる……」

ルウは、白い肌を朱に染め、白猫の背に顔をうずめた。


やがて三人は、それぞれの使い魔を膝に載せ、

輪になっておしゃべりに興じ始めた。

小春日和のような柔らかい陽光が満たす空間に、

弾む声がいつまでも続いていた。


※4章につづく※

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